【COP特集・2】持続可能な森林管理で地球を守る コンゴ民主共和国の森林保全プロジェクト

#13 気候変動に具体的な対策を
SDGs
#15 陸の豊かさも守ろう
SDGs

2023.11.22

気候変動対策などを議論するCOP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)が、11月30日から12月12日までアラブ首長国連邦で開催されます。これを機に、JICAが協力する気候変動対策に関する取り組みを2回にわたって取り上げる本シリーズ。2回目となる今回は、世界で2番目に多くの熱帯林を有するコンゴ民主共和国での森林保全プロジェクト。持続可能な森林管理の実現で、気候変動対策、そして生物多様性保全に寄与する取り組みです。

森林減少と気候変動の関係

今年7月、世界の月間平均気温が過去最高を更新。国連のグテーレス事務総長が「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が到来した」と警告するなど、地球規模で喫緊の課題となっている気候変動ですが、その原因として、化石燃料の使用に加え、森林減少も挙げられます。

森林は、大気中の二酸化炭素(CO2)の一部を吸収するなど、酸素や炭素の循環を調節する役割を担っています。特に、年間を通じて温暖湿潤な条件にある熱帯林は、盛んに光合成を行うとともに大量の炭素を蓄えています。そのため熱帯林の伐採は、木々やその土壌が蓄えていた炭素を放出させることで地球温暖化を助長してしまうのです。世界の温室効果ガス排出量の13-21%が、森林伐採など(※)によって排出された温室効果ガスだとされています。そのため気候変動対策においては森林破壊を食い止めることが非常に重要ですが、大気中の温室効果ガスを吸収する方法として、植林などで自然生態系を再生することでの貢献も期待されています。

  • 2010~2019年の農業・林業・その他土地利用セクターでの排出量
    出典:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)

「地球の片肺」の保全の重要性

アフリカ大陸中央部に位置するコンゴ川流域のコンゴ盆地(コンゴ民主共和国、コンゴ共和国、カメルーン、ガボンなどにまたがって分布)は、アマゾンに次ぐ大きさの熱帯林を抱えており、その面積はアフリカ全体の熱帯林の90%にも及びます。その多くを抱えるコンゴ民主共和国では、農地開墾や薪炭材(まきや炭)のための伐採などにより毎年多くの森林が失われています。2002年からの20年間で、約630万ヘクタール(日本の国土面積の約17%)が失われ、特に2014年以降は年間で約45万ヘクタールを超える著しい熱帯林の減少が続いています。

「地球の片肺」とも呼ばれ、ボノボやオカピなどの希少な動物が生息し生物多様性を有するコンゴ盆地の熱帯林の保全は世界的課題であり、2021年にグラスゴーで開催されたCOP26でも、コンゴ盆地の森林の保護と持続可能な管理を支援するための共同声明が採択されています。

他国との連携が鍵

このコンゴ盆地の熱帯林を守るため、JICAはコンゴ盆地の熱帯林の60%が位置するコンゴ民主共和国(以下、コンゴ民)で、2012年から森林モニタリングシステム構築のための技術協力など、森林保全のための協力を進めていました。ここでの成果が、コンゴ民の環境省および関連する他国の援助機関や国際機関から高く評価され、新しいプロジェクトの要望があがったことから、2019年からは、同国西部のクウィル州を対象にした新たな森林保全パイロットプロジェクトを開始しました。

このプロジェクトは、JICAが中部アフリカ森林イニシアティブ(Central Africa Forest Initiative: CAFI)と協調して進める事業です。CAFIは、ノルウェー、ドイツ、フランス、イギリスなどが出資し、国連開発計画(UNDP)が事務局を務める国際的資金の枠組みです。このCAFIの枠組みを活用して他国と連携することが、本プロジェクトにおいて非常に重要だとJICA地球環境部の栗元優さんは話します。「コンゴ民の面積は、西ヨーロッパに匹敵するほど広大で、日本だけの活動で森林減少を食い止めることはできません。他国と連携し、またコンゴ民政府とも対話を重ねながら、協力を進めていく必要があります」

JICA地球環境部 森林・自然環境グループ課長の栗元優さん

JICA地球環境部 森林・自然環境グループ課長の栗元優さん。2013年からJICAアフリカ部で中部アフリカに関わり始め、2017年からコンゴ民事務所へ赴任。長年コンゴ盆地の環境分野に関わる

森林の再生を図り、今ある森を守る

プロジェクトの実施地であるクウィル州は、日本の北海道と同程度の面積・人口密度を有し、人口1千万人都市である首都・キンシャサに隣接しています。同国では首都キンシャサでさえ電力インフラが十分整備されていないため、同州は煮炊きのための薪炭材の供給源となっており、そのため、他州と比べても森林減少圧力の高い州となっています。2010〜2014年には年平均で約7,870ヘクタールも森林が減少していることが確認されています。

クウィル州の幹線道路沿いに薪炭材が詰まった袋が並んでいる

クウィル州の幹線道路沿いに並ぶ薪炭材が詰まった袋。多くがキンシャサに運ばれていく

そこでプロジェクトでは、同州の250村で、植樹で森を作りながら農作物も栽培するアグロフォレストリーを実施。2年経てば人の背丈以上になる早成樹のアカシアや果樹(マンゴー、アボガドなど)、在来樹種などを植樹し、育てた森から薪炭材やフルーツを持続的に採取することで、現存する森林を伐採から守ります。合わせて現地で日常的に食べるキャッサバ、トウモロコシ、落花生といった作物を同じ土地で栽培しています。

畑に植栽する様子

植栽直後の様子。アカシアの苗木の間にキャッサバ、とうもろこしや雑穀を栽培。アカシアには窒素固定作用があり、土壌を豊かにもしてくれる

苗木や畑の食物が大きく成長した様子

植栽から2年後。立派な林になっている

アグロフォレストリーの森を作るプロセスで、植樹の場所や農作物の栽培場所のマッピング、農作物の種類の決定などは、村の人々に決定権を委ねていると栗元さんは言います。「住民の方々が納得し、自発的に行動してもらうからこそ、持続可能な森林保全活動が行えます」(栗元さん)

そしてこのプロジェクトは、「REDD+(レッドプラス)」という国際的な取り組みの中で進められています。REDD+とは、途上国が森林減少や劣化を抑制し、温室効果ガスの排出量削減などを達成した場合に、その国に対して一定の経済的インセンティブを付与する気候変動対策のこと。国や州レベルでの森林保全の取り組みを長期的なスパンで評価するものです。継続的な森林保全活動を行いながら国やコミュニティの主体的な森林保全意識を高めることで、炭素排出の抑制と、森林を始めとした生物多様性の保全、コミュニティの生計改善につながるものとして期待されています。

村の人々による土地利用計画マッピングの様子

村の人々による土地利用計画マッピングの様子。村の中でどのように森林保全を行うか、村主体で考えてもらう

コミュニティのオーナーシップを尊重するアプローチに高い評価

現在、プロジェクト開始から4年が過ぎ、クウィル州では目標面積の約80%である3,960ヘクタールでアグロフォレストリーを展開しています。また対象となる村では保全すべき森林の特定や保全ルールの策定にも取り組んでいます。2022年にCAFI資金事業の監督機関であるFONAREDD(Fonds National REDD/国家REDD基金)と合同で行った中間レビューでは、JICAの「現地コミュニティのオーナーシップ(主体性や所有者意識)を尊重し、丁寧な対応を行っている」という姿勢が高く評価されました。プロジェクトでは引き続き村のオーナーシップを尊重したアプローチに重点を置き、5,000ヘクタールのアグロフォレストリー実施と森林保全活動に取り組む予定です。そして、プロジェクトが終了したあとも、コミュニティで培われた技術と知識によって継続して持続的森林管理に取り組めるようになることを目指します。

「現地コミュニティ、クウィル州政府、コンゴ民環境省のオーナーシップや連携を一層促進し、コンゴ民の森が将来の世代へと引き継がれるように注力したい」と栗元さんは話します。

アグロフォレストリーで成長した森を高台から見る人々

アグロフォレストリーで成長した森(クウィル州Kimbedi村)

日本ならではの視点での貢献

世界のあらゆる国々にとって脅威である気候変動。途上国の多くはその影響を回避・緩和する対策を十分に講じることができないため、社会・経済に大きな影響があると考えられます。そのため国際社会全体で対策を講じる必要があり、JICAも開発事業で温室効果ガス排出削減などの「緩和策」や、気候変動による影響の回避・軽減を図る「適応策」を講じています。そのような緩和策のひとつに、このコンゴ民でのプロジェクトのような森林保全の取り組みがあるのです。

「日本は、山や森、海などの自然に囲まれ、四季の変化を繊細に感じる一方で、常に自然災害と隣り合わせです。そして『八百万の神』と表現されるように、自然を礼拝の対象とするなど、長い歴史の中で日本ならではの自然との関わり方が育まれてきました。そんな日本だからこそ、世界の自然環境保全へも積極的に貢献ができると思いますし、そうした役割が世界からも期待されていると感じています」(栗元さん)

村の女性たちによるアグロフォレストリー準備作業

村の女性たちによるアグロフォレストリー準備作業

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