湊かなえさんインタビュー、トンガでの協力隊経験は私の宝物。「人生なんて、きっかけひとつ。思いがあるなら飛び込んでほしい」

2023.11.30

「告白」をはじめ多数の作品を世に送り出してきた作家の湊かなえさんは1996年12月から2年間、青年海外協力隊員として南太平洋のトンガ王国で「家政」という職種で活動されていました。
今年はトンガ王国への青年海外協力隊派遣50周年、これに合わせてトンガOVである湊さんへ、青年海外協力隊事務局、橘局長によるインタビューが実現。
協力隊に応募したきっかけ、トンガでの生活、協力隊経験がどんな影響を与えているのか、「人生なんて、きっかけひとつ」、今の湊かなえさんにつながる軌跡をどうぞ。

通勤バスでみた中吊り広告が、まさに人生の転機

大学4年の時に阪神淡路大震災があり、その後アパレルメーカーに就職して、京都の百貨店に勤務しました。通勤バスの中で協力隊募集の広告を見かけ、次の百貨店の定休日に梅田で説明会があると書いてあったので、行ってみようと思ったんです。会場でもらった資料に、トンガ王国で女子高の生徒に家庭科を教える、という要請がありました。小学生の時から「天国に一番近い島」を読んで、南の島に興味を持っていたこともあり、これは私が行く案件だ!と感じたんです。出来る時に、出来ることに挑戦してみたい、という気持ちになれたのは被災した経験があったからかもしれません。

説明会でトンガの要請を見た瞬間から、これは私のための案件と確信して迷うことなく応募しましたが、二次面接でフィジーの案件を進められ、絶対トンガに行きたい、と一生懸命アピールし、無事に派遣国がトンガに決まりました。自身の語学力が高いわけではなく、学校で教える案件だったこともあり、語学が一番心配でしたが、派遣前に訓練所で午前中は語学、午後は異文化理解など、派遣先で必要な勉強をしました。これが本当に楽しかったんです。私は一番若い世代で23歳で協力隊に参加したのですが、色々な社会人経験を積んでから参加している人もいて様々なことを教えてもらいました。大学などは似たような興味を持った人が集まることも多いですが、訓練所には本当に多様な人たちが集まっていて第2の青春時代を過ごした感じでしたね。

当時、トンガでは生活習慣病が問題になっていて、その栄養指導のために行きました。ただどんなに栄養指導をしても理屈と気持ちは違って、休憩では先生たちもミルクティーに砂糖を大匙4杯入れていたり、「神様のそばにいけるから死ぬのは怖くない」と言われたり。活動をどうやって進めたらいいか、と悩むことはありました。他の家政隊員とも協力して料理教室をやったりしましたが、2年の任期が終了したときには、結果は残せなかったなと思って帰国しました。
ところが2015年にトンガを再訪する機会があり、その時に学校に行って、当時の校長先生にもお会いしたら、すっかり痩せていたんです。甘いミルクティーの代わりに庭でとれたハーブティーを飲んでいて、当時、結果は出なかったけれど、こうやってつなげていくことが大事なんだなぁ、と改めて感じました。

「作家:湊かなえ」につながったトンガでの日々

当時はまだパソコンを持っていく隊員も少なく、日本との通信手段は手紙がほとんどでした。学生時代の友人や訓練所で仲良くなった人等、いろいろな人に手紙を書いて、返事が来ることも多かったんです。そういった手紙の中に、暑い国だと「暑い」に関連した言葉もたくさんあるのだろうか?という記載もあったりして、この人はそういうことに興味があるのか、と、人のいろんな面が見つかることが面白くて。確かに数えてみたら、トンガ語で暑いという表現が8種類くらいあって、今日の「暑い」はこれかな?と使ってみたら、トンガ人には今日はこっちの「暑い」が正しいと言われる、という経験もありました。また過去の隊員が残していった本がたくさんあって、それぞれお気に入りの本を厳選して持参してきていたので、興味深い本が多くありました。日本語が恋しくて人生の中で一番、本を読んだ時期でもありましたね。
トンガという宗教や文化の違うところで生活して、お互いが違う価値観をもっていても、いい方向に向かえるように共に考えることが出来るようになりました。ないものを求めて嘆くより、今あるもので何ができるのか、どう生きるかを考え、その場を乗り越える力、たくましさが身に付いたように思います。

自分を支えてくれたトンガのみなさんへ、そして応募を検討している方へ

トンガで家族のように接してくださった人がいたおかげで、本当につらいと思うこともなく活動することが出来ました。トンガで受けた恩をトンガに返したい、という気持ちを伝えたいです。同時に日本国内でも次の世代に何か恩返し的に貢献できることがあればと感じています。
帰国して25年たちますが、昨日のことのように思い出せて、それが今のしんどいことも助けてくれていると感じます。
協力隊に参加したことで世界が自分の腕のなかに入る感覚というか、あの国は同期の誰が行った国という捉え方が出来るようになり、世界の出来事が他人事に思えなくなりました。
少しでも協力隊に興味を持った方は説明会に行くことをお勧めします。特に若い人達にはJICA海外協力隊を経験してみてほしいです。行って大変な思いをすることはあっても、行ったことを後悔している人はまずいない。いろいろ心配するよりも、本当に貴重な経験になるので、まずは受けてみてほしいですね。私にとって通勤バスの中吊り広告は本当に「きっかけ」でした。協力隊という選択肢があることを知ってほしいですし、ハッと思った時がきっとタイミングだと思います。

インタビューでは、同じように阪神・淡路大震災を経験し、通勤途中の中吊り広告を見てJICA海外協力隊に応募した協力隊事務局の橘局長と大いに盛り上がりました。
JICA海外協力隊事業は今までに55,000人以上を99か国に派遣していますが、経験者のみなさんも、湊さんと同じように「人生なんて、きっかけひとつ」で応募を決意されたのかもしれません。

2023年JICA海外協力隊秋募集の締め切りは2023年12月11日(月)正午まで。応募方法等、詳細はこちらへ。JICA海外協力隊

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