地熱エネルギーを生かし、ケニアの産業発展へ

【写真】Justus Mutuku Maithya(ジャスタス・ムツク・マイティア)さんJICA長期研修員(九州大学大学院工学府)
Justus Mutuku Maithya(ジャスタス・ムツク・マイティア)さん

 今回の「人」明日へのストーリーは、JICAの長期研修員「アフリカ型イノベーション振興・JKUAT/PAU/AUネットワークプロジェクト」として九州の大学で研究されているケニア出身のお二人です。二部構成でお届けします。
 第一弾は、九州大学大学院工学府の博士課程に在籍されているジャスタス・ムツク・マイティアさんです。ジャスタスさんは約3年間日本で研究に励み、今年の3月に帰国されます。帰国後は、ケニアの大学に戻り研究を続けるそうです。
 そこで、今回はジャスタスさんに母国ケニアや家族のこと、研究内容、日本での学びについてお話を伺いました。ジャスタスさんの長期研修員としての経験を是非、ご覧ください。

母国ケニアについて教えてください。

 ケニアは赤道直下の国で、一年を通して非常に暑い地域です。人口は4900万人を超え、約400万人が首都ナイロビに住んでます。国内には42の民族グループがあり、各グループが独自の言語と文化を持っています。ケニアは、野生動物や文化、歴史、美しさにあふれた、訪れる人々を歓迎するフレンドリーな国です。
 主要な魅力には、火山と温泉が特徴のグレートリフトバレー(アフリカ大陸を南北に縦断する大地溝帯)、美しいサンゴ礁と壮大なビーチなどがあります。また、サファリや野生動物の見学ツアーはケニア最大の魅力で、中でもマサイマラ国立保護区は最も人気のあるサファリパークです。

ご家族について教えてください。

 ケニアに妻と二人の子どもがいます。妻は教師をしており、子どもたちは学校に通っています。家族やケニアの大学が恋しくなりますが、私の研究は重要だと思っています。人生において、最善を尽くしたいのなら、何か犠牲を払わなければならない。研究に励むために家族と離れて暮らさなければならないのは、犠牲を必要とする一つの例です。私の取り組んでいたプログラムは、既定の期間内に終了するために多大な集中力と努力が必要でした。家族と離れていたことで、集中して研究に取り組めたと思います。
 私が日本へ出発するとき、空港で子どもたちは泣いてしまいました。子どもたちはまだ幼く、数年間会えなくなると伝えたので寂しかったのでしょう。私が日本から電話をかけるといつも、「いつ帰ってくるの?」と尋ねてきます。

ジャスタスさんの在籍するケニアの大学JKUAT(ジョモ・ケニヤッタ農工大学)について教えてください。

 JKUATはナイロビ近郊にある公立大学で、バイオテクノロジーと工学の分野の研究に力を入れています。設備の整った研究所は、JICAを通じた日本政府からの支援により提供されているため、工学分野において国内で最も充実しており、学生が勉学に集中し効果的に研究できる環境の整った大学です。

研究内容を教えてください。

九州大学でのシンポジウムに参加した時の写真

 JKUATでは、学士過程で物理学を学び、修士課程では電子工学と光学を学びました。研究の成果として、共焦点ファブリペロー干渉計(光のスペクトル解析を行う共振器)を設計しました。この干渉計は、学生が実験を行うときや産業で使用するレーザービームを安定させるために使用されます。
 九州大学の博士課程では、地熱エネルギー、特にマグネトテルリック(MT)法と重力法を研究しています。MT法は、地表の自然電磁場の変動を測定して、地下の抵抗率分布を決定する電磁探査技術です。使用される周波数の幅が広いため、人工電源なしで環境に影響を与えず、浅いところから数キロメートルの深さまで地下を探索できるという利点があります。高周波で比較的浅いところにある地下水および卑金属鉱床の探査に使用されます。また、重力法は、地球の重力場の変動を測定し、地下の密度分布に関する情報を調べる地球物理学的手法です。地熱探査の際に使用され、これによって地熱システムをコントロールする地下構造を調べることが可能です。

日本に来られた経緯を教えてください。

 私は、地熱エネルギーのより高度な専門知識を獲得したかったのですが、研究開発へのコミットメントのために専門知識を提供してくれるのは日本だけでした。また、この分野において日本は世界でも最高位にランクしており、技術・ガバナンス・研究の質・安全・教育の様々な面で評判がよいのも魅力的でした。施設や設備の整った研究所を利用できることは、あらゆる分野で上質な研究を実施するうえで重要です。その点、私は日本の優れた研究室に在籍できたため、定められた期間内に研究を成功させることができたと思っています。

現在の研究内容に興味を持った理由を教えてください。

 ケニアは、東アフリカリフトシステム(グレートリフトバレーの一部)に位置するため、膨大な地熱資源に恵まれています。16の高エンタルピー(熱含量)地熱が存在するといわれており、そのうちの3つが掘削によって確認されています。しかし、ケニアには非常に大きな地熱の可能性があるにも関わらず、運用するのに必要不可欠な専門知識と人的資源が不足しています。そこで、身近な存在である地熱エネルギーに興味を持ち、自分で研究を進めることで地熱エネルギー生成の進歩に貢献したいと考えるようになりました。
また、地熱エネルギーは気象条件に左右されず、高い信頼性と再生可能性があり、このエネルギー源を増やそうとする政府のコミットメントと私の意向は合致しています。地熱から得られたエネルギーは、国の経済を改善すると私は考えます。

ケニアに帰国後は何をされる予定ですか。

 JKUATに戻り、日本で得た知識を学生、スタッフ、産業界に広めたいと思っています。私たちの国の経済を繁栄させるためには、学界と産業界の協力が必要です。私がその架け橋になりたいと思います。また、地熱エネルギー源の促進に向けた強力なチームを作るために、研究機関に研究グループを設立する予定です。そのように、地熱に関する問題に対処するための研究活動に積極的に関与し、国内のエネルギー生産を増やせるよう尽力します。

日本とケニアの違いを感じたことはありますか。

会議で訪れた熊本で

 開発とインフラの面で両国には大きな違いがあります。ケニアは雇用機会が不足しており、大学を卒業しても職のない人も多くいます。それゆえ貧困率が高く、また、ごみを道端に捨てる習慣があり町はきれいとは言えません。
それに対して、日本は非常に安全で清潔であるため、滞在するのに最適な場所です。日本での生活は非常に快適で、ここにいた期間は本当に楽しかったです。日本のシステムはうまく機能しており、時間厳守が非常に重要に感じました。

日本で学んだことで得られた効果はありますか。

 日本で勉強できることは名誉であり特権です。ここで学ぶことは、私にとって人生を変える経験でした。熟練したスタッフ、設備の整った実験室、機器、コンピューターソフトウェアを備えた大学に所属することができたために、ソフトウェアを適用し、現場で適用可能な地熱エネルギーの実践的なスキルを身に付けることができました。また、シンポジウムや国際会議に出席し、地熱エネルギー分野の著名な学者と意見交換を行ったことも大変刺激になりました。

逆に、留学生の受入が日本にもたらす効果にはどのようなものが考えられますか。

 日本は、ガバナンス、技術、高度な技術によってもたらされる雇用創出、そして国内の調和と平和などの面で非常に優れていると思います。そのため、より多くの留学生が日本の高等教育機関に来ることを歓迎し続けるべきだと考えます。異なる文化を持つ人々と交流し、知識や経験を共有することは日本にとってもプラスになるのではないでしょうか。

将来のビジョンについて教えてください。

夏休みに訪れた海で

今後は、地熱エネルギー分野に専念し、日本で取得した知識とスキルの活用や、国内および国外の地熱エネルギーに関連する活動への参加を通して知識を向上させます。また、自分の知識や経験をもとに若い世代をサポートしたいと考えています。さらに、ケニアの産業発展の促進に向け、研究者として地熱エネルギー生成の進歩を支援したいと思います。

インタビューを快く引き受けてくださったジャスタスさん。クールな印象ですがとても優しい方でした。研究内容について熱く語ってくださり、努力されている姿が印象的でした。ジャスタスさんのさらなるご活躍を願っています。

取材/文章 JICA九州インターン 千原麻実(九州大学)