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- 西バルカン地域 成長力と魅力に出会う mundi 2019年12月号
- メンターの活躍で中小企業を支援 セルビア
セルビアの今
セルビアにとって欧州連合(EU)への加盟は、国内で大多数を占める中小企業が発展する近道。
その鍵は、日本の中小企業支援をベースにカスタマイズされたメンターサービスだ。
このサービスを西バルカン諸国にも広げ、地域全体の発展を目指す。
文:久保田真理 写真:阿部雄介
・案件名:
中小企業メンター制度組織化計画(2008年8月~2011年8月)
西バルカン地域における中小企業メンターサービス 構築・普及促進プロジェクト(フェーズ2)(2017年9月~2020年8月)
メンターサービスの際に行うSWOT診断で「強み・弱み・機会・脅威」の要因を分析、社会の現状を認識してもらう。
"人財"の大切さを伝えたい!
企業の成功の鍵は"現場=従業員"にあり
欧州連合(EU)加盟を目標にしているセルビア政府にとって、加盟基準をクリアするために一定の政治・経済的条件を満たすことが急務となっている。具体的には経済の活性化、雇用創出、貿易赤字の緩和などが求められており、その鍵は中小企業といわれている。セルビアをはじめとする西バルカン諸国では、国内雇用の大部分を中小企業が担っているからだ。
そこでJICAは2006年からセルビアの中小企業支援に関わり、2008年からの3年間、経営者に寄り添い、一緒に対話をしながら事業向上を後押しする制度であるメンターサービスを構築。改善方法を提示するだけのコンサルタントとは異なり、メンターは中小企業にとって心強いサポート役となっている。また、そのサービスを定着させるのもプロジェクトの一環である。
国内の中小企業を対象にさまざまなサポートを行う開発庁(RAS)のジェガラツ・アナさんは、JICAが行う協力に大きな信頼を寄せている。
「わたしたちRASは中小企業向けの補助金制度を有する国内唯一の機関です。とはいえ、ビジネスの発展には財務支援だけではなく、資金以外の支援も非常に重要と考えています。中小企業支援を60年以上行ってきた日本のノウハウをベースに、メンターサービスのセルビアモデルを確立できることはたいへんありがたいことです」と話す。
現在セルビアではメンターが約70人おり、担当地域でそれぞれ勤務。これまでに約2500社の中小企業に対してサービスを提供してきた。
そのメンターのひとり、マルコビッチ・リリャナさんは、セルビアの首都ベオグラードにある地域開発・ヨーロッパ統合局に所属する6人のメンターとともに、84社に対してメンターサービスを実施している。
「セルビア人は対話によって気付きと助言を得ていくメンタリング自体になじみがなく、メンターになりたてのころは中小企業がその導入のメリットを理解できるかどうか不安でした。それをJICAのチームメンバーが企業訪問に同行するなどして支えてくれました」
2015年には日本で研修を受ける機会に恵まれ、11社を訪問した。日本の現場で行われている企業診断やアドバイスを自分の目で確かめられたことは、大きな学びになった。
「特に企業訪問前の準備では、目的を明確にし、力を注ぐ項目と、それぞれに充てる時間をあらかじめ決めていたことが印象的でした。それに加えて、実例を多く知り、企業の成功の鍵は"現場=従業員"にあることも実感できました」。帰国後はその経験を生かし、訪問先の企業オーナーの理解を得ながら、積極的に従業員とも話をする機会を設けるようになった。
「セルビアの問題は、生産管理や人材育成が不十分なことです。メンターサービスとして用意している50時間ですべての問題を解決することはできませんが、サービス終了後もフォローアップの計画を立てて、その後1年に1度は企業を訪問し進捗を確認するようにしています」。そうした活動が実を結び、企業には利益率15パーセントアップや雇用率10パーセントアップなどの向上が見られ、導入したほとんどの企業がメンターサービスに満足しているという。
「メンターサービスは起業したばかりのスタートアップ企業には生き残るための力となり、既存企業にとっては国際競争力をつけるための力になります」-そうアナさんが語るように、メンターサービスによる企業への働きかけは、これからもセルビア経済の発展を担う重要な役割を果たしていくことだろう。
首都:ベオグラード
歴史を感じるベオグラード中心地。
郊外の様子。郊外は山や丘が続き、農産物の栽培に適していることがうかがえる。
サービスの認知度アップや普及のためメンターフォーラムを開催。注目度が高く、多くの起業家が会場に集まった。
フォーラムでは、日本流の品質・生産性向上の手法“カイゼン”の説明も。現地では日本のビジネスノウハウへの関心が高い。
メンター育成のための座学研修。セルビア人のメンタートレーナーと日本人専門家がメンターサービスについて解説し、質問にも丁寧に対応する。
OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)研修では製造現場や店舗などに出向き、オーナーだけでなく従業員からも話を聞き、企業の特徴や課題を探ることを体験する。
日本の専門家と共同で作り上げた、セルビア版メンターサービスのテキスト。メンタリングの手順や方法などが書かれている。
メンターサービスを受けた企業には証明書が発行される。
メンターサービスを加速するトレーナーの育成
いち早くメンターサービスを導入したセルビアは、その成果を周辺諸国にも広げていこうと、2013年からボスニア・ヘルツェゴビナとモンテネグロの2国とメンター制度の設計・運営マニュアルを共有し、両国はそれぞれの国の状況に合わせたメンターサービスを実施している。加えて各国でもメンターの養成を進め、メンターサービスの提供を加速しようとしている。リリャナさんはトレーナーとしても活躍中で、座学研修と企業訪問時のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)のトレーナー資格を取得し、2017年から対象国に加わった北マケドニアを含めた3か国でメンター育成を担当している。
「自身がメンターの勉強をしていたとき、"メンターサービスの基準に従うこと、順番通りに実施すること、報告すること"の三つが難しくて苦労しました。他国のメンターにはその苦労を負わせずに知識を吸収してもらい、いち早くメンターになれるよう教えていきたい」とリリャナさんは話す。また、アナさんも「セルビアだけでなく、西バルカン全体が経済発展していくことは各国共通の願いです。それがメンターサービスを通じて可能になると思います」と、今後のメンターたちの活躍に大きく期待している。
2015年に実施された日本企業を訪問する研修。2週間で11社、町工場から電機部品産業、食品産業など幅広く訪問した。
メンター制度を地域の国々へ
各国メンターのつながりも強化
「セルビアでのサービス導入の成功をもとに、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、北マケドニアにもサービスを拡大しています。中にはメンターを育成するメンタートレーナーも誕生し、活躍し始めています。4か国のメンター間で、各国の進捗レポートが毎月共有されるほか、連絡会議も年に1度開催され、直接の意見交換の場も大切にしています」と平島さん。
・ボスニア・ヘルツェゴビナ
物流関連企業の現場を訪問。従業員とも直接会って話を聞くことで、オーナーなど経営陣からの話では見えてこない課題が初めて浮き彫りになる。
・モンテネグロ
座学研修での様子。メンタートレーナーと日本人専門家によりメンターを育成。セルビアのメンターサービスをベースに、各国の状況をふまえてカスタマイズし、サービスを提供する。
・北マケドニア
メンターサービスの提供が始まったばかり。OJT研修でオーナーや経営陣からの聞き取りとは別に、従業員からの聞き取りも行い、双方からの視点を重視する。
地域開発・ヨーロッパ統合局 コーディネーター マルコビッチ・リリャナさん
ベオグラードで支援を始めて17年目。メンターサービスの提供のほか、トレーナーとしてメンター育成も行い、日本研修にも参加した。「日本では、どんな質問にも答えてくれるオープンな会社が多く驚きました」。
マルコビッチ・リリャナさん
セルビア開発庁(RAS) 国際協力部門部長 ジェガラツ・アナさん
中小企業を財務、非財務の両面からサポート。また、セルビアの企業が国際市場でビジネスを行うためのサポートも行う。「産業が確立されている日本のような国の協力を得て、メンターサービスが地域のブランド力を押し上げる一助となり、感謝しています」
ジェガラツ・アナさん
JICA技術協力プロジェクト専門家 平島 淳(ひらしま・じゅん)さん
セルビア、モンテネグロ、北マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナの4か国を対象に専門家が行うプロジェクトに携わる。
平島 淳さん
セルビア共和国(Republic of Serbia)
首都ベオグラードは、旧ユーゴスラビア社会主義連邦共和国の首都でもあった。2008年の金融危機の影響で経済成長はマイナスに転じたが、その後は緩やかな回復を続けている。現在EU加盟を目標に国の発展に取り組んでいる。
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