遠くても近い国、チュニジア

2023.08.28

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チュニジア事務所 所長 上野 修平

2020年の赴任前、私にとってチュニジアは「地中海に面するきれいな国」でした。しかし今では「日本と近い考えをもつ、より関係を深めるべき国」と考えています。今回は、このチュニジアとJICAの協力について、特に最近の取組みについてご紹介します。

1.チュニジアと開発課題

チュニジアは、アフリカの北端に位置する、地中海に面した国です。面積は日本の半分以下、人口は約1/10です。東はリビア、西はアルジェリア、そして北は地中海を挟んでイタリアなどに囲まれています。大半のチュニジア人は、民族としてはアラブ人であり、アラビア語を話し、また多くはフランス語も話します。

首都のチュニスには、白と青で彩られた美しいシディブサイドの街や、2000年以上前のローマ時代から残るカルタゴ遺跡があります。南部には砂漠地帯があり、スターウォーズのロケ地として有名です。チュニジアのオリーブ・オイルは世界に輸出され、最近はハリッサという唐辛子の調味料も日本で見かけます。

チュニジアは、2011年の「アラブの春」の発祥地であり、この「民主化」運動に成功した唯一の国と言われています。しかし課題も抱えており、現在は、低い経済成長率やコロナ禍などの影響を受けた厳しい財政状況、気候変動や40度以上の猛暑日による水や電力の不足といった問題があります。また近年、サブサハラから多数の移民がチュニジアを通って欧州に不法渡航する課題もあります。

2.日本と近い考え・価値観をもつ国

このようなチュニジアに赴任してみると、日本との共通点に気がつきます。まずは天然資源に欠くことからも、「人」の育成を重視する点です。ジョージタウン大学カタール校のサフワン・マスリ教授は、アラブ世界においてチュニジアだけが民主化に成功した理由に、優れた「教育」を挙げています[1]。実際、当地で仕事をする際には、理不尽で強引な交渉に悩まされることはなく、論理的に信頼感をもった話し合いを行うことができます。日本と「共通の土台」があるのだと感じます。

この土台には、教育に加えて「法」の重視もあると思います。1861年、チュニジアは、アラブ諸国の中で初めて憲法を制定しました。150年以上の長い間、人々は法を基盤に生活しています。サイード大統領が2年前に議会を停止した際、クーデターと報じるメディアもありましたが、これは武力ではなく憲法に則った措置でした。多くの国民は大統領を支持し、その後、国民投票により憲法が改正され、現在に至ります。国が「法」を基盤に運営されていることを感じるものでした。

また、日本における中東諸国のイメージの一つにはジェンダー不平等があるかと思いますが、当地に赴任してみると、そのイメージはチュニジアには当てはまりません。ブルギバ初代大統領が、伝統的なイスラム法から離れて女性の権利向上に向け取り組み、これ以降は、男女平等の憲法への明記、男女同数の議員選出などが行われており、2021年にはアラブ諸国で初となる女性の首相も誕生しました。当地では、女性の大臣や局長、社長などとよく仕事を共にしています。

3.JICAの取組み

このようなチュニジアに対し、JICAは、経済発展の支えと社会の安定化を重点として協力しています。昨年と今年、長年にわたり協力してきた発電施設や高速道路が完工しました。税関や港湾で働く政府職員を毎年20人ほど日本にて研修しています。水不足に対しては、上下水道施設の整備に加え、海水淡水化施設に協力するなど、チュニジアの開発課題に対する協力を進めています。

最近では、日本とチュニジアの関係がより深まる協力を進めています。その一つが「JICAチェア」です。大臣や局長などを目指す若いリーダーに対し、チュニジアの国立行政学院(ENA)と連携して、過去に日本が外国からいかに学び、人を育て、産業を発展させたかという開発の経験を共有します。チュニジアの将来のリーダーが日本に関心を持ち、親日派が出てくることを期待しています。

「海外協力隊」も、両国を近づける協力です。コロナ禍においていち早く再派遣し、今では約20名が、音楽、スポーツ、教育などの分野で活躍しています。最近、かつて当地へ派遣された元隊員が、今度はJICAチェア講師として戻り、30年ぶりに当時の派遣先を訪問しました。驚くことに、先方は今でも当時のことを鮮明に覚えており、感動の再会となりました。現在派遣中の隊員からは、多くのチュニジアの子どもたちが柔道やピアノなどを学んでいます。彼ら彼女らの記憶にも「昔、日本人から教わった」ことが残っていく、そう考えると感慨深くなりました。

昨年、チュニジアにてアフリカ開発会議(TICAD8)が開催されました。この際にチュニジアは「協力を受ける」だけではなく、アフリカに「協力を行いたい」と表明し、今年から、チュニジアの実施機関とJICAとが共同で、アフリカ10カ国以上に対して環境や保健の研修を始めています。また、JICAがチュニジアに伝えた「カイゼン」による生産性向上を、今度はチュニジアがリビアに教えることも始まりました。日本とチュニジアが今はパートナーとして、他国への協力を進めています。

4.今後の展望

チュニジアは、アラブ諸国の中でも民主化に成功した国と言われており、教育水準は高く、法を重視し、ジェンダー平等が進む国です。日本と似たような考え・価値観を持つ国であり、JICAはその発展に協力するとともに、これらの協力を通して二国間の関係がより深まり、日本とチュニジアが共に世界や地域の発展に貢献できれば望ましいと考えています。

参考リンク
・チュニジア国立行政学院での「JICAチェア」を開始(2021年12月)
https://www.jica.go.jp/Resource/information/seminar/2021/20211203_01.html
・チュニジアを通してリビアに「カイゼン」が伝わる(2023年3月)
https://www.jica.go.jp/Resource/information/seminar/2022/20230310_01.html
・日本・チュニジアによるアフリカ向け保健研修の修了式(2023年7月)※チュニジア事務所のFacebookサイト
https://www.facebook.com/JICATunisiaOffice/posts/pfbid0aAwep6VBx7YtAEHWsTrf1gkoom65iUpxX1UtJ5mPk3B2BGU9RbpB8ozQyxciZYW4l

[1] Masri, 2017, “Tunisia: An Arab Anomaly”

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