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- 企業連携×SDGs 2030へ行動で挑む mundi 2020年8月号
- 教育 絵本教育で意識・行動を変革 インド
貢献するSDGs 4:質の高い教育をみんなに、5:ジェンダー平等を実現しよう、6:安全な水とトイレをみんなに、14:海の豊かさを守ろう
ごみの不法投棄や屋外排泄などの環境・衛生問題を抱えているインドで、日本の絵本やコミックを通じて子どもたちの意識や行動を変えていく。
文:久保田 真理
・案件名:
環境・衛生教育を目的とした絵本の読み聞かせ販売事業準備調査(BOPビジネス連携促進)
(2016年8月~2019年7月)
女性のエンパワーメントを推進するコミック普及・実証・ビジネス化事業(2020年度開始予定)
現地企業の協賛を受けて、2018年から読み聞かせ活動が本格始動した。移動図書館に改造したトラックで各地をまわる。
日本の絵本が子どもの心をつかむ
インドでは人口増加と経済発展に伴い、不法投棄や分別収集などのごみ問題、トイレ不足による屋外排泄が大きな社会問題になっている。政府が2014年から環境・衛生キャンペーンを行うなか、日本の大手総合出版社の講談社はJICAの協力を得て「環境・衛生教育を目的とした絵本の読み聞かせ販売事業準備調査(BOPビジネス連携促進)(注1)」に取り組んだ。「巨大な人口を抱えるインドは魅力的な市場であり、子どもの教育に熱心な国民性であることから、自社の絵本が環境・衛生の啓発に役立つのではと思いました」と、この事業を担当する同社の古賀義章さんはふり返る。
環境・衛生教育をテーマにした絵本の『もったいないばあさん』と『うんちでるかな?』などを現地語であるヒンディー語に翻訳し、読み聞かせに適した大型絵本を制作。首都ニューデリーを中心に絵本の読み聞かせを実施した。特に『もったいないばあさん』への反応がよく、子どもたちは「モッタイナイ」と楽しそうに声に出していたという。また、読み聞かせ後にポスター作りなどを行い、本のテーマになっている“もったいない”に通ずる4R(注2)を啓発する活動にも取り組んできた。同時に読み聞かせ後の子どもたちの意識や行動の変化、絵本の適正価格についての調査もJICAと連携して実施した。「自宅で両親や兄弟に“もったいない”について伝え、自身でも水や食べ物を無駄にしない、ごみを散らかさないなど子どもたちが変わり始めています」と、古賀さんは調査結果をふまえて読み聞かせの効果を説明する。さらに、『もったいないばあさん』の著者である真珠まりこさんがインドを訪問し、不法投棄などが原因で汚染が進むガンジス川の現状をヒントに『もったいないばあさん かわをゆく』を出版した(本誌2020年6月号参照)(注3)。今後、現地語に翻訳して出版する計画があるという。
ヒンディー語と英語が併記された『もったいないばあさん』。今後はインドの別の地域言語に翻訳されて出版される。©講談社
(注2)Reduce(リデュース/減らす)、Reuse(リユース/再使用)、Recycle(リサイクル/再生利用)の3RにRespect(リスペクト/尊敬)を加え、"もったいない"の概念を表したもの。
学校での読み聞かせ調査実施後、生徒が絵本を読んでから感じたことを絵に描いた。
『もったいないばあさん』の著者である真珠まりこさんがインドを視察し、ガンジス川の現状をヒントに新たに誕生した絵本。©真珠まりこ/講談社
インドのギャラリーで開催された「もったいないポスター展」で入賞した子どもたち。
ニューデリーの地下鉄で車両を借り切って行われた読み聞かせイベント。多くのメディアに大々的に報道された。
講談社ライツ・メディアビジネス局 海外事業戦略部 古賀義章(こが・よしあき)さん
「親しみやすい絵や物語の伝え方に定評がある日本の絵本やコミック、そしてアニメを、インドをはじめ世界中に広げていきたいです」
古賀義章さん ©Ko Sasaki
絵本の事業本格化からコミック事業へ
調査と並行して、2017年末にインド政府系出版社と『もったいないばあさん』のシリーズ3作品の出版契約を結び、2018年にはヒンディー語と英語の併記版を出版して事業がスタートした。インドの12の地方言語版を段階的に発行するなど、多様な方法で展開していく。
また絵本の事業に手ごたえを感じている講談社では、今後新たな取り組みにも着手する。「子どもたちへの絵本の読み聞かせの際に母親や先生たちと話し、インドの女性が置かれている状況を知りました。次はジェンダー平等につながる事業の必要性を感じました」と古賀さんは話す。インドの女性は外出しにくい立場にあるが、スマートフォンが約6億台普及して情報にアクセスしやすいことから、電子版コミック(漫画)の販売を想定した「女性のエンパワーメントを推進するコミック普及・実証・ビジネス化事業」もJICA民間連携事業(注4)を活用して開始する。インドでは女性を主人公にしたコミックも少ない状況にあるが、大人の女性を対象にしたさまざまなテーマの日本のコミックが、これからのインドのジェンダー問題に大きく貢献していきそうだ。
事前の独自調査として、ヒンディー語に翻訳した講談社のコミックの読み聞かせをインドの女性たちに向けて行った。
JICA担当者 斉藤晴美(さいとう・はるみ)さん
・絵本を通じて!
日本でもレジ袋有料化に伴いプラスチックごみの問題が注目されています。環境問題は地球規模で取り組むテーマです。絵本を読んであらためて"もったいない"について考え、無駄なことをしないだけでなく自然の恵みや命についても考えるきっかけにしたいものです。
斉藤晴美さん
JICA担当者 上野純子(うえの・じゅんこ)さん
・コミックの力で!
コミックの力を借りた学習経験をお持ちの方は多いかと思います。複合的な要素が絡み合うジェンダー問題を、親しみやすいコミックを通じて一人ひとりが身近な問題としてとらえることで、社会的な行動変容につながることを期待しています。
上野純子さん
インド
国名:インド
通貨:ルピー
人口:約13億5,300万人(2018年、世界銀行)
公用語:ヒンディー語
2014年にモディ新政権が成立して経済重視の姿勢をとり、高いGDP成長率を維持してきたが、直近の2019年には減速傾向にある。年収約36万円以下で生活する人が人口の約8割を占めている。
首都:ニューデリー
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