カザフスタンの援助機関「KazAID」からのインターン:中央アジアの未来を築くパートナーシップ

2025.05.16
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- 東・中央アジア部 林愛子
経済成長の著しいカザフスタンで設立されたばかりの国際開発庁(KazAID)から、2名の職員をインターン生として迎え、本部での活動や地方訪問を通して、日本との新たな連携可能性を模索しました。
豊富な天然資源を有し、近年著しい経済成長を遂げているカザフスタンで、2020年12月に外務省傘下の組織として設立された援助機関が国際開発庁(KazAID)です。
同国のODAは、主に中央アジア諸国とアフガニスタンを対象とした域内の平和と安定及び持続可能な発展に向け域内の問題解決支援を目的としています。JICAはこのような取り組みに賛同し、2014年、同国の「ODA法」制定以降、国別研修や技術協力プロジェクトを通してKazAIDの設立を支援してきました。設立後の2022年12月にはKazAIDとの協力覚書を締結し、以降、技術協力専門家の派遣を通じて、ODAの円滑な実施のための組織力強化や制度整備、職員の能力強化を図っているほか、周辺国への協力でも連携しています(*1)。
カザフスタンのODA供与額は、2013年の800万USDから2022年には3,686万USD(*2) と増加している一方で、KazAIDの職員数は2024年時点で17名に過ぎず、ODA実施機関としての事業運営能力ならびに協力ノウハウの不足などが組織課題となっています。
案件形成、実施監理、事業評価等のODA実施全般に係るプロセスをJICA本部で学びたいというKazAIDからの要望を受けて、2025年3月3日から14日までの2週間、東・中央アジア部 中央アジア・コーカサス課および経済開発部 民間セクター開発グループにて、KazAIDの職員2名を「インターン生」として受け入れました。
本部では、通常業務を行う職員とコミュニケーションを取りながら、案件形成にむけた国連機関との会議、JICA内部での検討会・打ち合わせなどに同席したほか、JICAの様々な部署によるブリーフィングが実施され、どの場面でも質問や意見が活発に飛び交いました。
井本理事表敬
国連開発計画(UNDP)、JICA地球環境部、東・中央アジア部との協議に同席しました
また、カザフスタンにおけるビジネス振興の分野で活動するJICA専門家・村山満穂氏の日本国内での活動に同行するため、新潟県も訪問しました。
雪化粧の山々を横目に見ながら、最初に降り立ったのは長岡市。今は花火の街として有名なこの地域は、2004年に発生した新潟県中越地震によって甚大な被害を受け、多くの尊い命が失われました。この地震をきっかけに設立された、公益社団法人中越防災安全推進機構の河内毅様から、新潟県中越地震の経験と教訓についてレクチャーを受け、自助と共助の概念、市民ボランティアのネットワーク構築などの貴重なお話を伺いました。日本と同様、中央アジアにも地震災害のリスクがあり、近年、人々の危機感や防災への関心が高まっています。インターン生からは、「カザフスタンだけでなく中央アジアの国々に対し、今回学んだ内容を広く発信したい」と非常に強い関心が寄せられました。奇しくも、その日は3月11日。日本や世界で多発する災害から一人でも多くの命を救うために何ができるのか、考えさせられる機会となりました。
長岡市の防災施設の見学
長岡市の次は新潟市に移動し、新潟大学の研究マネージャーで元JICA新潟デスクの中村史様より、新潟県が国際関係上抱える課題とそれを解決するためのJICAとの協力についてお話をいただきました。インターン生は、「新潟大学×農業×カザフスタン」の連携アイデアを早速提案し、彼らの積極性とダイナミズムを直に感じ取ることができました。
最後の訪問先は、新潟経済同友会。同友会は、新潟企業による海外へのビジネスミッションを計画しており、2025年度はカザフスタンとウズベキスタンに訪問予定です。それぞれの国について参加企業に知っていただくため、カザフスタンに関する講演でJICA専門家の村山満穂氏から、同国の概要と投資先としての魅力をご説明いただくと、同友会の方々からは「カザフスタンとウズベキスタンはどちらも高い経済成長率を誇るポテンシャルのある市場であり、日本含む海外企業との連携に強い関心を抱いているため、ミッション派遣先に選んでよかったと思っている」との声が聞かれました。インターン生と同友会の方々との意見交換は、新潟県とカザフスタンの経済交流のポテンシャルが感じられる場面となりました。
新潟経済同友会の会合にて。(右からKazAIDのMs. Ainur, JICA専門家の村山氏、KazAIDのMr. Alisher, 経済開発部の大越)
JICAは、中央アジアでの広域協力を推進するための対等なパートナーとして、カザフスタンと協働していく方針を打ち出しています。かつて援助を受けながら、戦後の経済成長に伴いODAを拡大してきた日本の経験は、現在のカザフスタンの立場にも重なるもので、KazAIDの発展にも役立つと考えました。また今回の受け入れを通じて、国際援助において多様なアクターを巻き込むことの重要性や、途上国支援への国民理解向上という共通の課題にも気づくことができ、今後のJICAとの協力における新たな視点を得られたと考えています。
最後は、インターン生のお二人から頂いたメッセージで締めたいと思います。
Development is not just about economic growth, but about striking a balance between sustainability, innovation, and equal opportunities. By bringing together knowledge, expertise, and a commitment to progress, JICA plays a vital role in shaping a future where nations do not compete but support each other's growth.
The internship allowed us to see the importance of collective efforts in addressing global and regional challenges. We realized that partnerships between countries are not just about diplomacy but serve as a mechanism that enables meaningful change.
Despite today's world of rapid change and increasingly complex challenges, JICA remains steadfast in its mission to strengthen ties between nations, support sustainable development initiatives and create new opportunities for future generations. This approach is inspiring, proving that progress is impossible without dialogue, trust and collective problem-solving.
We are sincerely grateful to JICA for this invaluable experience. It has not only broadened our understanding of international development, but also strengthened our belief that positive change begins with collective effort. May this journey continue, opening new horizons for cooperation and sustainable growth.
開発とは、単に経済成長を目指すものではなく、持続可能性、革新、平等な機会のバランスを取ることです。知識、専門技術、進歩への献身を結集することで、JICAは、各国が競うのではなく、互いの成長を支える未来を創る上で重要な役割を果たしています。
インターンシップを通じて、私たちは、グローバルな課題や地域的な課題に対処する上で、集団的な取り組みが重要であることを理解しました。また、各国間のパートナーシップは、外交上の問題にとどまらず、意義のある変化をもたらす仕組みであることも理解しました。
急速な変化と複雑化する課題が山積する今日、JICAは、国家間の絆を強化し、持続可能な開発イニシアティブを支援し、次世代のための新たな機会を創出するという使命を堅持しています。このアプローチは、対話、信頼、そして集団による問題解決なくして前進は不可能であることを証明しており、非常に感銘を受けます。
JICAには、このような貴重な経験をさせていただき心より感謝します。この経験は、国際開発に対する私たちの理解を深めるだけでなく、前向きな変化は集団の努力から始まるという信念を強めるものでもありました。この旅がこれからも続き、協力と持続可能な成長のための新たな地平が開かれることを願っています。
信濃川の河畔にて
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