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JICA地球ひろば主催「国際理解教育/開発教育指導者研修」開催報告 安部 敏樹 氏(株式会社 Ridilover/一般社団法人リディラバ代表)による基調講演「教室から『一歩』踏み出し、共に学ぶ」

2021年3月17日

2021年2月7日(日曜日)、国際理解教育/開発教育指導者研修(後援:日本国際理解教育学会)の一部として、公開セミナー「ジブンゴト化で世界とつながる」をオンラインで開催しました。今回は、株式会社 Ridilover/一般社団法人リディラバ代表 安部敏樹氏による「教室から『一歩』踏み出し、共に学ぶ」基調講演について報告します。

社会課題を、みんなのものに

リディラバは、2009年「社会の無関心を打破」することを理念にボランティア活動としてスタートし、現在は「社会課題を、みんなのものに。」をスローガンに活動を展開しています。

知識を持つことが、関心につながる

オンラインでの基調講演の様子1

リディラバの実施した調査によると、社会問題に対して「関心」が高まることに影響する要素は、「知識」であることがわかってきました。
普段の私たちのイメージでは、関心の高まりが知識に影響すると考えがちですが、実はその逆で、知識から関心が生まれる関係にある、と示唆されました。その「知識」に紐付く要素は「自己効力感」であり、さらにそれは、「共同体感覚」や「明示的学び」、「暗黙的学び」につながっていると安部氏はお話しされました。
学校教育における教科学習、総合学習、探究学習などは鎖状につながっており、それらをどうやって連動させていくかが重要であるとのこと。つまり教育を提供する側が、生徒や子どもたちの「主体性を喚起するような環境デザイン」をしっかり作れているか、が問われているのです。

生徒の主体性はどう喚起する?

「ある種の“勘違いを生み出す”ということが重要だ」と安部氏はおっしゃいます。
生徒たちは「私ならやれる」という「勘違い」があるからこそ動き始めます。いい意味での勘違いを起こすには、まず「気づく」ということが大事です。自分で気づいたものについては、人は勘違いしやすいし、主体的になりやすい。
では、その気づく力はどうすれば身につくのでしょうか?
安部氏は、何かによって「越境」する経験により、「マイノリティ性の自覚」を持つ機会に出会うことが大事だとおっしゃいました。例えば、留学、転校、いじめを受けたことなども含めて、過去に越境体験による「マイノリティ性の自覚」を獲得している人たちは、社会課題に対して関心を持ちやすく、そこに主体的に関わろうとします。リディラバでは、越境体験による「マイノリティ性の自覚」の機会を作ることを意識して、修学旅行などでのスタディツアーをデザインしています。

越境体験の価値とリディラバ の社会問題スタディツアー

オンラインでの基調講演の様子2

生徒は自分たちに身近すぎるテーマや問題に対しては、客観視したり、課題として切り出すことが難しくなってしまいます。越境して、自分から遠いところや、非日常にある課題の事例を見、それを体験することによって、生徒は身近なテーマや問題でも客観視して切り出せるようになります。そして、切り出されて対象物となったときに初めて、対象に対して「頑張ろう!」という気持ちが生まれます。相対化して客観視しないと、生徒は社会問題を主体的に考えるのが難しいのです。それゆえ、修学旅行などで「越境する体験」をデザインする時には、問題全体がどうなっているのか?を考えさせる「問題の構造化」のステップを入れることが重要です。それがあるからこそ、日常に戻ったときの探究学習やProject Based Learning(問題解決型学習)の質が高まっていきます。

リディラバは、参加者が「社会問題を正しく理解する」ということと、参加者が「社会問題に対して主体的に関わる状態に変化させる」ということを念頭に、社会問題を構造的に伝えることや、ワークショップなどを積極的に組み込み、スタディツアーをトータルでデザインしているそうです。

生徒が社会問題に関心を持つために、今、教師に何が必要か?

安部氏はこの質問に対して、学校の先生や大人自身も積極的に、自分がマイノリティになるところへ越境していくこと、飛び出していくその姿を生徒や子どもたちに見せていくことが重要であり、そうすることで、子どもたちに対して「君もちょっとチャレンジしてみる?」と対等に言えるのではないか、と回答しました。
そして、あらためて、先生自身が社会全体のことを体感して知ること、知識として構造的に理解しておくこと、社会課題に対しての関心と自分なりの意見を持つことが極めて重要なことである、更には、修学旅行やスタディツアー後の生徒の気づきや変化という点について、先生側が望む理想の状態やこうあったらいいなという変化を期待せず、生徒の気づく力が上がっているかどうかを見続けること、そしてその気づく力を高めるためのサポートをし続けることが大事だと話しました。

「社会の無関心の打破」に向けて取り組む仲間を増やしたい

「社会の側からはじかれたと思っている感覚を持つ人が多い。そこを変えたいという思いからリディラバを設立した」と言う安部氏。最後に「社会の無関心を打破」するために、学校・先生とも、民間企業の方々とも、同じ「仲間」として共に取り組んでいきたい、という熱いメッセージがありました。
参加者は勇気をもらうと共に、学校の外に出ていくことで、社会の中で見えていないものに目を向ける機会を作り、主体性を喚起する可能性やその価値を再認識することができました。

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