殺虫剤を利用しない自然な野菜の栽培に成功したトンガの留学生

【写真】Mr. MANU Saimone Desiderata (マヌ・サイモネ・デシデラタ) JICA 長期研修員 (宮崎大学農学部植物生産環境科学科)
Mr. MANU Saimone Desiderata (マヌ・サイモネ・デシデラタ)

今回の「人」明日へのストーリーは、「太平洋島嶼国リーダー教育支援プログラム(P-LEADs)」長期研修員へのインタビューです。マヌ・サイモネ・デシデラタさんはトンガ出身です。彼は約二年間宮崎大学農学研究科の修士課程に在籍し、今年の3月に卒業しました。マヌさんは卒業した後もCOVID-19の影響で帰国できず、帰国する見込みも不確実なままです。それにもかかわらず、彼は決して落ち込まず、感謝の気持ちで日本での日々を過ごしています。

母国のトンガについて教えてください。

トンガは日本から随分遠いところに位置しています。ニュージーランドから約2000㎞、オーストラリアから約5000㎞離れています。トンガは太平洋の小さな国ですが、周辺で唯一の王国であるため、とてもユニークです。トンガ人はポリネシア人の一部であり、トンガ語が遠く離れているニュージーランド、ハワイ、サモア、クック諸島などの原住民の言語とも似ています。トンガ人はとても優しく、伝統的な価値観を守っています。例えば、お年寄りを尊敬し、隣人と非常に密接な関係を保っています。隣人が金銭的に困ることがあれば、周りの人はごはんなどをただであげる習慣があります。トンガ人は周りの人との良好な関係をとても重視しています。

研究内容を教えてください。

国際交流のイベントで

研究は保全生物学的防除に基づいた露地のオクラのための害虫の統括管理についてでした。現在、トンガは環境や人間の健康に悪影響をもたらしている多量の殺虫剤を使用しています。そのため、浸食性化学介入の要らない野菜の栽培方法を発見したく、害虫の天敵となっている虫の力を借りて作物を保護しようとしました。研究の主な対象はテントウムシやクサカゲロウ、捕食寄生などにより除去されるアブラムシでした。結果的には、害虫から自然保護を可能にするため、一つの畑でいくつかの昆虫飼育植物の栽培をし、天敵とよばれる「害虫を食べる虫」を飼育するという方法を発見しました。このような栽培方法は環境や人間にやさしいです。

研究内容に興味を持った理由を教えてください。

トンガはまだ生態の基本について知識が不足しています。また、トンガの経済にとって冬カボチャのような食料の輸出は重要であるため、殺虫剤は大きな問題の一つです。例えば、日本は新しい殺虫剤の管理制度を導入する予定ですが、これにより新しい基準に達しない国は日本に野菜を輸出できなくなります。トンガもその国の一つです。そこで、国内経済を支援するために環境にやさしい栽培方法に関する研究が不可欠であると思いました。

日本で研究をする動機を教えてください。

日本にした主な理由は二つがありました。これらは農業の先端技術と去年のラグビーワルドカップでした笑。日本は農学界において栽培技術で知名度が高く、自分の知識やスキルを向上させ、高いレベルの専門家になりたかったです。二番目の理由は研究と関係ありませんが、私はラグビーの大ファンであり、自分でもラグビーをしているため、ラグビーワルドカップを実際に見たかったです。

日本の印象はいかがですか。

飲み会の後に同級生と

日本が好きになりましたが、特に宮崎に魅力を感じました。宮崎の農村の環境はトンガの和やかな雰囲気と似ていたため、とても快適でした。また、現地の人はとても気さくで優しかったです。ボランティア活動で現地の人の栽培地域計画や植樹を手伝っていたため、様々な年齢の方々と仲良くなることができました。言語上の支障があっても、コミュニケーションを円滑に取れました。さらに、日本食がとても美味しいです!笑 特に宮崎の名物であるチキン南蛮は全世界の人に食べてほしいほどおいしいです。全体的に言えば、日本は家のように感じました。

P-LEADSプログラムで得た知識をどのように将来のキャリアに応用できると思いますか。

宮崎で現地の人との交流

P-LEADSプログラムのおかげで農業分野において必要となっている能力や知識を身に着けられたと思います。宮崎大学では体系化した専門知識を獲得し、環境にやさしい地域計画の方法を学んだため、これによってトンガの農業発展に貢献できると思います。農業分野に必要となっている高度能力があるため、トンガで農業にかかわる良い仕事を見つけ、食料の海外貿易に影響を与えられるようなリーダーになれると自信を持つようになりました。やはりP-LEADSは太平洋島嶼国の若者にとって素晴らしいチャンスであり、こうした若者たちが母国の将来を良くする能力を身に着けられるプログラムです。

コロナの渦で帰国できないと聞きましたが、どういう問題に直面していますか。

3月に卒業して帰国する予定でしたが、いまだ帰国できず、いつトンガに帰ることができるのか明確にわかりません。現在はJICA東京に泊まっていますが、感染しないようにあまり外出できず、精神的に厳しいですね。うれしいことに3人の友人が同じ施設に泊まっていますが、彼らがいなければ、本当に苦痛だったと思います。同時に日本にもう少し滞在できるのでうれしく、日本で過ごせる日々を感謝の気持ちで過ごしています。現在はトンガにいる家族や友人に会いたいので、帰国したいですが、日本が好きになったため、またいつか来日したいと思います。

マヌさんは終始笑顔で話してくださいました。とても気さくで、すぐに新しい環境に溶け込めるような印象を受けました。自分の研究活動でトンガの経済発展に貢献するため、2年間努力を惜しまなかったマヌさん。現在は母国に帰れなくても、決して落ち込まない姿に感動しました。

取材/文章 JICA九州インターン ドロジュキナ・アリーナ(京都大学)