相川七瀬さんがアマゾン違法森林伐採現場で見たものとは?
2025.11.10
11月10日から世界の気候変動対策を議論する「国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議」(COP30)がブラジルで開催されます。気温上昇を抑えるための具体策が議論されますが、そのお膝元のアマゾンでは、違法伐採による熱帯雨林の減少が進んでいます。環境問題に関心を寄せるロックシンガーの相川七瀬さんが現地を訪れました。
アマゾンの自然を体感する相川さん
ジャングルに足を踏み入れた相川さんは、静かに目を閉じました。
葉のざわめき。したたる水音。木漏れ日と甘い匂い。
五感で森の豊かさを感じているようです。
「アマゾンを訪れることは、長年の夢でした」
1995年に20歳でデビューした相川さんは、45歳の時、國學院大学に入学しました。神道のベースにある「自然との共生」が研究テーマで、環境保護活動にも従事してきました。
「以前、インドネシアのボルネオ島にあるアブラヤシのプランテーションを訪れた時に感じたことがあります。自然の恵みがあるからこそ、私たちは都会で便利な生活を送ることができるんだ、って。森と生きてきた日本人だからこそ、『地球の肺』とも呼ばれるアマゾンのことを知っておく必要があると考えていました」
相川さんは今回、海外ツアーでブラジルを訪れました。スケジュールの合間をぬってのアマゾン訪問でした。
アマゾンのジャングルに足を踏み入れた相川さん
アマゾン流域の熱帯雨林は今、厳しい伐採危機に直面しています。森林の減少面積はブラジル部分だけでも1990~2020年の30年間で約40万1000平方キロメートルに上ります。これは日本の国土(約38万平方キロメートル)を上回る広さです。1年間で長野県とほぼ同じ面積の森林が失われている計算です。
違法に伐採された木材
相川さんはJICAから派遣されている環境学の専門家の元を訪れました。
ブラジル環境省の下部機関「環境・再生可能天然資源院(IBAMA)」で違法伐採の監理と森林の保全活動を進める小此木宏明・チーフアドバイザーです。
現地で活動する小此木宏明・チーフアドバイザー
「なぜ、違法な森林伐採が行われているのでしょうか」
相川さんが問いかけると、小此木さんは主な理由を二つ挙げました。
①高級家具の材料になるマホガニーなど、生えている樹木そのものが目的
②農業用地や牧草地にするための土地を確保するのが目的 ――だと言います。
「アマゾンの土壌は森を切り開いて耕地や牧草地にしても、2〜3年で土の養分がなくなり、作物は育たなくなります。日本とは違い、土壌の深い部分の栄養が少ないからです。継続的に牧草地として使おうとすると肥料を入れる必要がありますが、アマゾンでは別の森を伐採してしまった方が安上がりなのです」
放置された土地が森に戻ることはありません。
ブラジル政府は違法伐採の監視と取り締まりを強化していますが、アマゾンは日本の国土の約13倍の広さです。監視の目が行き届かないという課題もあります。
小此木さんに話を聞く相川さん
「広大な大地を守るにはどうしたらいいのでしょうか」
相川さんが問いかけると、小此木さんが空を指さしました。
「答えは宇宙にあります」
JICAとIBAMAは2009年から、「アマゾン森林保全・違法伐採防止のためのALOS衛星画像の利用プロジェクト」をスタートさせました。
このプロジェクトは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の運用する地球観測衛星「だいち」を活用。衛星画像から森林変化を検出し、IBAMAやブラジル連邦警察に情報を共有する仕組みを構築するものです。3年間の取り組みにより、違法伐採数を半減することに貢献しました。
衛星画像を分析するIAAMAの職員たち
2021年からは、さらに精度の高い陸域観測技術衛星「だいち2号」を使用した「先進的レーダー衛星及びAI技術を用いたブラジルアマゾンにおける違法森林伐採管理改善プロジェクト」を始めています。最先端のAI技術を導入して伐採の「恐れ」のある場所を絞り込む技術も導入されています。この技術によって、森林火災を感知することもできます。
「パトロールの現場をみせていただけますか」
相川さんの希望でIBAMAの活動に同行することになりました。
相川さんを乗せた車が、砂煙を上げながら、一面の焼け野原を走っています。車窓から見えるのは、燃え残った低木ばかりの灰色の土地です。遠くには、まだ煙がくすぶっています。ここは2週間前に森林火災が起きた場所です。原因は自然発火だと言います。
森林火災が起きた場所にたたずむ相川さん
アマゾンでは近年、森林火災が多発しています。気候変動の影響も指摘されており、違法伐採と並び、熱帯雨林を減少させる要因の一つになっています。
IBAMAのスタッフのナラさんは話します。
「アマゾンの状況はとても厳しいです。しかし、人工衛星の情報がどこでも手に入るので、違法伐採や火災があった際にはすぐ現地にかけつけて、火災が広がる前に止めることができるようになりました。今も見えますが、奥の方には木が残っています。これは火災が始まって、早く消火できているからです。衛星の情報はとても役立っています」
相川さんと語り合うナラさん
ナラさんはアマゾンの熱帯雨林を守る意義を次のように語ります。
「この自然を守ることによって、将来の子供たちがよりきれいな空気の中で健やかに暮らせるようになります。自然を守ることでより良い社会を作り、地球を守ることができます。私はこれをやりがいとして、この活動に取り組んでいます」
現地訪問を終えた相川さんには新たな気づきがあったと言います。
「地球で暮らす私たちにとって、『地球の肺』と呼ばれるアマゾンは、かけがえのない共通の財産だということを実感しました。そのアマゾンを守り、次の世代へとつなげていく取り組みはとても重要なことです。みなさんにも、アマゾンのことをもっと知ってもらえればと思います」
現状を知ることが未来への想像力を育み、地球を守ることにつながるーー。
それが相川さんのメッセージです。
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