インドからの長期研修員が歩む数理学者の道

【写真】GOEL Akshay(ゴエル・アクシャイ)さんJICA長期研修員(九州大学大学院数理学府)
GOEL Akshay(ゴエル・アクシャイ)さん

今回の「人」明日へのストーリーは、JICAの長期研修員「インド工科大学ハイデラバード校日印産学研究ネットワーク構築支援プロジェクト(通称 Friendship)」として九州大学大学院数理学府で博士号を取得されたインド出身のGOEL Akshay(ゴエル・アクシャイ)さんです。ゴエルさんは九月末にインドに帰国し、帰国後は研究者を目指しているそうです。また、大学院在学中にはハワイの学会で表彰を受けるなど非常に研究熱心な方です。

そこで、今回はゴエルさんに大学院での研究内容や母国インドのお話、学会表彰のエピソードなど、長期研修中に体験した様々なことについてお話を伺いました。ゴエルさんの長期研修員としての経験を是非、ご覧ください。

母国インドはどのような国ですか?

インドは一言でいうと「自由」な国です。インドでは様々な宗教が信仰されており、多種多様な民族・言語が存在します。そのようなインド社会では、他人をありのまま受け入れようという文化が昔からそなわっているように感じています。そういった寛容性がインドには存在します。だからこそ、自由が保たれていると思います。その他には、皆さんもご存知の通りインドカレーに代表されるスパイシーな食べ物も有名です。福岡では屋台グルメが人気で有名ですが、インドにもそのような屋台はいたるところで見ることができます。いわゆるストリートフードと呼ばれるものですね。その点で、福岡にはとても親近感が湧きました。

日本に来られた経緯を教えてください。

実は、数年前まで自分が海外に行くことになるとは思っていませんでした。そもそも、私自身、昔から海外に行くことにあまり興味がなく、海外で勉強するということは全く考えていなかったためです。しかし、大学入学後(学士号、修士号はインドで取得)、留学を支援する様々な奨学金制度が存在することを知り、そこから少しずつ興味を抱くようになりました。数ある奨学金制度の中からJICAの長期研修員プログラムを見つけ、応募してみることにしたのです。数年前までは日本に博士号を取りに来ることになるとは思ってもいませんでしたが、今となっては日本に来ることができたことをとてもうれしく感じています。そして、いつかまた日本に帰ってきたいと考えています。

博士課程での研究内容と、その研究を志すようになったきっかけを教えてください。

JICAの長期研修員仲間と

私は位相幾何学と呼ばれる分野の研究を行っています。その中でも規則性のない物質の位置関係やつながりを研究するRandom Topology(ランダムトポロジー)を研究しています。
修士号取得後、博士課程で何を学ぼうかと迷っていたのですが、その頃は数理学といっても幅広い分野に興味がありました。博士課程を学ぶ大学を決めるため、多くの教授に志望理由書を送る中で、私の博士課程の担当教員の白井教授が研究されているTopological Data Analysis(位相データ解析)が自分の興味を抱いていた学問分野に多く一致することがわかり白井教授の元で学ぶことを決意し、その中で自分の研究内容を見つけました。

学部時代から数理学の研究を続けられていますが、その興味はどこから湧いたのでしょうか。

研究のきっかけは私の幼い頃に遡ります。私は、もともと小さい頃から数学が得意でした。得意であるがゆえに、小学生になるころには自分が学ぶだけではなく、同級生や先生までにも数学を教えたりしていました。地域の子供たちにボランティアで数学を教えた経験もあります。いつからか私の学習スタイルは教科書から学ぶのではなく、自分が教えることによって学習するようなスタイルに変化していきました。人に教えるというのは、誰よりもその内容を理解していないとできないため、自分の理解を深めるのに非常に役立ちました。今考えると、小さい頃からのこういった数学への興味が現在の自分につながっているのではないかと思います。また、実は私は今まで数学を「勉強」しているという意識をもって研究を行ったことはありません。好きだから極めているだけだと考えています。いわば、私は、子供が興味の種を元に新しいことを習得するのと同じように数学を学んでいるのだと思います。その好きが高じて大学でもその学問を学ぼうと決意しました

大学院在学中、ハワイで開催された学会で表彰されフランスに研究に行かれたそうですが、そのエピソードを教えてください。

【画像】九州大学が毎年開催している数理学系の学会があるのですが、私も一昨年ハワイで開催されたその学会に参加しました。そこで、私はポスタープレゼンテーションを行い、幸運なことにポスタープレゼンテーション部門で優秀賞を受賞し、その副賞で2週間、自分の希望する研究機関で客員研究員として研究を行う機会をいただきました。研究室の教授の勧めもあり、かねてから交流のあったフランス国立情報学自動制御研究所で昨年研究を行いました。パリを訪れた最大の目的の一つは自分の研究がWifiや電話などといった無線通信の理論に応用することができるのかを調べることでした。その中で興味深い問題を教授と共に探り、研究を行いました。パリ滞在中にはその他に、セミナーで自分の研究を発表する機会をいただき、また、Telecom ParisTechと呼ばれるパリの公共研究機関を訪問しました。とても刺激のある2週間で非常に価値のある経験になりました。

帰国後は何をされる予定ですか?

友人たちとの一コマ

まだ詳しく決まっていないのですが、現在考えているのは当面はインドでポストドクターとして数理学の研究を続けようと思っています。今は、これまで学んだことを元に大学で研究を続ける予定です。しばらくの間は、インドで働くことを考えていますが、いつかまた日本にも戻ってきたいと考えています。

日本とインドの違いを強く感じたことはありましたか?

担当教員の白井教授とともに

ゴミに対する意識の差ですかね。私自身特にこれといったカルチャーショックはなかったのですが、日本の清潔さには驚かされました。日本はインドに比べて道路や施設などあらゆる場所が全体的にきれいだと感じました。例えば、日本では当たり前のように行われているゴミの分別ですが、一般的に多くの人はインドではゴミの分別を行いません。ゴミの分別や処理等を行うのはそれらの仕事に従事している人たちだけなのです。つまり、家庭でゴミを燃えるゴミや燃えないゴミに仕分けるなどという作業が行われていません。最近では、こういったゴミ問題に対して取り組みを始めた地域も出てきましたが、そういった地域も限られているのが現実です。その面で、どこに行ってもきれいな日本は素晴らしいと思います。

今回、インタビューを引き受けてくださったゴエルさん。とても気さくでユーモアのある方でした。インタビュー中もジョークで盛り上がり何度か脱線してしまいましたが、そんなゴエルさんのおかげもあってかリラックスした雰囲気でインタビューを行うことができました。ゴエルさんのさらなるご活躍を心から願っています。

取材/文章 JICA九州インターン 福岡女子大学3年 布目紗菜