アートを通じたウェルビーイング in タンザニア! 日本とタンザニアのアーティストによる病院壁画アート×保健
掲載日:2025.11.05
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2025年10月6日から16日にかけて、タンザニアのムワナニャマラ地域中核病院にて壁画を制作しました。ラオスの先行事業でも活躍されたアーティスト・河野ルルさんと現地アーティストのMs.Agness Mwidadi Mpata さんの協働により、タンザニアを代表するポップアート「ティンガティンガ」のスタイルで、新生児診察室と産後病棟に、動物や自然が飛び出てくるような、豊かな色彩の壁画が完成しました。
アーティストによる壁画制作の様子
病院スタッフによる壁画制作の様子
WHO(世界保健機関)は、健康の定義を「肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態」としており、単に病気がないことではないとしています。2019年にはWHOがアートによる健康への効果に関する報告書を発表。2023年にはWHOとJameel Arts & Health Labの主導により大規模な研究シリーズが展開され、アートが「病気の予防と健康増進」に大きな役割を果たすことが明らかになっています。
米国(一部)、スウェーデン、オランダ、韓国、台湾などでは、「Percent for Art(公共施設建設予算の1%をアートに充てる制度)」が導入され、行政サービスにおいてもアートの重要性が認識されています。日本でも、2022年に経済産業省が「アートと経済社会について考える研究会」を発足。報告書では、壁画導入による職員のモチベーション向上、ストレス軽減、コミュニケーションの活性化、絵画鑑賞による血圧低下などの効果が紹介されています。
左:以前の産後病棟
右:壁画完成後の産後病棟
JICAは長年にわたり、技術協力や無償資金協力を通じてタンザニアの医療施設の運営管理能力強化に向けた協力を実施してきました。本事業では、アーティストとコミュニティ(病院スタッフや入院患者)が協働して壁画を共創し、壁画を通して心身の健康(ウェルネス)の向上を目指しました。期待される効果としては、患者満足度の向上、医療従事者とのコミュニケーション促進、治療に対する恐怖心や疼痛の緩和、医療従事者のモチベーションや帰属意識の向上等が挙げられます。
また、今回の壁画には、Kansai Plascon Tanzania(関西ペイント株式会社)様より提供いただいた「アンチモスキート(防蚊)塗料」も使用されており、マラリア等の蚊媒介感染症の予防効果も期待されています。
※アンチモスキートは、蚊が室内に侵入後、壁や天井に止まる習性を利用し、蚊が嫌う成分を塗布することで不快感を与え、侵入を防ぐほか、神経を麻痺させて吸血行動を抑制する効果があります。
防蚊塗料
新生児診察室前の壁画完成後
当初はアーティスト中心で壁画制作が進められていましたが、次第に病院スタッフや入院患者も興味を示し、制作に参加するようになりました。自身の病棟への壁画制作を希望する声も寄せられました。産後病棟では、NICU(新生児集中治療室)に入院する新生児と離れて過ごす母親が多く、病院スタッフからは「壁画があることで精神的な不安が軽減される」との声がありました。病院長からは、「特に小児病棟や産科病棟の患者にとって、壁画は革新的な治療法となり得る。病棟の見た目は患者の回復に心理的な影響を与える。明るい色や芸術的な作品を見ることで、病院への恐怖心が和らぎ、安全だと感じるようになる」とこれまでのJICAの協力含めた感謝の言葉が述べられました。
アートを通じて、人々の心に安らぎと希望を届け、心の豊かさを創造するこの新しい取組みは、既存のJICA協力との相乗効果ももたらし、大きな可能性を秘めています。
産後病棟の壁画完成後
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