「水平方向で真の共創関係築く ODA・JICAが目指す方向性」
2024.11.11
- 原 昌平 理事
(国際開発ジャーナル2024年10月号 | 国際開発ジャーナル社 International Development Journal (idj.co.jp) より転載)
今後世界はどうなるのか、世界の課題に対し、日本はいかに対応するのか。それらを映す鏡の一つがODAである。
先日、出張先のキーウで、ウクライナ政府の幹部が口々に、「JICAは迅速かつ柔軟」と評価してくれた。社交辞令半分だとしてもとてもうれしかったとともに、ウクライナ支援は今後のODA・JICAのあるべき一つの側面を映していることに気づかされた。
刻々と変化する情勢の中、JICAは現地のニーズに早く応えるべくさまざまな努力を行っている。緊急ニーズ調査、技術協力、円借款、無償資金協力、海外投融資といったツールを最大限に活用し、コンサルタント、調達代理機関をはじめとする幅広い関係者と一丸となり創意工夫を重ねてきた。また、カンボジア地雷処理センタ-との連携など国内外のネットワーク・経験・知見を動員し、成果を次々に形にしてきた。冒頭の言葉は、そのことに対するウクライナ側の率直な評価なのだと思う。
新興ドナーの勃興、ビジネスによる社会課題解決など、開発途上国の選択肢が増え、早くて目に見える成果が求められる状況の中、「選ばれる日本のODA・JICA」であるために、スピードと柔軟性をODAの付加価値として明確に位置付けたい。我々自身の「手続き重視のDNA」を自覚・克服し、相手国と向き合い、ニーズに迅速かつ柔軟に対応すること。これをウクライナ限りの好例とせず、日本のODAのデフォルト(標準)にしていきたい。
ひと昔前、OECD開発援助委員会(DAC)の年次報告書2014年版は、「今や途上国への資金フローの一部に過ぎないODAは、他のリソース(資金や知恵)にレバレッジを掛けて動員してこそ、膨大な開発課題解決に役割を果たせる」とした。
当時、日本の関係者間では、「レバレッジ」や「動員」は、「ファイナンスの話」と見られがちだった。「ODAの触媒効果」の成功例はよく指摘されるが、計画段階から明確な意思に基づき、さまざまな利害・資金・ノウハウをもつ関係者を巻き込みながら、事業実施やスケールアップの過程まで共に進めていく「レバレッジ」「動員」の取組は端緒についたところだ。
気候変動対策をはじめとした複雑かつ膨大なニーズの前に、ODA事業単体が実現できることの一つ一つは「点」にすぎず、自前のスケールアップにも限界がある。さらに、財政制約は厳しくなっていく。一方、ビジネスによる社会課題解決にあたり、ODAが後押しになることもある。このような環境下、限られた資源を最大限に生かし持続的な課題解決につなげるために、ODAによる「レバレッジ」「動員」の重要性が昨今改めて認識されている。
本年7月、外務省「開発のための新しい資金動員に関する有識者会議」
は、「ODAを触媒として、多様な主体が連携し、民間企業・投資家自身が経済合理性に基づく投資を行うことで、結果的に途上国の開発へとつながっていくような『エコシステム』が作られ、成長していくことが重要」、「官と民が水平方向で、事業の調査・形成段階から真に共創できるような双方の姿勢と、対話と協働の継続、これらを踏まえたODAの制度作りが求められる」とした(下線部引用者)。
同提言を受け日本政府・JICAは、サステナブルファイナンス拡充に向けた制度や組織の整備に取り組み、具体例を鋭意作り出していく。それと並び重要なことは、上記下線部の考え方が、資金協力のみならず全ての事業やJICAの在り方全般に当てはまると認識し、投入する予算の何十倍・何百倍もの効果を広げるように働きかける、そのように我々自身が変わっていくことだ。
ODA・JICAが、さまざまなプレイヤーと「真に共創」するためにどうしたら良いか。
従来のODA事業は、そこに投入する資金・人材を含めJICAが全体をコントロールするのが基本だった(「甲乙関係」)。一方、「共創」とは、従来関わりの薄かった組織や企業にも接点を広げ、共に新しい価値を「水平方向」で創るものであり、「甲乙関係」からのパラダイムチェンジが求められている。
私自身、中小企業・SDGsビジネス支援事業や海外投融資事業に携わり、企業中心で事業が進むこと、JICAの仕組みがピタッとはまらないこと、他の金融機関とのリスク分担が基本であること、また関係者間のせめぎ合いなども経験し、「共創ってこういうことか」と痛感したものだった。
開発協力の目的・方向性(シナリオ)、共創の道しるべとして、JICAは「グローバルアジェンダ」を定め
、分野ごとの課題設定、共創の場づくり、ビジネス機会の創出、そのための資金動員などを進めている。JICAが課題・目標を設定し、その実現に向け幅広い関係者の理解と参画を促すものだが、他のプレイヤーのシナリオに、JICAが自身の強みを生かして参画することが増えていってよいと思う。
また、現状ほとんどのスキームは、「持てる者が持たざる者を扶(たす)ける。そのためのルールは持てる者が設定する」というビジネスモデルになっている。今後、日本と開発途上国との関係がより水平的になり、「開発途上国との共創」や「日本社会への環流」の重要性が増すことを想定すると、今我々はODAのモデルチェンジの大きな節目に立っているのだ。
「迅速かつ柔軟な」「レバレッジをかける」「モデルチェンジする」ODAに向けた胎動はすでに始まっている。JICAでは、調達改革はもとより、JICA DX Lab (デジタル技術と事業現場を活用した共創の場)、JICA BLUE (海外協力隊起業支援プロジェクト)、サステナビリティ推進 、「ジャイカサンドボックス」(共創を促すコミュニティ機能+革新的なアイデアをスピーディーに実験する場)、寄附金の拡大 など、外部とつながった動きが続々と出てきている。いずれも内発的なイニシャティブで、若いスタッフの発意を大切にし、いくつかには在外事務所のナショナルスタッフも参加している。私のようなトウの立った者も、見守るだけでなく積極的に参加し新たな地平を切り拓きたい。今後どう展開していくか、とってもワクワクしている。
最後に、「不易流行
」という言葉を記したい。複合的危機により格差が拡大し、SDGs達成が危ぶまれる今こそ、日本国憲法前文が掲げる国際協力の原則、そして「人間の安全保障」を日本の開発協力のゆるぎない柱として再確認すること、地球規模課題や貧困問題にしっかりと取り組むことが不可欠だ。また、日本・JICAの協力の価値はやはり「人と現場
」にある。開発とはより良い未来に向けた長い期間を要する営為であり、現場に寄り添い、相手国の人々と信頼を培いながら共に前に進むことにこそ日本らしい協力の真価があり、世界で生きる日本の将来を創ることにつながると思う。
このような「原点」からブレないよう「体幹」をしっかりと鍛えつつ、新たな方向性を積極的に取り込んでいきたい。
90カ国以上に拠点があり、現地で市井の人々から高官まで直接つながりを持つ、きわめてユニークな存在であるJICAの価値は、今後の世界でこそ高まっていくものと信じている。
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