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- 道路 未来へ続く道を造る mundi 2018年11月号
- 長く使える 道路造りを目指して ラオス
東南アジアを東西に横断して太平洋とインド洋をつなぐ「東西経済回廊」。
その道は、この地域全体の経済成長に大きく貢献する。
ラオスを貫く国道9号線はその主要道のひとつだ。
道路整備や維持管理でその大動脈を機能させるコンサルタントの活躍をレポートする。
ラオスを東西に走るサバナケット県内の国道9号線。プロジェクト施工後。
熱意と工夫で国道9号線を守る
ラオスを東西に貫き同国の経済を支える大動脈、国道9号線。この道路には、日本企業をはじめ多くの企業が進出する経済特別区が沿道にあり、ラオス国内のみならず、タイとベトナムをつなぐ国際幹線道路としても物流を支える。JICAは、無償資金協力により国道9号線を整備し、またその維持管理能力を強化するための技術協力を行ってきた。維持管理の専門家としてラオスで長年活躍してきたのが高橋君成さんだ。
「国道9号線の総距離は240キロ。2011年に全区間を走行した時、実に6時間かかりました。ポットホール(小さな穴)や轍(わだち)ぼれ(注1)だけではなく、道路の表層の下部にある路盤や路床といった舗装が構造的に損傷しており、特に夜間の走行は危険を伴いました。国際物流を担う道路であったため、当時は相当の荷傷みもあり、国際物流は他の国道に迂回していたと聞いています」
道路の設計寿命は約10年、長く見て20年。ラオスは日本の本州と同じくらいの国土面積に700万の人口しかいない。予算に制約があるため安価な簡易舗装が多く、しかも山がちで雨の多い地域のため、計画的に道路改修と維持管理を行う必要がある。プロジェクトを開始した高橋さんたちのチームは、早々に頭を抱えることになる。2011年の首相令による計量所運用の停止によって、外見上はまだ走れる状態であった国道9号線に、過積載のトラック通行が横行するようになったのだ。あっという間に道路は傷み、橋梁は落橋するなどの損傷が起こっていった。当初見込んでいた道路改修や維持管理のための予算だけでは、とても対処できる問題ではなかった。
そんな中、高橋さんたちが最初に試験的に行った3.1キロの改修が、現地政府から高い評価を受けた。結果、その後3年間をかけて国道9号線の整備に向けて700万ドルが予算化されたのだ。もちろん、過積載への対策にも乗り出した。JICAも、地方政府によるトラック計量など、道路を長く健全に使用するための道路管理を積極的にサポートした。
「今では全区間を3時間で走ることができるようになっています」
ラオス政府が道路の維持管理のために予算を確保することができるようになったのも、JICAの助言によるところが大きい。当時の道路維持管理予算は年間20億円。この金額では将来の維持管理のための費用の25パーセントしかまかなうことができないため、財源確保の重要性を粘り強く伝えてきた。政府はそれを理解し、段階的に燃料税の引き上げなどを行って、現在では年間80億円を確保するまでになっている。
維持管理にはポットホール・ひび割れの補修、道路端の草刈り、側溝の清掃など日常的なケアも欠かすことができない。高橋さんたちは道路改修を行いながら、日常の維持管理において民間を活用した性能規定型契約(PBC(注2))の導入も行った。これまで現地政府は、道路が損傷したら事後的に補修する対症療法で、日常的な維持管理が行われてこなかった。だが、適切な日常維持管理を行えば、結果的に低いコストで長期間道路を使うことができる。一方で、現地政府は人材も不足し監理業務に人も時間も割けない。そこで、日常維持管理に関して民間企業と性能規定型契約を結びたいとの要望が出てきたのだ。
「ラオスの民間企業は長年、仕様書で決められた工法や補修した箇所の数量に応じて支払いを受けてきました。そのような民間企業に『あなたに工法や数量はお任せします』『多少の損傷は認めるが、規定の損傷内で収めるサービスレベルで管理してください』と言っても、なかなか現場まで理解が行き届かない。実際に現場で維持管理をしながら、体で覚えてもらうほかありませんね」
9号線でのさまざまな工夫が、ラオス全体で今後効果を発揮することが期待される。
(注1)車両のタイヤが集中して通過するところにできる帯状の凹み。
(注2)PBC:Performance-Based Contract。実施された工法や数量ではなく、発注者によってあらかじめ定められた道路の性能・基準にどれだけ合致しているかに基づいて支払いが行われる契約。
ラオス ビエンチャン
プロジェクト施工前の国道9号線。
過積載トラックによって路面は削られ、橋梁の崩落などが起こった。写真はチャンパサック県で起こった崩落。
道路の改良や維持管理には、現場の技術者の育成も重要。プロジェクトで行われた技術講習会の模様。
プロジェクトで行われた道路維持管理研修の様子。
道路の長寿命化には過積載への対策も欠かせない。JICAが整備した計量所での計量の模様。
国際開発センター 高橋君成さん
2011年9月からラオスの道路維持管理を強化するプロジェクトに総括として従事。他にカンボジアのプノンペン公共バス運営改善プロジェクトに携わるなど、東南アジア各所の交通の発展のために日々奮闘している。
高橋君成さん
高橋さんとラオス南部の村の村長たち
ラオス
国名:ラオス人民民主共和国
首都:ビエンチャン
通貨:キープ(Kip)
人口:約649万人(2015年ラオス統計局)
公用語:ラオス語
1975年12月にラオス人民民主共和国として成立。日本とは伝統的に良好な関係で、1955年に外交関係が樹立され2015年には60周年を迎えた。インドシナ半島の唯一の内陸国で道路輸送の重要性が高い。国土の8割を高地が占める。
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