ウクライナ全面侵略4年 日本企業の技術が復興に貢献
2026.02.09
現地の合弁会社の共同経営者と握手を交わす田中離有社長
ロシアによるウクライナ全面侵略の開始から2026年2月で4年になります。戦闘が終結する兆しは見えませんが、非戦闘地域ではインフラの復旧・復興作業が始まっています。JICAでは高い技術力を持つ日本企業のウクライナ進出をサポートすることで、現地の復興に協力しています。プロジェクトの現状をレポートします。
「今、ウクライナには『二つの戦場』があります。一つは、みなさんが勇敢に戦っている、目に見える防衛の戦いです。そしてもう一つは、足元で静かに進行している『大地の危機』です。私たちが持つ技術は、この危機への対策となりえます」
2025年12月16日、ウクライナの首都キーウ。農業用機械の開発・製造を手がける「カクイチ」(長野市)の田中離有社長は、現地に設立した合弁会社の記念イベントで、そうスピーチしました。カクイチは微小な泡の力で土壌を改善する「ナノバブル」と呼ばれる技術を有しており、その技術を生かして「大地の危機」に向き合っています。
ウクライナは農産物の輸出大国である一方、農地では塩害や土壌劣化が進行しています。この背景には気候変動と大規模栽培に伴う肥料過多の影響があります。更に戦争による重金属汚染も深刻化しています。こうした課題に対し、カクイチは現地に設立した合弁会社を通じ、ウクライナの土壌再生に向けた支援を進めているところです。
田中社長は「ウクライナに進出しようと思ったのは、2024年に現地からの視察団が来たことがきっかけです。ちょうど海外への進出を考えていたタイミングだったのですが、ウクライナの人々と接するうち、この人たちのために何かできないか、と考えるようになりました。当初はナノバブルを発生させる機械の輸出だけを検討していたのですが、JICAのサポートのおかげで現地に足がかりを作ることができました。これにより、長いスパンでウクライナの土壌再生支援に携わることができます」と話します。
設立記念イベントでスピーチをする田中社長(左)
2022年2月のロシアによる全面侵略の開始以来、ウクライナでの戦争による被害は1760億ドルに上ると推計されています。地雷汚染やロシア軍の占領によって、農地の20%が使えなくなりました。エネルギー等のインフラ施設の被害に加え、公共施設も大きな被害を受けています。ウクライナ政府によると、2025年8月時点で1779校が損傷し、226校が完全に破壊されました。既存の教育施設の老朽化も進んでいます。ウクライナの復旧・復興には、さまざまな技術を持つ企業の力が欠かせません。しかし、戦闘が続く状況では膨大な防衛費を優先せざるを得ないため、諸外国の支援が必要とされています。
こうした課題に対応するためのプロジェクトが、JICAの「ウクライナ・ビジネス支援事業」です。2024年度にスタートしたこのプロジェクトは、高い技術力を持つ日本企業のウクライナへの進出をサポートすることで経済基盤を強化し、戦災からの復旧・復興に貢献することを目的としています。
一方で戦時下の国でビジネスを展開することは容易ではありません。言葉や商習慣の壁に加え、戦争による想定外のリスクもつきまといます。JICAのプロジェクトでは、こうした参入障壁やリスクを軽減するため、ウクライナへの進出を検討する企業に対しコンサルティングサービスを提供し、市場調査やパイロット事業の実施を支援しています。2024年度は14件の新たな事業を採択しました。土壌再生支援のカクイチもその一つです。
田中社長は「戦時中なのでまず情報が入りません。現地とやりとりしても十分ではありません。現地渡航や現地の関係者および研究機関とネットワーキングができたのはJICAの支援のおかげです。特にニーズ調査やパイロット事業のサポートがなければ、現地に進出することはできなかったと思います」と振り返ります。
山形県の鉄骨メーカー「メタルプロダクツ」も、「ウクライナ・ビジネス支援事業」に採択された企業の一つです。
渡邊進社長は「弊社ではもともと、ウクライナの隣国モルドバに拠点を持っていました。戦争が始まってからは、『弊社だからこそできることがあるのではないか』と考えていたのですが、リスクの高さがネックになっていました。JICAの支援事業はウクライナへの参入障壁を乗り越える手助けになりました」と振り返ります。
メタルプロダクツは、キーウ州ディメル村にある公立幼稚園向けの給食センター建設を支援しました。この村では、幼稚園の給食センターの老朽化が問題になっていましたが、現地では戦争で被害を受けたインフラ施設の復旧が優先され、民生用施設の建設を手がける業者が不足していました。村にとっては、優れた生産管理技術を持つメタルプロダクツの存在は「渡りに船」でした。
ディメル村の幼稚園に通う子どもたち
メタルプロダクツの役割は現地のパートナー企業に対し、日本の生産方式を伝授しつつ、工事に必要な部材の生産工程などを管理することでした。この業務はオンラインでのコミュニケーションが中心になるため、言葉や商習慣の違いを乗り越える必要がありました。
そこで活躍したのがウクライナから日本に避難していたマリヤ・ボンダレンコさんです。現地傭人として採用されたマリヤさんは、パートナー企業とのオンラインでのやりとりや資料の翻訳、工事に関する手続きをサポートしました。
マリヤさんは「ウクライナでは多くの人が軍隊に入ったり、危険な地域でボランティアをしたりすることで、国に貢献しています。私も日本語学校で日本語を学んでいた経験を生かして、祖国の復興に貢献したいと思いました」と振り返ります。
メタルプロダクツ の渡邊進社長(前列右)とプロジェクトに携わったマリヤ・ボンダレンコさん(後列中央)
渡邊社長は「マリヤさんがいなければ、3カ月半で幼稚園の給食センターの建設を終わらせることはできなかったと思います」と振り返ります。また、今後の展開については「現地では今、弊社の強みである鉄骨の加工技術を生かせるシェルター建設の需要が高まっています。こうしたビジネスを通じて、ウクライナに貢献できればと考えています」と話しました。
タルプロダクツが建設に関わった給食センターで村長と握手を交わす渡邊社長。
JICAウクライナ支援室の田中耕太郎室長は、日本の民間企業がウクライナの復興に関わる意義について語ります。
「ロシアによる全面侵略により、他国に避難する人が増え、ウクライナの人口は4000万人から3000万人へと減りました。避難した人たちに戻ってもらうには、生活基盤に加えて安定した仕事も必要です。日本企業のウクライナへの進出は、現地での雇用の創出につながります」
ウクライナ支援室の田中耕太郎室長
ウクライナにはドローンや電子化など独自に発展している分野があり、日本の社会課題の解決やイノベーションの創出にもつながる可能性があると言います。
田中室長は「日本企業のウクライナ進出を通じ同国の復興を支援することは、長期的には日本の活力にもつながります。多くの企業にウクライナへの関心を持ってもらえればと思います」と呼びかけています。
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