jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

目標はオリンピック出場!野球を通じて平和な社会の実現へ-ブルキナファソの野球選手・子どもたちにオンライン野球教室を開催-

掲載日:2023.02.26

イベント |

ブルキナファソと聞いて「野球」のイメージを持つ人はどれくらいいるでしょうか?
WBSC(世界野球ソフトボール連盟)の世界ランク50位のブルキナファソの現状では、まだ「野球」のイメージを持つ人は多くないことでしょう。ただそのイメージが変わる日もそう遠くないかもしれません。

【画像】

2月26日、JICAと読売巨人軍は、野球の普及・振興に力を入れるブルキナファソに向けて、オンライン野球教室を開催。在ブルキナファソ日本大使館の支援により完成したブルキナファソ初の野球場に、目を輝かせた子どもたちと熱意のある野球選手たちが集まりました。

スポーツの可能性を信じ、野球を社会融和のきっかけに

ブルキナファソでは、近年武装勢力のテロ攻撃により大幅に治安が悪化し、大勢の国内避難民が発生しています。目標を失った若者が容易にテロリストに取り込まれている状況や、治安悪化やリソースを巡って民族間の亀裂が強まっている状況が引き起こされており、若年層を社会に繋ぎ留めておくことや、社会融和の必要性が高まっている状況となっています。

JICAと読売巨人軍は、2015年より世界各地で野球の普及・振興を通じた協力を展開しており、2022年1月、新たに「開発途上国におけるスポーツ振興を通じた国際貢献のための連携協力協定」を締結。今回ブルキナファソでは、この協定に基づいて、技術指導を図るだけでなく、野球を通じた多様性のある社会、平和な社会の実現への貢献を目指してオンライン野球教室が開催されました。

今回のイベントに先んじて、2022年8月、JICAブルキナファソ事務所では、誰もが公正かつ公平に参加できるスポーツへの参加として、国内避難民とホストコミュニティの交流を深めるベースボールファイブのイベントを実施しました。スポーツ交流を通して、コミュニティにさまざまな立場の人々が共存することを学ぶよい機会となったとの声が聞かれ、スポーツが人々の関係構築と社会の融和を促進する場として有効であることが確認できたことで、スポーツの可能性をさらに生かしていくべく、今回のオンライン野球教室の開催に至りました。

誰もが公平に楽しめるベースボールファイブ

今回オンライン野球教室で指導にあたったのは、巨人軍女子チームの田中美羽選手と、かつてプロ野球選手として活躍し、現在は読売巨人軍ジャイアンツアカデミーにコーチとして就任している辻東倫コーチと長谷川潤コーチの3人。

2022年開催のベースボールファイブ・ワールドカップに日本代表選手として出場し準優勝した経験を持つ田中選手がベースボールファイブの指導を、辻コーチが打撃、長谷川コーチが投球の指導を担当しました。

【画像】

ベースボールファイブは、5人制・5イニング制で野球をコンパクトにした新しいスポーツ。グローブやバットを使わない「手打ち」野球で、男女が一緒にプレーすることからも、誰もが公平に楽しめる競技であることが特徴です。

田中選手による指導では、腰を落とした基本の構え方の説明から始まり、球の投げ方、投げる際の体の動き、球の打ち方、捕球の仕方といった基礎の動きについて、実演を交えて解説。田中選手の素早い動きをみて、すぐにその場で動きをマネしてみる子どもたちも見られました。ボールをもった実践練習では、田中選手も画面越しに子どもたちの動きを確認し、上手にできた子どもたちに、フランス語で「セボン!(いいね!)」と声をかけていました。

【画像】

実演指導の後に、参加者からの質問を受ける機会を持つと、子どもたちからは、打つときは手を開く方が良いか握る方が良いかなどの具体的な質問が飛び、田中選手も一つ一つ丁寧に回答。上手くなりたいという子どもたちの意欲の高さが表れていました。

【画像】

食い入るような視線で技術向上のヒントを学ぶ

続いて行われたのは辻コーチによる打撃指導。ブルキナファソの野球選手からの質問に答えていく形で進められ、バッターボックスに立つ位置や、バットの握り方、内角にきた球・外角にきた球の打ち方など一つ一つの質問に対し丁寧に解説が行われました。

【画像】

辻コーチが画面越しにバッティングのスイングを披露すると、画面に食い入るような真剣な眼差しで見つめるブルキナファソの選手には、少しでも吸収しようとする姿勢が表れていました。

長谷川コーチによる投球指導では、ボールの握り方や、投球の際の体の向きや腕の振り、体重移動などの説明を通して、コントロールよく投げるための技術指導が行われました。ブルキナファソ側にも見やすいように、ボールを握る手をカメラにクローズアップして映したりと、参加者に寄り添った指導が行われていました。

【画像】

一連の指導を終えた後は、実際の投球の様子を見てほしいというブルキナファソ側からの要望に応える形で、コーチ陣がバッテリーの投球・捕球を確認。捕手の構える位置、投球の際の手首の位置、足の踏み出し方など、一歩踏み込んだ指導も行われました。

【画像】

野球教室を終え、田中選手からは「オンラインの指導は初めてでしたが、たくさんの方と交流ができて良かったです。今後も多くの人たちとベースボールファイブを広める活動ができたらいいなと思いました」と感想が述べられました。また辻・長谷川両コーチからは、オンラインで個々の動きを把握する難しさもあったことから、今度は現場に行って指導したいという前向きなコメントも。指導を受けたブルキナファソの参加者も、今回学んだことを実践に移すべく、もっと練習していきたいと気持ちを新たにしていました。

青年海外協力隊が繋ぐブルキナファソと日本の野球の絆

JICAが最初にブルキナファソに青年海外協力隊の野球隊員の派遣を始めたのは2008年のことです。その後、治安状況により派遣が中止となる2019年までブルキナファソ野球連盟への隊員派遣が続き、現地での野球指導を続けてきました。

同協力隊OVである出合祐太さんは、現在もブルキナファソと日本を繋ぎながら野球支援を続けるひとりです。地元北海道にて「一般社団法人北海道ベースボールアカデミー」を立ち上げ、ブルキナファソを始めとする外国人選手に日本への野球留学など機会を提供し、プロ野球選手を目指すためのサポートを行っています。ブルキナファソからはこれまで10名以上の選手が来日し、日本への野球留学を経験してきました。日本でプロ野球選手の夢を掴むことは、まだ道半ばですが、野球を通して技術と人間性を磨いた選手たちは、帰国後に、母国で野球の指導者として活躍し、野球普及に取り組んでいます。

このような野球普及の継続した取り組みが、協力隊派遣が中止となっている現在も日本とブルキナファソの野球協力が続く礎となっており、新たに完成した野球場(運動場)建設や、今回のオンライン野球教室の開催を後押しするものとなっています。

当日は、日本側の会場である読売ジャイアンツ球場にブルキナファソと日本の架け橋となっている出合さんが、また、ブルキナファソ側の会場では、出合さんが青年海外協力隊として活動していた際の教え子であり、北海道ベースボールアカデミーの卒業生でもあるザブレ・ジュニオールさんがブルキナファソ野球・ソフトボール連盟の技術総責任者として、それぞれの会場で指導サポートにあたりました。

【画像】

野球を通じた平和な社会の実現

今回、オンライン野球教室の指導に含められたベースボールファイブ(B5)は、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)の公式野球競技であり、2026年セネガル開催のユースオリンピックの公式種目となっています。ブルキナファソでは、野球ソフトボール協会が中心となって、野球・ベースボールファイブの普及と技術の向上に力を入れており、オリンピック・ユースオリンピックへの出場を目標に掲げています。JICAは、より多く若者がスポーツを通じて切磋琢磨し、相互理解と連帯を強めていくことで社会の平和をもたらすと信じ、これからもブルキナファソでの野球協力を続けていきます。

オンライン野球教室を見守ったJICAブルキナファソ事務所の興津圭一所長からは、「2026年に開かれるセネガルのユースオリンピックでは、ここにいる選手の何人かが、ブルキナファソ代表として活躍することでしょう。そこでブルキナファソが活躍することで、さらに多くの若者がベースボール5を楽しむことになるでしょう。スポーツによって若者が輝くことは、平和に向けて社会が団結していく力になると思います。1日も早くブルキナファソに平和が戻りますように。私はそうしたスポーツの可能性を信じています」とスポーツへの期待とブルキナファソの平和を願う言葉が寄せられました。