最先端農耕技術で、ケニアの飢餓をゼロに

【写真】Robert Nesta Kagali(ロバート・ネスタ・カガリ)さんJICA 長期研修員(長崎大学大学院農学府)
Robert Nesta Kagali(ロバート・ネスタ・カガリ)さん

 今回の「人」明日へのストーリーは、「アフリカ型イノベーション振興・JKUAT/PAU/AUネットワークプロジェクト」長期研修員へのインタビュー第二弾です。
 前回のジャスタスさんに続き、今回は、長崎大学大学院農学府の博士課程に在籍されているロバート・ネスタ・カガリさんです。ネスタさんは約3年間日本で研究に励み、今年の3月に帰国されます。帰国後はケニアの大学に戻り、教員かつ研究者として研究を続けるそうです。
 そこで、今回はネスタさんに母国ケニアのことや、研究内容、日本での学びについてお話を伺いました。ネスタさんの長期研修員としての経験を是非、ご覧ください。

母国ケニアについて教えてください。

 ケニアは東アフリカにある美しい国です。主な魅力は、サファリとして一般に知られているゲームドライブ、一年中楽しめる美しいビーチや山、多様な文化、親切な人々です。公用語は英語とスワヒリ語ですが、50以上のローカル言語が存在します。ケニアは、急速に拡大するインフラストラクチャーとテクノロジーを備えた低・中所得経済といわれています。日本を含む様々な国々と良好な関係を結んでおり、国際的な交流が活発な国です。

研究内容を教えてください。

談笑するジャスタスさん(左)とネスタさん(右)

 JKUAT(ジョモ・ケニヤッタ農工大学)では、主に小規模農家が食料安全保障を改善するための、低コストで持続可能な農業技術の開発に焦点を当て研究していました。中でも生物学的害虫管理について研究し、低コスト水耕システム(土を使わずに水と液体肥料で植物を育てる方法)を設計しました。これは水産養殖と作物生産の両方を統合する概念のことです。
 長崎大学では、低・中所得国向けの低コストで持続可能な養殖技術の開発について研究しています。具体的なタイトルは、「生きた食文化における有機廃棄物とプロバイオティクスの使用に関する研究-培養の安定性と成長パフォーマンスへの影響-」です。

日本に来られた経緯を教えてください。

 日本は、漁業と水産養殖の生産において世界的なリーダーであり、京都議定書などの環境に優しい政策提唱のペースセッターのような存在です。そのため、養殖と環境を研究していた私には、研究に取り組む環境として日本が最適だと感じました。また、JKUATは研修、研究、イノベーションの支援を通じて日本と長年にわたり良好な関係を築いています。アフリカと日本をつなぐJICAのプロジェクトに参加することで、博士課程での研究資金を獲得することもできました。農業技術において世界トップクラスの大学、研究チームで研究に励むことは、私にとって目標であり大きな挑戦でもありました。

研究内容に興味を持った理由を教えてください。

 ブルーエコノミー(海や川、湖などを守りながら、その恵みを経済成長に生かすという考え方)は、経済成長に向けた淡水および海洋生態系の持続可能な利用と健全な生産のための新たなフロンティア概念です。海洋生態系の出発点である動物プランクトン(ライブフード)は、稚魚の重要な食料です。先進国ではこれらのライブフードの超高密度生産が可能ですが、システムにかかる費用が高額なため、新興国で採用するのは難しくなっています。しかし、ライブフードの生産コストを下げることによって、これらの技術をより迅速に採用し、ケニアのような新興国かつ熱帯諸国での養殖生産を強化することができます。そこで、生産コストを下げ、培養の安定性を向上させることを目的として、水産加工廃棄物の活用と自己増殖細菌分離株(プロバイオティクス)をライブフードの代替食として利用する研究を始めました。

ご自身の研究のほかに、研究室で行った活動はありますか。

 私は、特に長崎大学の養殖研究室において、日本に多くの貢献ができたと思っています。研究期間中、研究のアシスタントとしても活動をしており、学部生や院生に実験技術、データ収集、処理などの研究スキルを指導しました。また、トップピアレビュージャーナルを出版し、様々な研究会議で大学を代表して賞を受賞しました。さらに、日本水産学会(JSFS)の会員でもあり、研究結果の共有や漁業と養殖の未来設計など、様々な活動に参加しました。

ケニアに帰国後は何をされる予定ですか。

 私はJKUAT動物学部の教員であり、アフリカ型イノベーション振興プロジェクトのサブタスクフォースである分子生物学・バイオテクノロジーイノベーションセンター(iCMoB)の研究者です。私はこれらのオフィスでの任務を継続し、両方の部門の成長に影響を与える、新しく活気のある研究活動を提供したいと思っております。

日本とケニアの違いを感じたことはありますか。

 明らかな違いは、開発の格差です…ハハハ。日本が先進国であることは、技術、インフラ、人的資源、作業システムへの投資などから明白です。また、人々の文化にも大きな格差があります。特筆すべきは、物事に取り組む際の姿勢の違い、日本人の勤勉さです。ときに過酷で疲れる日本の労働環境や日本人の勤勉な姿勢のおかげで、私は研究を成功させることができたのだと思っています。

日本での生活や日本の印象はいかがですか。

【画像】 日本での生活はとても楽しいものでした。担当してくださった萩原篤志教授が率いる、協調性のある素晴らしい研究チームに出会いました。また、長崎大学にはグローバルヘルス研究科があり、ケニア人の学生が多くいます。彼らのおかげで、日本での生活をより快適に送ることができました。
 日本人の最もユニークな特徴は、環境に対する意識です。道路や水路などにゴミはほとんど見られず、とてもきれいで心地の良い景色でした。

プロジェクトを通して得たものを教えてください。

 私は、海洋生物の稚魚の養殖技術と動物プランクトンの生産を高めるスキルを習得しました。これらのスキルは、私の国で機能的な養殖生産を確立するうえで重要です。また、若手研究者として、研究デザイン、質の高い研究、新しいデータ分析技術、出版原稿の準備、会議のプレゼンテーション、資金調達のための提案書の作成など、ソフト・ハードの両面で様々なスキルを習得しました。日本人の勤勉な性格と労働倫理は、日本でしか得ることのできない素晴らしいソフトスキルの一つだと思います。

日本の技術をアフリカに応用できると思いますか。

 個人的には、トレーニングの実施、利害関係者とのフォーラムの開催、および日本企業の経営者との協力の強化により、日本で学んだ技術の応用が可能だと考えます。技術を求めるユーザーそれぞれのニーズに合わせて、持ちうる技術を応用することが、今後私の主な焦点となります。その実現には多大な努力が必要だと感じますが、アフリカの革新に向け邁進したいと思います。

将来のビジョンについて教えてください。

研修ツアーでの一コマ

 私のビジョンは、農業と養殖における低コストで持続可能な生産技術の研究を通じて、飢餓に苦しむことのない健康な人々と環境の実現に貢献することです。研究の概念化と実用化に向けコミュニティへの参加を促進することにより、ますます研究を拡大していきたいと思っております。ケニアでは海洋養殖(水産物の養殖)がまだ初期段階であるため、この研究が農作物や水産物の生産を高めるうえで大きな役割を果たすことを期待しています。

アフリカの産業人材育成を目的としたこのプロジェクトへの参加者として、ケニアの教育の将来について一言お願いします。

 ケニアの教育システムは、アフリカではトップ10に入り、世界的にレベルの高い優秀な人材を生み出しています。近年ケニアでは、より教育が受けやすくなるような教育改革が進められています。私は自身の経験や研究の成果を通して、グローバルな視点を失うことなく、地元の問題に対処する新しい技術の開発やイノベーションを志す研究者に影響を与え、ケニアの教育改革に貢献できることを願っています。

インタビューを快く引き受けてくださったネスタさん。日本語での会話もできる、優しくユーモアのある方でした。飢餓をなくすために研究に尽力されている様子がインタビューからうかがえました。ネスタさんのさらなるご活躍を心から願っています。

取材/文章 JICA九州インターン 千原麻実(九州大学)