第7回グローバル・ヘルスシステム研究シンポジウム(ボゴタ)において、プライマリーヘルスケアのための家庭用保健記録に関するセッションを行いました:JICA、UNICEF、WHO、インドネシア保健省、ガーナヘルスサービス

掲載日:2022.11.02

イベント |

はじめに

母子保健のための家庭用保健記録は160か国以上で使用されていますが、国によっては必ずしも十分に活用されているとは言えません。そこで、2022年11月2日に世界中から1,400名を超える参加者が集まった第7回世界保健システム研究シンポジウムにおいて、『プライマリーヘルスケア(PHC)のために、家庭用保健記録の運用の強化』と題し、ハイブリッド編成のセッションを開催しました。

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パネル発表

世界保健機関(WHO)の母子・新生児・児童・思春期保健・高齢化部門局長のアンシュ・バネルジー氏が司会を務めました。WHOは2018年に母子保健・新生児の健康のための家庭用保健記録に関する国際指針をまとめています。現在、家庭用保健記録の効果的な運用を促進する目的で、JICA、UNICEF、WHOが共同で実施ガイドを作成していることを告知しました。

JICA国際協力専門員の尾﨑敬子氏は、低・中所得国でみられる家庭用保健記録の運用上の課題に対処するために、1)実施の評価、2)好事例からの学び、3)実施のモニタリングの実施の提案と、モニタリングのためのデータの必要性について述べました。

ガーナヘルスサービス(GHS)の家族保健課長であるコフィ・イサ氏は、ガーナの母子手帳を紹介しました。母子継続的ケアの実現には、サービスの需要側と供給側をつなぎ、施設からコミュニティまでケアをつなぐ必要があります。また、母子手帳には、PHCにおける各種サービスの関係者をつなぐ役割が期待できます。課題に対処し、持続可能性を確保するために、第一に、母子手帳の全国展開の手順をマネジメントガイドにまとめ、第二に、主要関係者が承認プロセスに沿って継続的で遅滞なく印刷するよう促しています。第三に、1)研修の標準化、2)自己学習用視聴覚教材の開発、3)様々なレベル・タイプのモニタリングとサポーティブスーパービジョンを通じた持続可能な能力強化を目指しています。ガーナでは、教育省を含む政府も徐々に、母子手帳が国家記録の一部として重要な文書と認識するようになりました。母子手帳は、PHCや保健システム強化に資するものと位置づけられるため、今後ゲームチェンジャーとなる可能性があることが述べられました。

インドネシア保健省5歳未満時・就学前児課長のニダ・ロフマワティ氏は、PHCにおける母子手帳の実施強化の経験を紹介しました。インドネシアの母子手帳は、2004年の大臣令で全国的に施行され、PHCへの活用のため、1)専門家と民間セクターの関与、2)標準サービスへの地方政府の責任、3)家族とコミュニティのエンパワーメントが取り組まれてきました。専門家の関与を高めることで、民間施設を利用した妊婦にも母子手帳が配布され、地方政府による取り組みを促すことで、他のサービス(国民健康保険、条件付現金給付、就学前教育など)での適用も徐々に広げています。最新版の母子手帳では、母親・家族が母子の健康状態をチェックする項目が加わり、補助教材や活動も開発されつつあります。インドネシアはKnowledge Sharing Program(KSP:知識共有プログラム)を通じて他国に経験を伝えると共に、他国からも学び、自らの課題に取り組もうとしています。母子手帳は、家族レベルでの記録ツールに留まらず、家族が健康問題に気づくことができるよう教育するものでもあり、インドネシアのPHC改革に重要な役割を担っていることが述べられました。

議論のポイント

第一に、国の代表と研究者の双方に実施研究への関心があること。第二に、家庭用保健記録の印刷費確保には、通常予算費目化する必要があるが、各国は民間部門の関与や健康保険制度の資金に期待するなど、工夫を重ねていること。第三に、記録に対する医療従事者の前向きな姿勢を醸成するために、緊密な支援や、記録の奨励と負担の軽減が必要であること。第四に、研究者には家庭用保健記録のデータを収集し分析することが期待されていること。国連児童基金(UNICEF)のラウル・ベルメジョ氏は、後半の司会を務め、家庭用保健記録は、1)母子保健プログラムを支援し、実施ガイドは効果的な実施を支援する、2)PHCのための努力を強化し統合するシンボルである、3)女性・家族が情報を手にすることを可能にする、エンパワーメントのツールである、と締めくくりました。

まとめ

JICA、UNICEF、WHOは、家庭用保健記録の実施を強化する一環として本セッションを実施し、参加者には家庭用保健記録の効果的な運用への関心が高いことを確認できました。

発表資料

参考文献

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司会を務めたWHOのアンシュウ氏

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JICA国際協力専門員の尾﨑敬子氏は家庭用保健記録運用における課題について述べた

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ガーナヘルスサービスのコフィ氏による事例紹介

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インドネシア保健省のニダ氏による事例紹介

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後半の司会を務めたUNICEFのラウル氏