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信頼で世界の「人」をつなぐ ~JICAの「長期研修事業」~

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SDGs
#17 パートナーシップで目標を達成しよう
SDGs

2024.06.12

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国内事業部 大学連携課 高橋 あきつ

現場が国内にある国際協力=「国内事業」

2023年4月にJICAに入構し、かねてより志していた国際協力の仕事に就いてから早いもので1年と少しが経ちました。採用面接では、とにかく何でもがんばりますと意気込み、最初に配属された部署は国内事業部でした。「国際」協力なのに「国内」事業?と、はじめは何をしている部署なのかピンと来ていなかったのが実のところ。そんな私ですが「長期研修事業」の担当となり、現場が国内にある事業にどっぷり浸かって分かった\国内事業の面白さ/をお伝えできればと思います。

国内事業部が担う事業は、主に①本邦研修、②市民参加、③外国人材受入れ・多文化共生支援がありますが、このブログでは、私が担当している①本邦研修の中の「長期研修事業」についてお話したいと思います。

「長期研修事業」はただの奨学金プログラムではない

長期研修事業は平たく言うと開発途上国から行政官等を留学生として受け入れるプログラムですが、ただの奨学金プログラムではありません。

来日する多くはJICAのカウンターパートとなる省庁や政府組織などで行政官として国の発展に携わる方たちで、その他には研究所、民間企業などで様々な角度から国づくりに関わる業務に就いている方々もいます。中堅キャリアの方々に日本の大学で専門性をさらに高めていただき、帰国後はその知識を生かして自国の発展に寄与してもらおうというのが事業の趣旨です。

2024年5月時点で、主に「グローバル・サウス」の100か国から来てくださった1300人以上の長期研修員が、北は北海道、南は沖縄まで、日本全国の大学で修士・博士課程に在籍しています。

日本が得意とする研究分野である防災や農業、灌漑など水に関わる分野に加え、エネルギーや工学に関連する分野の研究をしている研修員の割合が多いですが、文系専攻の方もいます。

2~3年の修士・博士課程の間日本の大学で専門分野の研究に励む一方、日本社会の一員として生活してもらうことも長期研修事業の醍醐味の一つです。

日本での研修期間を通じて日本の文化や慣習、研究の成果に加え、歴史も学び日本がこれまで歩んだ発展の道を知っていただくことで、日本に詳しい「知日派・親日派」人材となってもらう人材育成事業の一面もあります。そのような「知日派・親日派」の方々が「グローバル・サウス」の国々のリーダーとなり、将来的にそれらの国々と日本のつながりがさらに強化されることも期待できます。

                    <ディスカッションする長期研修員> 

日本と開発途上国の間で生まれる循環

日本と「グローバル・サウス」のつながりというと、アフリカのギニアから来た研修員Diallo氏の話が思い出されます。ギニアの小さな町の出身であるDiallo氏とJICAとの出会いは、中学生の時に参加した「中部ギニア農村飲料水供給計画」の竣工式でした。この事業によって地元住民の安全な飲料水へのアクセスの問題が大きく改善されたことから、Diallo氏はいつか日本で水道分野の研究をしたいと思うようになったそうです。

2年前にその念願が叶いJICAの長期研修員として選ばれたDiallo氏は、現在は日本の大学で水と環境の分野の修士課程に在籍しています。将来の展望を伺ってみたところ、日本の企業やギニア政府機関と共同し、水道事業を支えるような事業を立ち上げたいと語ってくださいました。これは、長期研修員が日本と開発途上国の間の循環を生む役割を担った印象深い例の一つです。

               <地域の中学校の国際交流イベントに参加したDiallo氏>

他にも、長期研修員としてガバナンス分野の修士課程で学んだのち、自国ネパールで選挙管理委員会の次官として総選挙実施を指揮し、連邦化と民主化の推進に貢献している例などもあります。第二次世界大戦の敗戦を経て民主主義のもとに近代化した非西洋の国として、日本の復興と発展の経験はモデルケースとして研究され、日本の経験が開発途上国の課題解決のヒントとなることもあります。

このように、長期研修事業は「人」を介して日本の技術や知見・経験を伝えることのできる地道ながらも温かい国際協力なのです。

日本社会へのインパクト

その一方で、長期研修員として来日した方々は日本から学ぶだけでなく、日本社会にインパクトを与える存在でもあります。

日本の大学の研究室は独特の制度をもつと言われることがあります。これは、多くの日本の大学においてそれぞれの研究室の教授をトップとし、准教授や助教、ポスドク研究員や修士・博士課程の学生がそこに所属し、一つの共同体として研究を進めるという体制を指します。この体制の下、大学に在籍する間、JICAの長期研修員もその研究室の一員として指導教員や先輩学生にみっちりと研究指導をしてもらいます。

日本の研究の進め方に慣れるのに時間がかかったりもしますが、研修員が、出身国が実際に抱える社会課題を研究室の日本人学生に共有することで、研究室での議論にこれまでなかったような視点を取り込むことができた、という指導教員の感想を聞いたことがあります。

このような良い刺激は大学に限らず、研修員が暮らす地域にまでも広がります。筑波センター主催で市民が参加できる稲刈りが開催された際、参加した地域の子どもが研修員と共に「アフリカの歌」を歌い踊る場面に立ち会ったことがあります。それを見て、研修員が地域のグローバル化にも貢献しているのだなとしみじみ感じました。もしかすると、その子どもたちにとっては研修員との交流の経験が国際協力の原体験になるのかも、と想像を膨らませたりもしました。

                <筑波センターで地域の子どもたちと交流する研修員>

最後に

JICAに入構するまで、国際協力というと日本の技術を開発途上国に教えてあげるという印象がありました。しかし、実際に事業に関わってみると、実はその効果は相互的なものであることに気づかされます。長期研修事業を通して日本に来てくださる研修員の方々は、まさに日本と開発途上国をつなぐ存在なのです。

このブログでは長期研修員にフィーチャーしましたが、少し視点を変えてみれば、国際協力は日本国内でもあちこちで、そして色々な形で起こっています。そう思うと、国際協力が少し身近に感じられるのではないでしょうか。

以上

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