東ティモールの国づくりを支えて20年:未来を担う人材を育成
2020.06.12
東ティモールは2002年に独立したアジアで最も若い国です。JICAは独立前の2000年4月から東ティモールの国づくり支援に取り組んできました。それから20年、東ティモールは国の基盤をつくる復興期から、経済成長と日々の生活安定を全国民に行き渡らせる発展期に入りつつあります。
幅広い分野の支援のなかでも重視してきたのが、国づくりを担う人材の育成です。高等教育の充実を図るための東ティモール国立大学(UNTL)工学部での教員育成など、人材育成分野への支援の歩みを振り返ります。
JICAの支援で2020年1月に完成した東ティモール国立大学工学部の新校舎。同国唯一の国立大学の工学部として、技術系人材育成の中核をなしています
「東ティモールの皆さんはおおらか。赴任当初は、大学の教官も学部生たちも実習や講義に遅刻することは珍しくありませんでした。そこで日本の新幹線ダイヤになぞらえて“Shinkansen Time”と名付け、時間厳守を合言葉にしました」
そう笑顔で語るのは、東ティモール国立大学(UNTL)工学部で2003年から専門家として電気・電子工学分野の指導に携わる嶋川晃一岐阜大学名誉教授です。この時間をきっちり守る“Shinkansen Time”はその後徐々に定着し、工学部の間で重要なキーワードになりました。
東ティモール国立大学工学部で講義をする嶋川専門家(左)
「『自分たちの国は自分たちでつくっていく』という意識はとても強く、UNTLの教官たちは、この20年間で得た知識と経験を学生に伝えるために非常に熱心に工夫しています。例えば、日本に留学経験のある教員たちは、東ティモールの大学ではそれまで行われていなかったゼミ形式の卒論指導を自主的に導入しています」と、その熱意と積極性を嶋川専門家は語ります。
JICAは2001年にUNTL工学部の施設改修に着手。2020年1月には新校舎が完成しました。現在も、日本人専門家やインターンの派遣など学生や教官たちへの支援は続いています。
UNTLのルーベン・ジェロニモ・フレイタス工学部長や、電気電子工学科長のアベリット・フィリペ・ベロ氏もJICA専門家の指導を直接受けた教え子たちです。
東ティモール国立大学のルーベン・ジェロニモ・フレイタス工学部長
「工学部教官の能力向上に加え、カリキュラムの充実や教育方法の質向上など、JICAの支援による成果はとても大きいです。嶋川先生には、いきなり大きなことを望まず、少しずつ少しずつ、実質的な向上を確実に目指すことを教えられました。日本語で“ちょっとちょっと”という言葉を何度も言われて覚えてしまいました」とルーベン・ジェロニモ・フレイタス工学部長は笑顔で話します。
JICAの支援で竣工した首都ディリにある新フェリーターミナル。2隻が同時接岸でき、24時間運航も可能です。(写真提供/飛島建設株式会社)
生活物資の多くを輸入に頼っている島国東ティモールにとって、港湾整備は国の重要課題です。JICAは、港湾施設の整備と同時に、関連する人材の育成にも注力しています。
ディリ港をはじめとする港湾運営を統括管理する港湾公社(APORTIL)のジョセ・マデイラ・マルケス副総裁もその一人です。国家海運局(DNTM)所属だった2007年に、JICA研修員として来日し、約4カ月間、船舶安全の基本を学びました。帰国後、港湾整備の統括役に就任した後も、JICAのセミナーなどで学びを続けてきました。
海洋国家日本の港湾に関する知見を東ティモールで惜しみなくアドバイスする元横浜市港湾局所属の笹健二JICA専門家(中央)
「セッションの最初から大変熱心に質問してくる方がマルケスさんでした。次のセッションでも深く質問されるだろうと考え、彼のためだけに個別説明の時間を作ったぐらいです」と語るのは、マルケス副総裁が受講したセミナーで講師を務めた笹健二JICA専門家です。
その後、マルケス副総裁と笹専門家は協力して港湾整備事業に取り組み、現在は「東ティモールの戦略的全国港湾開発マスタープランプロジェクト」の調査を総括/監理するなど、二人の絆は東ティモールの港湾分野を牽引する役割を果たしています。
港湾公社のマルケス副総裁(左)と笹専門家(右)
20年にわたるJICAの人材育成支援は、東ティモール社会の各所で相互連携を生み出しています。UNTL工学部は港湾公社と共同で、港湾管理で重要となる潮位観測の研究を続けています。他にもUNTL工学部の卒業生が港湾公社に就職するなど、人材育成の成果による連携の輪が広がっています。
JICAはこれからも人づくりを主軸にして、「インフラのさらなる整備」「継続的な産業の多様化」「住民目線での社会サービスの提供」の3本柱で、東ティモールの新たな国づくりを支えていきます。
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