ミャンマーから世界へ 建築遺産の価値を熱く発信

【写真】Ms. Ei Thandar Kyaw (Nora) エイ・タンダール・キャウ(ノラ)九州大学芸術工学府
Ms. Ei Thandar Kyaw (Nora) エイ・タンダール・キャウ(ノラ)

今回の「人」明日へのストーリーは、「Innovative Asia 2017・第1バッチ」長期研修員へのインタビューです。ノラさんは2020年3月に九州大学芸術工学府の修士課程を卒業しました。彼女の専門分野は建築遺産の保存です。ノラさんは文化財建造物保存技術協会や株式会社修復技術システムのインターンシップに参加し、高度の専門知識を得ることができました。今回の記事ではノラさんの日本での経験をまとめました。

まず、ミャンマーについて教えてください。

留学生仲間とミャンマー文化の紹介

ミャンマーは東南アジアの国です。文化的にとても豊かで独特な伝統やしきたりが多いです。また、仏教国であり、僧院やお寺のような歴史的な建築が多く、人々は純粋で礼儀正しいです。近年では、ミャンマーは観光地として知名度が高くなり、多くの観光客がミャンマー料理にも惹かれているようです。ミャンマーには名物が多く、日本人の旅行者であればお茶の葉サラダ(ラペットウッ)に驚くと思います。ミャンマー料理はとても美味しいので、ぜひ食べに行くことをおすすめします!

日本に来る動機は何でしたか。

学部生のときに在籍していたヤンゴン工科大学は九州大学との提携関係にあったので、もともと日本へ留学できるということは知っていました。あるとき、遺産保存と関係ある国際学会に参加し、私の今の九州大学芸術工学府の指導教員に会いました。その指導教員が共同研究を提案し、奨学金について教えてくださったので、日本に行こうと思いました。

修士課程の研究テーマやこれに興味を持った理由について教えてください。

研究でミャンマーの僧院を訪問

私の専門分野は建築遺産の保存ですが、特にミャンマーの歴史的な建造物の保護に興味があります。伝統的な建築が昔から好きだったので、それと関係のある研究テーマにしました。研究においては、ミャンマーの歴史的な僧院に焦点を当て、現地の事情を考慮しつつ日本の技術を活用できるような保存方法を提案しようと思いました。そのため、ミャンマーの様々な地域に位置している60か所の僧院の物理的な特徴を調査し、それらを劣化の段階によって分類しました。その後、僧院の保存方法や関連する経費的な課題を検討しました。ミャンマーで適用可能な日本の保存技術を多く学びましたが、ミャンマーの政府が実際に遺産の保護に取り組むかどうかが心配です。

ノラさんは多くのインターンシップに参加しましたが、具体的に何をしましたか。

ハルトプライズというコンペティションに参加した経験

文化財建造物保存技術協会の三つのインターンシップに参加し、現在は株式会社修復技術システムのインターンシップに参加しています。文化財建造物保存技術協会は日本の各地に支所を持っており、日本の国宝や重要文化財の修復にかかわっています。そのため、インターンシップで様々な場所に行きました。初めてのインターンで秋田市の天徳寺を訪れ、この体験から伝統的な方法を用いたお寺の保護について学びました。2回目のインターンでは下関にある旧下関英国領事館の修復プロジェクトに参加し、イギリス植民地下の建築について学びました。3回目は愛媛県の道後温泉を訪れました。道後温泉は日本の最も古い木造の建築物ですが、伝統的な模様の装飾がミャンマーの古い建築の特徴とよく似ていたため、面白かったです。現在は4回目のインターン中で福岡の町屋の保存や町屋と関係ある都市計画について学んでいます。様々な建築の種類や保護について高度な知識を身に付けられたので、とても貴重な経験だったと思います。

今後の予定について教えてください。

遺産の保護について熱く語るノラさん

2020年10月から博士課程に進学し、イギリス植民地下の建築の保存について研究したいです。ミャンマーは過去にイギリスの植民地だったため、こうした建築物が多いです。ミャンマーでは魅力的な観光地になりそうなところが多くありますが、それらは依然として世界的にあまり知られていません。また、現地の人もあまり文化遺産の価値や観光業の潜在性を理解しておらず、住宅地に位置している民芸風の低い建造物が劣化すると、すぐに取り壊されて新しいビルが建てられるため、文化的な損失が大きいです。そのため、歴史的な建物の価値やそれらの保存方法について論文を執筆したいと思います。例えば、文化遺産観光、文化産業、小企業のインキュベーション、都心の活性化や不動産価値の向上などのための建築遺産保護の重要性に関して書きたいです。また、文化遺産を破壊せずに都市の現代化を進め、民芸風の建造物を保存できる方法について検討していきたいです。
博士課程の後、UNESCOで働きたいです。これは私の大きな夢です。UNESCOで働けば、重要なプロジェクトにかかわり、全世界において文化遺産の保護に貢献できると思います。

ミャンマーの文化遺産保存の将来はどうなると思いますか。

文化遺産の保存文化が発展し、現地の人が歴史的な建築にもっと興味を持つようになると思います。最近、ミャンマーのいくつかの場所は世界遺産として登録され、人々はいよいよ文化遺産の価値に気づき始めました。将来的には文化遺産保護の専門家が増加し、保護のための投資も増えるでしょう。

日本に長らく住んでどういう印象を受けましたか。

日本はとても現代的でありながら、文化や習慣を重視しています。この特徴が非常に面白いと思います。日本の都市や技術は最先端ですが、祭りのときに皆が浴衣を着て伝統的な活動をしているときなどに、本来の日本を感じます。伝統的な文化や習慣は新しい生活方法と共存している感じもしています。また、日本人はとても優しく心が温かいと思います。言語上のバリアがあっても、日本人は頑張って助けようとしてくれるため、日本にいることを心地よく感じています。

ノラさんのはっきりとした自分の将来像やその実現に向けたたゆまぬ努力に深い感銘を受けました。自分の専門分野について熱く語る姿に、文化遺産の保護に大きな貢献をしたいという熱意を感じました。

取材/文章 JICA九州インターン ドロジュキナ・アリーナ(京都大学)