JICA×JAXA! 共創が広げる、宇宙技術×開発協力の可能性

#9 産業と技術革新の基盤を作ろう
SDGs
#17 パートナーシップで目標を達成しよう
SDGs

2024.02.01

JICAとJAXAが連携協定を締結してから2024年4月で10年を迎えます。開発協力×宇宙技術の可能性を引き出したこの連携は、これまで何を生み出したのか、そして今後どのように展開していくのか——。JAXAバンコク駐在員事務所の中村全宏所長と、JICAガバナンス・平和構築部STI・DX室の高樋俊介室長が熱く語ります。

高樋俊介・JICAガバナンス・平和構築部STI・DX室長と中村全宏・JAXAバンコク駐在員事務所長

左から、高樋俊介・JICAガバナンス・平和構築部STI・DX室長、中村全宏・JAXAバンコク駐在員事務所長

78か国で違法伐採の抑制に貢献

高樋 この10年のJAXAとのさまざまな連携の中でも、大きな成果を挙げることができた点で言うと、やはり、違法伐採の抑制に貢献したJICA-JAXA熱帯林早期警戒システム(JJ-FAST)です。天候や雲に影響されずに観測が可能な衛星「だいち2号」のデータを用い、熱帯林減少を早期発見するこのシステムを開発し、運用することができました。

中村 78か国で違法伐採を検出できたことは、JAXA関係者一同も誇りに思っています。テクノロジーを開発し、完成させることはもちろん大事ですが、社会経済や地球環境にとってそのテクノロジーが生かされることこそ、我々研究・開発機関にとって大きな喜びです。ブラジルなどの関係国政府から受けた感謝も大きなモチベーションになりました。

JAXAの陸域観測技術衛星2号「だいち2号」のCGイメージ

JAXAの陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)のCGイメージ(画像提供: JAXA)

高樋 ブラジルではJJ-FASTの運用と同時にAI技術を用いたアマゾンにおける違法森林伐採の予測システムの構築など、ブラジル政府の森林管理能力の向上を図ることもできました。JICAらしい協力と言えます。78か国の途上国で衛星データをシェアして、違法伐採を抑制したこの一連のプロジェクトは、JICAにとっても、衛星データと宇宙技術、そしてオープンイノベーションを活用した協力の在り方を学ぶ機会にもなりました。

また、宇宙機関を新しく設立する途上国も増えている中、宇宙人材の育成に向けてもJAXAとの連携は欠かせません。2019年から始まった宇宙技術活用ネットワーク構想(JJ-NeST)では、東南アジアを中心に、将来、自国での宇宙技術開発や利用を担う実務者・研究者に、JAXAの研究者をはじめ、民間企業の実務担当者から最先端の技術を学ぶ機会を提供し、日本の大学院への留学も支援しています。

中村 JJ-FASTは、テクノロジーの活用で今ある顕在化した社会課題に対してソリューションを提供し、環境を保護し、問題を改善していく直接的な取り組みです。他方、JJ-NeSTのような人材育成は、10年後、15年後を見据えた未来への取り組みです。日本での学びや培った人脈を生かして彼ら彼女らが活躍し、いつか一緒に仕事ができることを楽しみにしています。

JAXAバンコク駐在員事務所の中村全宏所長

JAXAバンコク駐在員事務所の中村全宏所長

JICAとJAXAの代表的な連携事業

さらに広がる、衛星データ活用の可能性

高樋 JICAは防災分野で、洪水、土砂災害、地震、火山噴火などの被害状況を把握する際に、衛星データを提供する宇宙機関、データを解析する研究機関、そして、そのデータを活用する行政機関の三者が連携する「センチネルアジア」※1と連携しています。また、2023年5月にアフリカのルワンダで洪水が発生した際には、ルワンダ宇宙庁からJICA事務所に、復興対策に向けて衛星データが活用できないかという連絡があるなど、近年多くの途上国から、さまざまな社会課題の解決に向け衛星データを活用したいという声が上がっています。

中村 私は今バンコクに駐在しているのですが、稲作が盛んな東南アジアでは、農業分野での衛星データの活用が進んでいます。衛星地球観測データとAIを組み合わせて農業気象をモニタリングするアプリケーションを研究開発し、稲作地の作況のタイムリーな把握や収量予測を行ってより効率的に収量をあげることができるような取り組みを行なっています。また、タイをはじめとする同地域各国では、衛星から高精度な位置情報を得るために地上に設置する「電子基準点」の整備を進めることで、農機の自動運転を進めるなど、スマート農業の推進にも力を入れています。

水稲の作付面積・収量を推定するアプリケーション「INAHOR」の画面

JAXAが開発した「だいち2号」の衛星データとAIを組み合わせて水稲の作付面積・収量を推定するアプリケーション「INAHOR」の画面

自動運転農機が畑を走行する様子

JICAはタイで「電子基準点に係る国家データセンター能力強化及び利活用促進プロジェクト」を実施し、自動運転農機の農作業への導入を促進している。2023年6月にはスマート農業の普及促進イベントも開催
イベント「Agri DEMO DAY」の様子

高樋 衛星データ活用のポテンシャルは確実に広がっています。保健分野でも、感染症がどのように拡大していくか把握するために衛星データの活用が期待できますし、人々の所得向上や生活改善に結び付けていくことも可能だと思います。当室ではJICAのあらゆる取り組みの中に宇宙技術・衛星データの利活用が進むように取り組んでいます。

中村 最近はじめた取り組みとして、「水田由来の温室効果ガス削減プロジェクト」があります。実は、水田からは微生物の働きによって意外にも多くのメタンガスが排出されています。宇宙から「だいち2号」の衛星データを活用して水田の水位を測り、地上のIoTセンサーや排出量の算定手法を組み合わせることよって、収量を維持しながら水位をコントロールしメタンガスの排出は削減する、ということを目指した実証プロジェクトを進めています。これが可能になると、温室効果ガスの排出削減量を排出権として「クレジット化」でき、農家はクレジットを取引することで所得向上につながり、SDGsに掲げる貧困をなくすることにつながっていくと考えます。同プロジェクトは、昨夏よりフィリピンで開始し、タイやベトナムなど地域各国での実施も計画中です。ぜひこのような取り組みを、現地の事情に精通しネットワークも有するJICAと取り組んでいければと期待しています。

また、この取り組みは、JAXAだけで進めていないことがポイントです。フィリピンの事例では民間企業、JAXA、ジェトロ、現地の大学・地方政府・農家が連携して進めています。多様なプレーヤーのグローバルなパートナーシップによってイノベーションが進み、将来的には民間事業化されて、経済の力でサステナブルな活動により社会課題が解決されていくことを目指しています。

高樋 是非、一緒にやっていきたいですね。2023年6月に改定された開発協力大綱では、「共創」と「国際頭脳循環」※2が鍵になると示されています。もちろん伝統的な政府間同士の取り組みへのニーズはあります。ただ今後、さらに地球規模の課題、途上国のさまざまな開発課題の解決に宇宙技術・衛星データを活用していくには、JICAとJAXAがハブとなって、スタートアップや大学・研究機関などさまざまなプレーヤーと連携していくことが重要だと考えています。

そのためには、例えば、人材育成を図るJJ-NeSTをプラットフォームとして立ち上げ、宇宙分野で産業振興を進める地方自治体や大学、地元企業と途上国をつなぐような取り組みも今後進めていきたいです。

高樋俊介・JICAガバナンス・平和構築部STI・DX室長

高樋俊介・JICAガバナンス・平和構築部STI・DX室長

中村 2022年、JAXAが中心となり産学官が集い、衛星地球観測の力で共に未来を創り出すため、「衛星地球観測コンソーシアム(CONSEO)」を立ち上げました。現在、JICAも含め、参加する民間企業や地方自治体など200を超える組織や法人とともに衛星地球観測がさらに社会経済に貢献できるよう連携を始めています。私はこのコンソーシアムでグローバル展開を担当しているので、JICAとタッグを組んで、両機関がこのコミュニティの中心となるハブとなってさまざまな共創を生み出していければと思っています。

宇宙活動は社会課題をサステナブルに解決する手段

高樋 途上国で宇宙機関の設立や自国で衛星を持ちたいといった動きが加速している背景には、国際情勢と安全保障環境に対する問題意識といった側面もあると考えます。宇宙新興国が日本を信頼できるパートナーとして見てくれていることは極めて重要であり、ニーズにも応えていきたいです。

中村 各国には、社会課題解決や経済成長への意欲といった背景もあると思います。これらの課題に対してJAXAはテクノロジーを提供できます。しかし、現地の社会課題やその連携先の情報を持ち合わせません。だからこそJICAとの連携が重要です。

そして将来的には、JICAとJAXAだけが活躍している姿ではなく、我々がCONSEOなどのコミュニティの中心で多様なプレーヤーと社会経済との間の懸け橋となり、宇宙活動を社会経済にとって不可欠なものとしていく形が理想でありゴールです。サステナブルな宇宙活動はサステナブルな社会課題解決につながっていきます。グローバルな目線と宇宙の視点からさまざまなパートナーが地球規模課題に取り組める土壌をしっかり作っていきましょう。

高樋  JICAの職員ら45名が昨年9月、JAXAの筑波宇宙センターで研修を受けました。衛星の利活用や宇宙技術を、JICAが取り組むさまざまな開発協力分野での課題解決に活用していくためです。民間企業の宇宙技術やソリューション・サービスは開発の現場でこそブラッシュアップされると考えます。その仲介役を果たすJICA関係者のマインドセットの変化も必要です。JICA、JAXAとともに途上国の課題解決に取り組んでくれた日本の宇宙のスタートアップが「スペースX」のような規模の企業に成長してくれると嬉しいですね。

高樋俊介・JICAガバナンス・平和構築部STI・DX室長と中村全宏・JAXAバンコク駐在員事務所長

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