夢は、母国の安全なインフラ発展に貢献

【写真】Ms. Pinta Astuti (ピンタ・アストゥチー)JICA 長期研修員(九州大学大学院工学府博士課程)
Ms. Pinta Astuti (ピンタ・アストゥチー)

ピンタさんはインドネシアのジョグジャカルタ市出身です。今月(2020年9月)工学の博士課程を卒業する予定です。ピンタさんは提出期限の半年も前に卒業論文の執筆を終わらせ、国際学会で三度も優秀賞を受賞しました。博士課程の初期段階に株式会社ピーエス三菱と共同プロジェクトを開始し、両者ともその成果に満足しているそうです。研究活動で目覚ましい業績をあげたピンタさんに成功のカギについて質問しました。

まず、母国のインドネシアについて教えてください。

インドネシアは多様性に富み、世界で4番目に人口が多い国です。1万7千以上の島々や千以上の言語があります。インドネシアの各地域は独特な文化的特徴があり、海外に行かなくても、カルチャーショックを受ける場面がたくさんあります。例えば、私の出身地であるジョグジャカルタはバティックという伝統的な染織で有名であり、ほかの地域と違ってジャワ語が共通語であり、スルタンに統治される唯一の地域です。インドネシアの一般的な特徴をあげることは難しいですが、あえてあげるとするとインドネシア人は周りの人との人間関係が密接だと思います。隣人をよく手伝い、人生の重要な出来事を分かち合うのが一般的です。例えば、結婚式があれば、近隣住民は掃除や料理作りなどを手伝い、その後全員で祝います。こうしたイベントがほぼ毎日あり、少し大変です。また、人間関係が豊かである反面、COVID-19でこうした共同体の習慣が危険をもたらしますが、根深い伝統であるため、皆変わらず集団で行動し続けています。

大学の専攻や研究について教えてください。

学会で優秀賞の受賞

専攻は土木や構造工学で、専門分野がコンクリート工学です。腐食防止の方法を研究し、コンクリート建築に使用される鉄鋼の保護を目指しています。港湾建造物や沿岸の橋梁が集中し、腐食しやすい環境にある鹿児島湾が研究の主な対象です。しかし、研究室に2メートル以上ある鉄筋コンクリート構造物の模型が五つあり、シミュレーションで建造物に腐食防止のシステムを試しているため、普段は研究室にいます。犠牲陽極から直流を使って陰極防食する方法を使用していますが、これによって鉄鋼を腐食から長期間保護し、整備のコストを節約できます。

この研究を始める動機は何でしたか。

インドネシアを含め東南アジア諸国にとって海洋環境による建造物の腐食が深刻な問題となっています。一般にすべてのコンクリート建築物は補強鉄筋を使って建てられていますが、鉄筋の腐食はコンクリートの裂け目や耐久性の損失、建造物の崩壊の原因になっており、経済的、人的被害をもたらしています。重要な問題にもかかわらず、インドネシアではこれを解決できる専門家が少ないため、この分野で活躍したいと思いました。

日本で研究をしたいと思った理由を教えてください。

日本の土木工学が非常に優れており、知識の豊富な専門家が多いと知っていたため、日本で研究をしたいと思いました。九州大学でコンクリート建築を専門としている教授を見つけ、その教授のもとで成長できると思いました。もう一つの理由はインドネシアが日本からそれほど遠くなく、帰国したいときに簡単にできると思ったからです。また、日本に対して自然が美しく、人が優しくて真面目だという良いイメージを持っていたため、JICAのプログラムに応募しました。

ピンタさんは学士課程と修士課程をインドネシアで受けましたが、日本とインドネシアのアカデミックな環境はどのように違いますか。

実際かなり違います。インドネシアの大学の研究施設はまだ乏しく、高い成果を出すのがかなり難しいですが、日本の場合は研究室で様々な実験を行えます。また、日本では指導教員や研究室の仲間とのコミュニケーションが密接です。ほぼ毎日指導教員と連絡を取り、オンラインミーティングや相談の機会が多いため、こうした環境にいる私は恵まれていると思います。

ピンタさんは提出期限より半年前に卒業論文を書き終えました。これは非常に素晴らしいと思いますが、そのコツを教えていただけますか。

特別なコツはありません(笑)。 正直に言えば、指導教員のおかげだと思います。彼は厳しくいろいろ要求し、日ごろから私を鼓舞しています。週に何回も私の研究の進捗状況を確認し、新しい目標を定めてくれました。さらにいつも様々な学会に参加するように勧めてくれたため、すでに10回参加しました。また、株式会社ピーエス三菱で一緒に実験を進めた指導教員も明確に作業の締め切りなどを定めてくださいました。指導教員が二人もいるため、積極的に研究を進めるしかありません(笑)。

時間管理の特別な方法はありますか。どのように一日を過ごしていますか。

JICAの夏プログラムに参加したとき

そうですね。私は毎日手帳にスケジュールを書き、するべき用事をすべて終わらせるようにしています。私はイスラム教を信仰しているため、毎朝5時に起床してお祈りをして、その後7時ごろに研究室に行き、実験などを夜の6時までしていました。その後、研究室から帰っても、少しだけ休憩をし、また夜の11時まで研究を進めていました。現在はコロナの影響で研究室に行けなくなりましたが、論文を提出するまで毎日こうしたパターンの繰り返しでした。休日にちゃんと休んでいましたが・・・(笑)

将来は何をしたいですか。

インドネシアに帰り、大学の教授になりたいです。実はインドネシアに帰国後はジョグジャカルタムハマディア大学で講師として勤めることが既に決まっています。教員として日本で得た知識をインドネシアの学生とシェアし、耐久性のある安全なインフラの発展を促進し、コンクリート工学の分野に貢献できると思います。

ピンタさんは冷静で優しい人に見えました。勤勉な態度や学業への献身が印象的でした。研究について情熱的に話し、将来さらなる成果を出し、自分の専門分野のリーダーになる決意が伝わりました。

取材/文章 JICA九州インターン ドロジュキナ・アリーナ(京都大学)