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- 高橋尚子さんのタンザニア訪問記 道を切り開こう タンザニア
タンザニア初の女子陸上競技大会「Ladies First」(レディーズ ファースト)の開催など、自国の女子スポーツ界を変えるために奔走しているジュマ・イカンガーさん。
その取り組みに感銘を受けた高橋尚子さんは、タンザニア女子選手たちの夢を実現に近づける力になりたいと、日本から1万キロ以上の距離を超え、タンザニアへ飛んだ。
イカンガーさんは1980年代、瀬古利彦選手とデッドヒートをくり広げたタンザニアマラソン界の英雄。現在、JICAタンザニア事務所広報大使も務める。現役時代に毎日練習をしたアルーシャスタジアムにて。
レポート1 ダイヤの原石を育てる
私が行ったのはアルーシャスタジアムでのマラソンクリニックです。2019年1月18日、集まった約100名の選手の中には、JICAとイカンガーさんが協働で取り組む「Ladies First」の出場選手たちの姿も。同競技会の種目である1万メートルで2年連続入賞し、2018年10月の山形県長井マラソンでもフルマラソンで優勝したアンジェリーナ・ジョン選手は、二人の子どもと離れて合宿生活を送り、東京五輪を目指しています。
〝スポーツは男性がするもの〟という意識が根強く、世界と比べてまだ女子選手の進出が遅れているタンザニア。イカンガーさんは、彼女たちの誰かが東京五輪に出場することが成功例となって女性アスリートへの理解が国内で広がることを期待しています。私も東京五輪が持つその大きな意義を肌で感じながら、期待を込めてこの日の指導を行いました。
「姿勢よく、目線を高く、1歩前に出る時の感覚を意識!」と日本の選手が取り入れている練習を指導。
ウォーミングアップにトラックを2周。
「勝てる選手になるためには、体を自由に動かせることが大切」と、手足の動き作りのトレーニング。
「東京でメダルをとってタンザニアの誇りになりたい」と希望を込めて語るアンジェリーナ・ジョン選手。
- 女子陸上競技大会「Ladies First」、実施団体:JICAタンザニア事務所
レポート2 輪が広がり、夢が広がる
「『Ladies First』が他のスポーツにもよい影響を与えています」と語るのは、タンザニアで女子中学生にソフトボールを指導するシニア海外協力隊員の岩崎広貴さん。教え子の中に、テレビで放送された同競技会の様子を見て自分もスポーツをやりたいと、ソフトボールを始めた14歳のシリマヨさんがいます。チームのキャプテンで、最近、国際大会の代表選手にも選ばれました。ソフトボールを始めた当初は、男子がやるものよと、友達にも反対されたそうですが、今ではその友達もチームメイトです。「コーチに基礎からしっかり教えてもらえることがうれしい」と話し、岩崎さんとの強い絆を感じました。
途上国でのスポーツ普及における共通の課題のひとつは、指導者不足。日本で高校教師として長年野球を教えてきた岩崎さんのような方が指導者を育てて、選手たちの夢をつなげてほしいと思います。
岩崎広貴さん(写真中央)。
「自分はここに来るために野球を続けてきたと思える時がある。好きなことを続けることで道が開けることを伝えたい」と語る岩崎広貴さん。
レポート3 女性の社会進出を後押し
女性が輝く社会の実現に向けての動き-それは「さくら女子中等学校」でも感じることができました。タンザニアでは、女子教育に対する意識の低さなどから初等教育までしか受けられず、一方で若年妊娠・望まぬ出産を経験する女子生徒も少なくありません。そこで、女性リーダー育成のため全寮制の同中等学校を運営し、特に理数科目の強化を行っているのが「一般社団法人キリマンジャロの会」です。2016年の学校設立当初は24名だった生徒が現在は162名に。次世代の女性活躍のロールモデルとなることが期待されています。
ここで私が視察したのは、学校で初めて行われた性教育の授業です。企画はNPO法人「Class for Everyone」。女性の約3割が19歳までに妊娠・出産を経験し、その多くが学校教育からドロップアウトしてしまう現状を変えるため、絵本を使った性教育プログラムの普及をJICAの協力で進めています。
「私は17歳で妊娠して学校を退学しました。家からも追い出されて、誰からも認めてもらえずすごく苦労しました。同じような状況をつくらないよう、自分の経験を反面教師として皆に伝え続けています」と語るのは先生のアナさん。
つらい経験を伝えるとても難しいテーマの授業ですが、それを「男性に誘われたらこう断ろう!」という寸劇を交えてコミカルに明るく伝えるなど工夫が随所にあり、笑いが溢れていました。生徒たちにとって初めての性教育の授業は、楽しく学びの多い時間となったことでしょう。
若年妊娠した女性の人生をわかりやすく説明した絵本『TATU and MBILI』。
『TATU and MBILI』を読み、生徒たちが寸劇で再現して理解を深めます。
先生のアナさん(写真左)。
- 草の根技術協力「女性リーダー育成のための理数科目強化と全人教育のモデル校開設プロジェクト」、実施団体:一般社団法人キリマンジャロの会。
- 草の根技術協力「若年妊娠によるドロップアウトと社会的孤立を予防するための教育支援事業」、実施団体:特定非営利活動法人Class for Everyone。
高橋尚子(たかはし・なおこ)さん
高橋尚子(たかはし・なおこ)さん
スポーツキャスター、マラソン解説者。女子マラソン界のトップランナーとして活躍し、2000年シドニー五輪で金メダリストに輝く。同年、国民栄誉賞受賞。2011年にJICAオフィシャルサポーターに就任し、2012年ミャンマーを始め、多くの途上国を訪問。
Message from Naoko Takahashi
今回の視察では、女性自身がこれまでの環境に負けず、自分たちで道を切り開こうとする力強さを多方面で感じました。女性が活躍する社会の実現のために、ひとりでも多くロールモデルが増え、同国の理解や協力が広がることを期待します。
オリンピックという世界の大舞台で女性が活躍するという、華やかな"結果"の部分だけではなく、"参加することの意義"を含めて多くの方に知ってもらいたい。女性アスリートへの理解が広がるよう、私自身も働きかけていきます。
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