世界と広島を平和へのアクションで繋いで
2024.08.09
- 前中国センター市民参加協力課 課長 澁谷 和朗(現東京センター市民参加協力第一課 課長)
JICA中国では、現地派遣前の広島県出身JICA海外協力隊員に被爆者講話を聴いてもらう機会を必ず設けています。海外で広島出身と自己紹介すると必ずと言っていいほど、あの原爆が投下されたヒロシマから来たのかと大きな反響があるからです。そのため、まず隊員が被爆者の方から原爆の実相を詳しく知ることが大事と考え、こうした場を設定しています。私も先日隊員の皆さんと共に初めて被爆者の方からお話を伺いました。
被爆者の方のお話の中で「共命鳥(ぐみょうちょう)」という法話からの非戦のメッセージが印象に残りました。二つの頭を持つが胴体は共有している共命鳥。2つの頭同士で対立し、片方を倒すため毒を盛ったところ、結果として胴体を共有する片方にも毒が周り、死んでしまうという話です。このことから戦争に勝者はいない、全ての命は繋がっているというお話でした。また、被爆者の方が「唱えるだけでは平和は実現しない」、「世界情勢や世界の平和に無関心でいることでは駄目」、「自己中心的な煩悩を抑え、相手を思う利他の精神が大事」、「(相互の理解のためには)国際交流・国際協力が必要」とおっしゃられたことも心に響きました。改めて国際協力が平和に向けたアクションとなりうることを実感しました。
では具体的にどのようなアクションが可能なのでしょうか。JICA中国では、広島平和文化センターから被爆資料提供の支援を受け、JICA海外協力隊員の発意により各国で行う原爆展・平和展を積極的に応援しています。最初の原爆展は、内戦を経験した中米ニカラグアで2004年に実施され、これまでに70か国で計202回実施されてきました。2023年には中央アジアのキルギス共和国の首都ビシュケクにある国立歴史博物館で平和を考えるアートイベントが実施されました。イベントの主体となったのは当時グラフィックデザイナーの隊員として活動したビーバーズ侑さんです(現在は筆で有名な広島県熊野町で地域おこし協力隊としてご活躍中)。イベント当日には、広島県三原市出身の合田秀樹在キルギス日本国大使と、広島市出身で祖父母が原爆被爆者である川本寛之JICAキルギス事務所長が参加しました。
グラフィックデザイナー隊員のビーバーズ侑さん(ビシュケクでの平和を考えるアートイベント開催時、博物館の前にて)
ウクライナと戦争中のロシアと地政学的な距離が近いキルギスでは、原爆そのものを前面に出すのではなく、アートを通じ「再起」をテーマにすることでイベントが実現しました。作品「鯉の滝登り」はキルギス人アーティストが作成。さらに、過去に川本所長が大学院での研究で実施した広島の方々へのインタビューから得られたキーワードを、川本所長自らが日本語、ロシア語、キルギス語で「鯉の滝登り」に揮毫しています。鯉ということで大のカープファンである川本所長らしさが伺える作品です。当日の様子は以下の動画をご覧ください。また2023年にチュニジアをはじめアフリカ各地の隊員有志で実施した、平和を繋ぐプロジェクトの動画もぜひご視聴ください。
【キルギス・平和構築】キルギスから広島へ~コイが伝える平和のメッセージ~ (youtube.com)
【チュニジア・平和構築】あなたにとって、大切なものは何ですか…? (youtube.com)
このような世界各地でのJICA海外協力隊員の原爆展・平和展の取り組み、そこで現地の人々から寄せられた平和へのメッセージを、日本の方々にもっと知ってもらいたいと思いました。そこでJICA中国は、昨年は広島平和記念公園内にある広島国際会議場1階ロビーにて、今年は平和記念資料館地下1階で、JICA海外協力隊による原爆展・平和展の取り組みを紹介するパネル展を開催しました。なお、キルギスで展示された「鯉の滝登り」は、海を渡り広島県東広島市のJICA中国でも今年展示されました。
広島平和記念資料館地下1階での展示(2024年)
JICA中国で展示された作品「鯉の滝登り」
JICA中国では、上記の原爆展紹介パネル展に加え、広島の若者がJICA留学生と考える平和への取り組みを実施しています。
そのひとつに、広島平和記念公園を英語でガイドするユースピースボランティア(高校生・大学生)とJICA留学生との交流があります。この交流はガイドする外国人観光客がコロナ禍で途絶えてしまったことを契機に始まりました。ユースピースボランティアの皆さんは、JICA留学生との対話を通じて日本人があまり知らない世界各地の内戦・紛争の実情を知り、JICA留学生は普段は研究で忙しく滅多に日本の若者との対話ができないのでこの機会を楽しんでいました。平和都市広島で共に学び、生活することの意義を改めて感じる機会となったのではないでしょうか。
ユースピースボランティアとJICA留学生との交流(2024年)
広島のユースピースボランティアとJICA留学生との交流を行いました | 日本での取り組み - JICA
来年2025年は被爆80周年となります。今後とも、世界と広島を平和へのアクションで繋いでいくことにJICAとして貢献できたらと思います。
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