【ABEイニシアティブ10周年】アフリカ人留学生の活躍の場の拡大へ:交流会でABEイニシアティブ留学生を激励

掲載日:2023.03.23

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3月23日、「ABEイニシアティブ」プログラムを通じて2021年度に来日したアフリカ人留学生(以下、ABEイニシアティブ留学生)の代表36人が、日本・アフリカ連合(AU)友好議員連盟所属の国会議員、日本企業関係者、及びアフリカで事業を行うJICA海外協力隊経験者(OV)と交流。会場となったJICA市ヶ谷ビルはアフリカと日本の架け橋となる留学生たちのエネルギーと、彼らを激励する日本関係者の熱意で包まれました。

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10周年を迎える、アフリカへの「水先案内人」の育成

「ABEイニシアティブ」として知られる、「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ」(注)は、2013年の第5回アフリカ開発会議(TICADV)で立ち上がったアフリカ向け留学生プログラムです。日本の大学での修士号取得と日本企業などでのインターンの機会提供を通じて、アフリカの産業発展と日本企業のアフリカビジネス進出の「水先案内人」を担う人材を育成することを目的としています。JICAは、2014年に第一期生の受入れを開始し、これまで約85の大学機関と、400のインターン受け入れ企業や機関の協力の下、1600名以上のアフリカの若者を受入れてきました。そして、今年2023年に、ABEイニシアティブは2013年の創設から10周年の節目を迎えています。

(注)英文正式名称の「African Business Education Initiative for Youth」の頭文字をとって「ABEイニシアティブ」と呼称。

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今回の交流会は、半年から1年後に帰国を控えたABEイニシアティブ留学生に対して、日本とアフリカの架け橋を担う彼らの帰国後の活躍に対する日本関係者からの高い期待を共有するとともに、留学生の帰国後の活動において重要なパートナーとなる日本企業関係者や、アフリカでの社会課題解決に取り組む日本の若者(JICA海外協力隊OV)とのネットワーキングの機会を提供することを目的に開催しました。

交流会の冒頭、アフリカ21か国への訪問歴があるという田中和徳議員は、「人類発祥の地アフリカは、日本にとっても敬意をもって大切にしなくてはならない地域。あらゆる面で協力していくのが日本の役割」と述べられ、プログラムを通じて日本に縁を持ったABEイニシアティブ留学生に対し、「今すぐでなくてもいい。日本を第2の故郷と思って、人生を通じて長い目で日本との繋がりを大切にしながら、世界の舞台で活躍していってほしい」と激励の言葉が送られました。

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「日本企業で経験を積んで信頼される存在になりたい」

幼い頃から日本に興味を持ち、社会人になって日本語を学び始めたブダール・メリヤムさんは「モロッコで活動する日本語教師のJICAボランティアから教えてもらったきっかけにABEイニシアティブのプログラムを知りました」と語ります。モロッコで日系企業でのインターン経験もあるメリヤムさんは、産業エンジニアとしてモロッコ政府機関で経験を積み、モロッコの産業界をさらに盛り上げるために日本でビジネスを学ぼうと早稲田大学大学院経営管理研究科に進学しました。

インターンでは、モロッコでも多くのプロジェクトを展開する三井物産株式会社を希望。「三井物産がモロッコで多くの事業を行っていることは知っていましたが、インターン中は、モロッコ以外にもモザンビークや南アフリカなど別の地域のマーケットについても学ぶことができました」。日本企業の視点からアフリカを捉える経験を得て、広くアフリカと日本のビジネスに関心を高める機会にもつながったとメリヤムさんは語ります。

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「将来は、日本とモロッコの貿易や投資の促進に貢献したいと思っています。そのためにも、プログラム終了後ももう少し日本企業で経験を積み、日本企業に信頼される存在になりたいと思っています。」と将来のビジョンを語ります。「そして、事業進出や投資などモロッコでのビジネス展開への関心を持って頂きたいと思っています」と日本企業への期待も述べられ、日本とモロッコとの架け橋となることへの強い熱意が感じられました。

日本の衛星技術を活用して母国の社会課題解決に取り組む

母国ザンビアで水産・畜産省の行政官として働くクジラ・ギブンさんは、帰国した修了生からABEイニシアティブの情報を得て応募を決意。川や湖のエコシステムのモニタリング技術について知識を深め、ザンビアの現場に活かしたいという思いから、北海道大学大学院環境科学院にて地球環境マネジメントを学んでいます。

衛星を使ったモニタリング技術に関心を持ったクジラさんは、一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構でのインターンシップに参加。「衛星リモートセンシングの技術を農林水産分野での環境モニタリングや評価に活用している状況を身近に学ぶことができた」と語ります。同機構でのインターンでは、クジラさん自身が設定した研究課題に対して、機構内外の様々な組織・専門家から助言を得る機会を得ました。「河川や湖に水草が増殖し水面を覆ってしまうというザンビアの課題をテーマに、衛星で過去10年間のデータを入手し、その比較調査を行うという課題に取り組む機会を頂きました。この技術を将来、自国の水産分野で活用していきたいと思っています」と日本での学びを母国での実践に繋げたいという強い想いが語られました。

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宇宙システム開発利用推進機構は、2016年以降から80名以上の留学生受け入れを行っています。「多くの留学生を受け入れることで、アフリカの多くの国とつながりが持てることが魅力」と語るのは、同機構宇宙利用拡大推進本部の広瀬和世本部長。「セネガルでの衛星活用の可能性を調査する際に、2017年に受け入れを行ったABEイニシアティブ留学生に協力を依頼したところ、現地の素晴らしいユーザー候補先を提案し6機関への訪問アレンジを行ってくれました」とABEイニシアティブ留学生の持つ現地のネットワークの広さと調整能力の高さを評価しています。

「我々は、これまで様々な分野の留学生に対応したインターンプログラムを提供してきたため、今後、意欲がある帰国後の留学生にも是非、インターンや連携の機会を提供できればと願っています」とABEイニシアティブ留学生との更なる繋がりづくりに前向きな姿勢を示しています。

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留学生を中核に据えたビジネスモデルを通じてアフリカ市場に挑戦

東京で廃棄物の中間処理業を行う株式会社太陽油化は、ABEイニシアティブ生のインターン受け入れを行う企業の一つ。汚泥処理で見つけた微生物から、土壌改良や植物活性を向上させる農業資材を開発し、サステイナブルな有機農業の資材として評価を受けています。同社の取組みは、開発途上国での持続可能な発展に貢献することが認められ、今年3月「第6回ジャパンSDGsアワード」でSDGs推進副本部長(外務大臣)賞を受賞しました。

同社の石田陽平専務取締役は交流会の企業代表挨拶にて、「このビジネスモデルは、JICAや、ABEイニシアティブの留学生との出会いが無ければ、始まりませんでした」と語ってくれました。同社は、パートナー企業にアフリカでの事業展開を提案されたことをきっかけに、2021年に初めてABEイニシアティブ生の受け入れを開始し、これまで15名の留学生を受け入れてきました。フランチャイズ形式でアフリカに事業展開する同社は、母国の情報に精通するABEイニシアティブ留学生によって提案された現地でのビジネスモデルをもとに、製品の知識と管理に精通した帰国後の留学生がフランチャイズのオーナーになることがほとんど。現在は、モザンビーク、リベリア、モーリタニア、マラウイ、タンザニア、ニジェールなどで事業の展開が広がりつつあります。

「初期投資が少なく現地で資材を調達しやすいのが我々の事業の良いところ。小さな利益ですが、小規模農家にも手の届く価格で販路を広げることで、現地のオーナー自身が利益を増やしていくのです」と石田氏は語ります。「アフリカも国によってビジネスモデルは違う。直営の会社を立てるよりも、それぞれの国に精通した留学生がオーナーとなり、その国の状況に合わせたやり方でビジネスを行うことで拡大展開しやすくなる」と語る言葉には、日本でインターンシップを積んだアフリカの若者たちへの信頼が感じられました。

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日本とのコラボレーションを通じた留学生の多様な帰国後活動を後押し

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ABEイニシアティブ留学生の帰国後の活躍は多岐にわたり、日本企業に就職しアフリカ等での海外事業を牽引する人もいれば、政府機関など元の職場に戻り自国の発展に貢献しながら日本企業のアフリカ進出を側面支援する人、また母国で起業し日本企業の現地パートナーとして活躍する人もいます。

今回の交流会の中で、JICA安藤理事は「皆さんの滞在期間も残り半年から一年になり、これからが大事。」と語った上で、「皆さんが帰国後も日本企業や他のABE留学生との関係を強め、素晴らしいコラボレーションを実現することを期待します。残りの滞在期間、そして帰国後もJICAはサポートを惜しみません。一緒に頑張りましょう」と伝えました。

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出席したAU議連会長の逢沢一郎議員からは、「今日の交流会は大変有意義だった。ABE留学生は、日本の地方活性化にも貢献しうる存在と感じた」と感想を頂きました。JICAは、日本とアフリカの架け橋を担う人材育成と、彼らを通じた日本とアフリカの「共創」を引き続き推進していきます。

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