世界へ一歩踏み出そう ~協力隊事業の今~
2024.08.28
- 青年海外協力隊事務局長 橘 秀治
パリ五輪・パラリンピックが盛り上がり、日本人選手の活躍に感動したり、元気をもらったりした方も多いのではないでしょうか。今大会にJICA 海外協力隊員が指導した11 カ国計18 名の選手が参加しています。例えば卓球でバヌアツから出場したプリシラ・トミー選手です。バヌアツには未だ国全体で20台も卓球台がないという中で、協力隊員の献身的な指導もありオセアニア予選を勝ち抜き見事出場を果たしました。(パリ五輪・パラリンピックで躍動へ!協力隊コーチが挑む、初めての夏 | ニュース・メディア - JICA)
JICA海外協力隊(あるいは青年海外協力隊)と聞くと「アフリカに井戸を掘りに行くのですね」というイメージを持たれる方が未だに多いかもしれませんが、実は180以上の職種があり、スポーツの指導をはじめ、教育、保健、環境教育や経営・マーケティングなど様々な分野での派遣があります。現在、約1500名の協力隊員が世界74か国で活躍しており、その6割弱が女性です。
プリシラ・トミー選手を指導する髙嶋諭史隊員
派遣される分野は多様化していますが、事業創設以来、変わらずに大切にしていることがあります。それは“協力隊員は途上国現地の人々と共に暮らし、一緒になって汗を流して課題解決に取り組む”ということです。“よそ者”しかも“外国人”という立場からの気づきを活かしていく必要はありますが、“先進国である日本から教えに来ました”という上から目線では活動は上手く進みません。パートナーとして一緒になって解決策を見出していくというスタンスが重要となります。
ただ、国籍も人種も生活様式も価値観も異なる人間と広く関り、共感を得ていくことはそんなに簡単ではありません。色々な壁にぶつかり、多くの苦労や失敗をしながら活動することになり、そこに様々な気づきや成長の機会があります。その結果、帰国した隊員の多くは「教えに行ったつもりが教えられることの方が多かった」、「助けるつもりが現地の人に助けられた」という感謝の言葉を口にします。
今、帰国した海外協力隊員は日本国内でも活躍しています。日本社会も地域活性化や多文化共生社会づくりなど様々な課題があり、海外協力隊の経験を活かせる機会があるためです。
協力隊経験者を日本の社会課題解決の現場に環流させていく仕掛けとして2年前よりグローカルプログラムという取り組みを開始しています。これはJICA海外協力隊合格者のうち、帰国後も日本国内の地域が抱える課題解決に取り組む意思を有する希望者を対象に、自治体等が実施する地域活性化、多文化共生等の取組みにOJTとしての参加機会を提供するものです。現在、このプログラムを14都道府県23地域で実施しており、毎年100名を超える方が参加しています。JICA海外協力隊としての活動を終えてからも、その地域とのつながりを大切に国内の社会課題の解決に取組む若者が増えることを期待しています。(JICA海外協力隊グローカルプログラム(派遣前型) | JICA海外協力隊)
島根県海士町にて農作業を体験しつつ、農業の持続性について考える
JICAは帰国したJICA海外協力隊が社会課題の解決により一層取り組んでいけるよう、新たな取り組みを2つ始めました。
1つ目は「社会還元表彰」というものです。これは帰国した後もその経験を日本社会等へ還元する取組を行っている方を表彰するものです。貧困家庭の子供たちを支援する活動、地域活性化のための起業、所属する企業の海外展開、職場での外国人材受入れなど、その経験の活かし方は様々です。このような取り組みをしている方を多くの方に知って頂き、また、後に続く若者が増えていくことを期待しています。(第 2 回 JICA 海外協力隊社会還元表彰 式典を実施・大賞が決定しました!!
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2つ目は「JICA海外協力隊 起業⽀援プロジェクト BLUE1」です。これはJICA海外協力隊を経て得られた経験と新しく生まれた価値観にこそ社会の課題を解決するビジネスのアイデアが眠っているという考えの下、世界の、日本の、地域の課題に「社会起業」という形で挑みたいという若者を応援するものです。具体的には社会起業家を輩出してきた㈱ボーダレス・アカデミー監修の下での起業伴走プログラムの実施や、多彩な「問い」から社会価値を生み出す共創拠点であるSHIBUYA QWSにJICAスタートアップハブも開設などを行っています。(BLUE - JICA海外協力隊起業支援プロジェクト)
JICA海外協力隊事業は来年60周年を迎えますが、このように見ていくと時代の変化に合わせて事業も変化していることをご理解いただけたのではないでしょうか。このような変化を分かり易くお伝えするために帰国した7人の協力隊員のストーリーをまとめた書籍を出版させて頂くので、最後に紹介させて頂きます。
詳細はこちらをご覧ください。
海外協力隊から帰国後、社会問題に立ち向かう7人の実践ストーリー『JICA海外協力隊から社会起業家へ 共感で社会を変えるGLOCAL INNOVATORs』刊行 | ニュース一覧 | 文芸社 (bungeisha.co.jp)
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