JICA開発大学院連携:第4回連絡協議会を開催

掲載日:2022.02.16

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JICA開発大学院連携の進展と帰国後の関係性の維持発展 -親日派・知日派ネットワークづくりに向けた取組み- について大学関係者とJICAが議論

国際協力機構(JICA)は、2月16日、「JICA開発大学院連携 第4回連絡協議会」を開催しました。会合には、全国から70大学183名に参加いただきました。

JICA北岡伸一理事長メッセージ

北岡理事長より以下の点に触れた上で、今後のJICA開発大学院連携(JICA-DSP)の更なる進展について大学関係者の協力を呼びかけました。

  • JICA-DSPは94大学にご賛同頂いている。実施にあたり大変多くのご協力を頂き感謝する。その海外展開事業として2020年度よりJICA日本研究講座設立支援事業(JICAチェア)を開始し、既に40の国で開始済。30拠点以上でも立ち上げの準備を行っている。世界に日本のことを勉強できない国がないようにしたい。
  • 世界情勢を見ると、権威主義が台頭し自由民主主義がやや劣勢になっている。日本の経験を活かし、欧米流の厳格な民主主義とは異なり、柔軟な定義で多様な政治体制を受け入れる、いわば「民主主義のボトムライン」のようなものをJICAで研究し、浸透させていく必要があると考えている。
  • JICAはこれまで「人づくりは国造り」という概念を大事にしてきている。JICA-DSPはその伝統を推進していくためのマイルストーンである。帰国後のネットワーク強化や提供するプログラムの質の向上等、改善すべき点もあるが、卒業生は母国で大変活躍しているなど成果は出てきている。
  • 2020年10月に「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム」(JP-MIRAI)を立ち上げた。日本は多くの外国人労働者を受け入れているが、多くの課題を抱えている。彼らに日本に来てよかったと思ってもらえるような国にしなければならない。今般、(注)JICA緒方研究所は日本の労働力に関する将来推計を実施した。日本がこの先1.2%の経済成長を維持するためには、設備投資やIT化、女性の労働力活用などあらゆる対策を行ったとしても、少子化等の影響もあり、2040年には国内で約600万人の労働力不足になることが分かった。加えて、日本への労働者の主たる送り出し国であるベトナムをはじめとする東南アジアの国々では既に少子化が始まっている。今後更なる生活水準の向上が見込まれる中国や韓国も外国人労働者の受入を加速させると思われ、人材獲得は激しい競争になる。将来十分な労働力を日本は確保できるのか、という切迫した危機意識を持っていたが、調査結果を見て大変驚いた。
  • この切迫した危機を乗り越えるためには、日本を更に開かれた国にする必要があり、JICA-DSPはそれに貢献する一つの大きな柱だ。

セッション1:『JICA開発大学院連携構想の進捗について』

続いて、JICA開発大学院連携推進室 紺屋健一室長より、JICA-DSPの進捗及び今後の展開について説明し、参加者より、帰国後のフォローアップに関しJICAとしてどのように戦略的に活用しているか、放送大学コンテンツの視聴、2000名在籍に向けた達成状況、留学生の入国緩和状況等について質問・意見がなされました。

セッション2:『帰国後の関係性の維持発展-親日派・知日派ネットワークづくりに向けた取組み-』

セッション2では、帰国留学生との関係性の維持発展に向けて議論を深めるため、広島大学、秋田大学、より具体的取り組みをご紹介いただきました。あわせて、JICAからも東南アジア・大洋州部、社会基盤部における取り組みを報告しました。

1)「親日派・知日派ネットワークづくりに向けたJICAの取り組み-東南アジア・大洋州地域の事例-」

JICA東南アジア・大洋州部 計画・ASEAN連携課 小塚英治参事役

  • 東南アジア・大洋州地域は「自由で開かれたインド太平洋」を実現する上で極めて重要な地域であることも念頭に、次世代のリーダー層や国家運営を支える優秀な人材を育成する方針。
  • 親日派・知日派ネットワークづくりのために、各国の関係機関と協力した人選、JICAや日本国内の関係機関との交流会、帰国後のフォローについて、各事務所及び本部で取り組んでいる。
  • 留学生からは、日本人学生及び留学生間の交流機会の拡充及び帰国後の大学との関係維持について要望が挙がっており、引き続き各大学の皆さまにもご協力いただきたい。
2)「帰国後の関係性の維持発展-親日派・知日派ネットワークづくりに向けた取り組み-教育分野の取り組み(広島大学)」

広島大学 大学院人間社会科学研究科 清水欽也教授

  • 広島大学では第二次世界大戦中に留学生を受け入れた経験があり、これら留学生の多数が各国の要職を務めた。これまで多く受け入れたカンボジアに加え、ラオス、ミャンマーからも受け入れることで、メコン地域間での学びが生まれている。また、日本人学生に対する教育としても、留学生の受け入れが開発途上国の現状を身近に知る機会となっている。
  • 大学と卒業生間のネットワークとしては、プロジェクト研究、フォローアップミーティング等を実施。カンボジア帰国生グループではジャーナルを発刊。大学側からできる国際協力として研究の文化を育て、教育について研究レベルで語る場を作る、ということを主眼にしている。
  • 今後、地域内での研究交流を促進させ、地域的・文化的に近い地域での学び合いの場を作り上げることを目指している。棚橋源太郎が現代につながる理科教授法を日本に伝えたのと同様に、帰国留学生が当該国の教育の発展に寄与してくれれば幸い。
3)「「資源の絆」-資源分野のネットワーク構築に向けて-」

JICA社会基盤部 資源・エネルギーグループ 小早川徹次長

  • 日本は資源開発を国の発展の活力として活用してきた歴史があり、特に明治維新以降、近代化、産業多角化、地域開発につなげてきた。一方で、鉱山環境汚染、輸出競争力低下に伴う閉山等も経験し、資源開発の始めから終わり(良い面悪い面)を開発途上国に伝えることが可能。
  • 受入は行政官及び将来的には当該国内で教育が実施できるように大学の教員も対象としている。受入大学の研究室と協力しながら、課題別研修等を活用して有望な人材を取り込んでおり、春と夏には日本の経験を伝える特別プログラムや海外フィールド調査、企業インターンを実施。研修員が大学以外の公的機関や企業からも学びながら、ネットワークを構築していけるよう工夫している。また、ネットワーク強化の取組みとして、モニタリング(研修員ごとの「カルテ」の作成)、出張時の面談、ニュースレターの発行、SNS、リモート勉強会等を実施。
  • 帰国留学生では既に日本と当該国の架け橋となる方が出てきており、こうした方をロールモデルにwin-winの関係を築いていきたい。帰国後のフォローアップにも注力し、日本及び留学生間での絆を築いてもらうとともに、JICA事業における協力も推進していきたい。
4)「「資源の絆」による資源・エネルギー分野における人材育成への取組み」

秋田大学 副学長、大学院国際資源学研究科 藤井光研究科長・教授

  • 秋田は石油・鉱物資源が豊富な地域であるため、国際資源学部が設立された。5か国7か所に大学の研究拠点がある。卒業生は海外で活躍することが多いため、即戦力となる語学力と専門性を身に着ける。二年後期からの専門科目は全て英語で実施。海外資源フィールドワークも実施。
  • 2014年から資源の絆留学生を受入れ。他コースを含め計52名のJICA留学生をこれまで受け入れている。博士の割合が増加傾向。半数以上がアフリカ。資源があるものの開発が進んでいない国からの受入が多い。学位取得にあたり地域差はない。
  • 派遣元の期待が高いため、非常に真面目に取り組んでいる。必要な学力を求められるが、出身組織での役割,将来計画,研究目的が他の留学制度より重視して選考している。帰国後においては資源の絆の目的にかなった活躍をしている帰国生が多く、我が国の資源・エネルギー産業の海外戦略に貢献している。
5)質疑応答

これら発表に対し、博士課程受入状況、留学生と日本人学生の交流に期待すること、英語教育の状況、異なる国の帰国留学生の間での経験・知見の共有、学び合いの取組みの事例、等について活発な質問がなされ、経験を共有しました。

セッション3:全体質疑・意見交換

  • セッション2における発表に対し、JICA開発大学院連携アドバイザーの総合研究大学院大学長谷川学長、大阪大学猪木武徳名誉教授、公益財団法人国際通貨研究所渡辺博史理事長を交えて、留学生との帰国後の関係性の維持発展に向け、帰国留学生との共同研究の推進、留学生自身による事業の評価、知見共有の重要性、オンラインツールの積極的活用、優秀な人材獲得に向けた取り組み、博士課程への進学、課題別研修等も活用した人選等、活発なコメントが出されました。
  • 開発途上国側のニーズを汲み取りながら事業運営を行うとともに、帰国留学生という大事なアセットとの繋がりをより良いものにしていくため、互いに学び合い、経験を共有しながら留学生事業を推進していくことを確認されました。

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広島大学 大学院人間社会科学研究科 清水欽也教授

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秋田大学 副学長、大学院国際資源学研究科 藤井光研究科長・教授