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特別レポート 尾木ママ、モンゴルへ行く!

教育評論家として活躍する尾木直樹さんが、2018年10月7日から12日までモンゴルを訪問。JICAが協力する教育現場を見てきました。

文:尾木直樹 協力:臨床教育研究所「虹」

【児童中心型教育支援プロジェクト(PROCESS)】PROCESSで支援する学校で、理科実験の授業を視察する尾木さん。

【児童中心型教育支援プロジェクト(PROCESS)】PROCESSで支援する学校で、理科実験の授業を視察する尾木さん。

勃興期の鳴動溢れる教育現場

1924年、旧ソ連に次いで世界で2番目に社会主義国家となったモンゴル。4半世紀前に社会主義を放棄して自由主義圏に入り、発展の途上にありました。

そんなモンゴルの教育は今、大変な勃興・変革の時期にあり、「児童中心型教育支援プロジェクト(PROCESS)」、インクルーシブ教育を進める「障害児のための教育改善プロジェクト(START)」、産業人材の育成を進める「工学系高等教育支援事業(M-JEED)」などがJICAの精力的な協力の下、進んでいます。今回は、変わりつつあるモンゴルの教育現場を視察してきました。

子どもを中心にした教育を目指して

まず現地で驚いたのが、国家規模でのインフラ整備の遅れです。首都ウランバートルの中心部から街を見渡すと、少し離れた小高い丘にはびっしりと立ち並ぶ簡素な建物やゲルが。地方から出てきて、空いている土地に許可なく家を建て、住んでいる人もいるそうです。これらの地区は貧困層が多く、貧富の差が大きいという国の課題も一見してわかりました。道路は車優先で、交通ルールは〝ないに等しい〟状態。歩道もほぼ整備されておらず、段差だらけ。そのせいか車椅子や白杖を使っている方を見かけることはありませんでした。

都市部を離れ、遊牧をする家族のゲルも訪問した。

都市部を離れ、遊牧をする家族のゲルも訪問した。

モンゴルの学校は近年の人口増加で校舎が足りず、基本的に小・中・高一貫校で、授業は2部制あるいは3部制でした。授業の入れ替えを待つために子どもたちが整然と廊下に並んでいる様子、1クラス50人を超える小学1年生の教室…。教育環境の厳しさは想像以上でした。3部制の学校では、子どもたちは日中に家の手伝いをしてから通学し、最後の授業が終わるのは夜の8時。冬は氷点下40度になることもある厳寒の中、小学生が帰宅しなければならないのは本当に命がけでしょう。そんな環境でも総じて子どもたちのやる気は高く、学びたいという強い意欲を感じましたね。

モンゴルの教員による授業は、教科書を読み、解説するだけの形式が定番。子どもたちがどのくらい理解できているのかにまで意識を向けることは難しいようです。そんななか、JICAは児童中心型教育の普及やカリキュラム・マネジメントの定着化の協力を行っています。私が視察した青年海外協力隊員で理科を教えている教員の箭木(やぎ)慎太郎さんの授業は、モンゴルの教員にとって非常に参考になるものだったと思います。授業の組み立て方や実験内容の設定、子どもたちとのコミュニケーションの取り方など、いろいろなことが吸収できると思いました。授業運営は、実際の授業を見るのがいちばんよくわかるんですよね。

おたがいに学び合う関係に

また、STARTを実践している学校では、とても驚いたことがありました。これまで特別支援学校に通っていた耳の聞こえない子が編入してきたところ、周りの子どもたちがどんどん話しかけるものですから、言葉が出るようになったそうなんです。さらに、今度はその子がクラスメイトの求めに応じて手話を教え始めた。限られた環境だからこそ生じたできごとかもしれませんが、インクルーシブ教育の原形とも言えますね。

M-JEEDでは、生徒たちの学びへのモチベーションの高さに圧倒されました。日本の高専への留学プログラムに参加する生徒たちは、およそ1年3か月で授業が受けられるレベルまで日本語を習得します。彼らに将来の夢を聞いたところ、「工学を学んで、国産車を作りたい」「国際試合のできるスタジアムを造れる建築家になりたい」など、自分の夢と国づくりを見事に重ね合わせていました。大望を語る若者たちの目の輝きが強く印象に残りました。

モンゴルは経済も教育も課題山積ですが、勃興期の鳴動に溢れていました。子どもの権利法や子どもの保護法をいち早く成立させるなど、そのフットワークの軽さには日本も学ぶところが多そうです。日本は2020年から新学習指導要領が始まり、子どもたちがSDGsを達成するような、持続可能な社会を創る主体となることがひとつの目標になっており、世界に目を向け、広い視野を持つ必要性がますます高まります。日本とモンゴルは、単に支援する側とされる側という関係ではなく、おたがいに学び合い、元気やパワーをもらい合う関係を築いていけるはずです。私もモンゴルで見聞したことをさまざまな場面で発信し、少しでもそのお役に立てればと思っています。

【障害児のための教育改善プロジェクト(START)】STARTを実施する学校では、自由に子どもたちに声をかけ、交流した。

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【工学系高等教育支援事業(M-JEED)】円借款による支援が行われている「M-JEED」の実践校では、生徒たちに将来の夢を聞いた。

【工学系高等教育支援事業(M-JEED)】円借款による支援が行われている「M-JEED」の実践校では、生徒たちに将来の夢を聞いた。

ウランバートル市で障害者の社会参加促進プロジェクトに関わる専門家たちと。

ウランバートル市で障害者の社会参加促進プロジェクトに関わる専門家たちと。

教育省事務次官のバヤルサイハン氏と会談。

教育省事務次官のバヤルサイハン氏と会談。

プロフィール

おぎ・なおき

1947年滋賀県生まれ。教育評論家、法政大学特任教授、臨床教育研究所「虹」所長。早稲田大学卒業後、22年間にわたって私立高校、公立中学校で子どもを主役とした創造的な教育を展開。その後大学教員を22年間務める。著書は200冊を超え、メディアへの登場も多い。

チンギスハン像の前で。

チンギスハン像の前で。

尾木ママによる公開セミナー開催

尾木直樹先生をお迎えし、公開セミナーを開催します。尾木先生がモンゴル訪問を通じて感じたことを、学校の先生方への応援エールとともにお届けします。学校教育に関わる方にオススメです。

日時:2019年2月10日(日)10:00~
会場:JICA地球ひろば 定員:先着150名様
申し込み:氏名・所属先を記載の上、メールにてJICA地球ひろば・教員向け研修運営事務局まで。
締め切り:2019年2月7日(木)
E-mail:jica-edu@mediasoken.jp
問い合わせ:0120-441-172