飯田市下久堅地域に学ぶ、住民主体の地域づくりと女性の力
2026.08.03
2026年7月29日、JICA課題別研修「マルチセクター(農業・保健・水衛生・教育)で取り組む食を通じた栄養改善」の研修員として参加する9か国17名の行政官が、長野県飯田市下久堅地区を訪問しました。
一行はまず大原さわやかグループの加工所を見学した後、下久堅公民館へ移動し、同グループによるマドレーヌ加工を体験しました。その後、岡島喜子会長やグループメンバー、公民館長との意見交換を行い、農産物加工による付加価値化や女性の社会参画、地域づくりについて学びました。
今回の訪問では、農産物加工による所得向上の事例だけでなく、女性たちが仲間とともに活動を続け、地域課題の解決や地域づくりにつなげてきた実践について学びました。特に、地域住民の主体的な活動を支えた生活改善普及員の存在や、公民館を拠点とした人づくり・地域づくりの取組は、多くの研修員にとって印象深い学びとなりました
大原さわやかグループ岡島喜子会長から、ご主人が長野に戻って農業を継ぐことになった経緯や、「農業に入るなら自分のやりたいことをやる」と決意し、周囲の反対があっても農業に携わる道を選んだことについてお話しいただきました。
当時の地域では養蚕や和紙生産が主要産業でしたが、産業構造の変化に伴い、農家はリンゴ栽培や畜産などへの転換を迫られていました。こうした中で岡島会長は、「一人の力では地域を変えられない」と考え、リンゴ農家の仲間づくりを呼びかけました。
さらに、農業普及センターの米山由子氏の助言や支援を受けながらリンゴ農家8名によるグループを結成し、市役所やJA、保健所とも連携して活動を発展させていきました。岡島会長が「普及センターがなかったら今の私たちはなかった」と語り、行政や普及員との連携の重要性を強調されたことは、各国の行政官にとって大きな学びとなりました。
グループ結成以前、規格外のリンゴや売れ残ったリンゴは廃棄されることも少なくありませんでした。そこで大原さわやかグループは、余剰リンゴを活用した加工品づくりに取り組みました。
岡島会長によると、グループではリンゴを煮てゼリー状に加工した「アップリン」を開発・販売し、多くの人に親しまれました。その後は類似商品が企業によって大量生産されるようになったため現在は製造していませんが、農産物に付加価値を付ける先駆的な取組となりました。
また、規格外リンゴの無人販売やドライフルーツ加工など、廃棄されるはずだった農産物を地域の資源として活用する様々な工夫についても紹介いただきました。
研修員の出身国・地域では、余剰の青果物の付加価値化に関心は高いものの、大事業と捉えてなかなか前に進められていないことが多いようでしたが、加工所をお見せいただきながら、「このような(シンプルな)場所でもできる」「誰でもできる」、ぜひ一歩踏み出してほしい、とエールを送ってくださいました。
岡島会長が何度も繰り返し話されたのが、女性の社会進出でした。
活動を始めた当時は、女性グループの存在は稀であり、女性は発言機会も限られていた状況でした。
しかし、女性の地位向上を目的に、女性が収入を得る、女性が地域活動に参加する、女性同士が学び合う活動を続けてきたと語られました。
また、「重要なのはお金を稼ぐことよりも、社会進出」という考え方も示されました。
女性の社会進出は各国共通の課題。研修員がメモを取りながら熱心に耳を傾ける姿が印象的でした。
岡島会長は、「一人の力は小さい」「仲間をつくることが大事」ということを何度も強調されました。
農村を変えたい、女性を元気にしたいという夢を持って活動してきたものの、社会を変えるには長い時間がかかることも率直に語られました。
また、地域に学生を受け入れたり、交流事業を進めたりすることで外部とのつながりを広げてきたことも紹介されました。
下久堅公民館の藤岡文夫館長もこの研修員訪問に際してお越しくださり、意見交換に参加し、館内案内もしていただきました。
公民館は、地域の人々が学び、交流し、協力する場であり、地域づくりの中核拠点であり、子どもの育成、住民同士のつながりづくり、地域文化の継承、地域課題の解決に向けた話し合いなど、多面的な役割を担っていることをお聞きしました。
この訪問で、「地域を良くしたいという夢を持ち、一人ではなく仲間とともに行動する」、「余剰農産物に付加価値を付け、女性も経済活動に参加しながら地域を元気にしていく」ことを目指した活動について伺うことができました。
そのため研修員たちも、加工技術だけでなく、グループづくり、女性のエンパワーメント、フードロス削減、地域コミュニティ形成について多くの質問を行い、次のようなことを学んだ様子でした。
・農産物に付加価値を付けることの重要性
・規格外品や余剰農産物を活用したフードロス削減
・仲間づくり・グループ活動の力
・女性の社会参加とリーダーシップ
・行政・普及センター・JA等との連携
・公民館を中心とした地域コミュニティづくり
・夢を持って継続的に活動することの大切さ
情熱をもって地域活動に取り組む下久堅の皆さまとの交流を通じて、研修員たちは、地域の力を生かした栄養改善や女性のエンパワーメントの可能性について理解を深めました。
今回の学びが、各国における地域開発や栄養改善の取組に活かされることが期待されます。