人工衛星の開発に取り組むナミビアの先駆者-母国を宇宙へ-

【写真】Mr. SHIMHANDA SeniorABE2018・第5バッチ・九州工業大学工学府
Mr. SHIMHANDA Senior

今回の「人」明日へのストーリーは、「ABE2018・第5バッチ」、ナミビア出身の長期研修員へのインタビューです。シニアさんは九州工業大学工学府の修士課程を卒業しました。専攻は宇宙システム工学であり、人工衛星に用いる代替燃料について研究をしていました。今回はシニアさんの本邦滞在における経験や研究成果などについて聞いていきたいと思います。

まず、ナミビアについて教えてください。

ナミビアは30年前に独立し、平和で政治的に安定している国です。自然や資源は非常に豊富で、海洋に面しており、二つの砂漠やサバンナ、川が多くあります。面積は日本の約二倍ですが、人口は約260万人しかいません。ナミビアの人はとても優しく、気さくです。しかし、ナミビアは多様であるため、ナミビア人は共通点よりも異なった特徴のほうが多いです。部族が多く、それぞれが独特な言語や文化、を持ち、さらには部族ごとの「王様」がいます。私自身はナミビア人口の半分ほどを占めるオシワンボ族の一員です。ナミビアにはもちろん中央政府がありますが、部族の王は指導や知恵を提供するリーダーの役割を担っています。
ナミビアでは、お年寄りが尊敬されています。また、キリスト教の影響が強く、比較的保守的な価値観が一般的であると言えます。また、ジェンダー上の役割が厳密に決められており、男性は仕事をして一家を養い、女性は料理作りや家事を担当するという決まりが守られています。ところが、最近は男女平等の運動が広まり、女性支援組織の活動のおかげで女性の意見も広く発信されるようになってきています。

修士課程においてどのような研究をしていましたか。

宇宙飛行士の若田光一との写真

方向転換のためのロケットエンジンを持った人工衛星のロケット燃料について研究をしていました。燃料によってエンジンの性能が変わるため、最も効率の高い代替燃料を見つけるために実験を行い、使用した全ての燃料に関するデータを集めました。

この分野に興味を持つ理由は何でしたか。

実は学部生のときの専攻は電子工学であり、母国で受けた修士課程の専攻は環境工学でした。何回も専攻を変えた理由は電子や環境工学は自分には簡単すぎて、すぐに興味を失ってしまったためです。その反面、宇宙システム工学はとても奥深く、ナミビアの発展にとって非常に重要だと考えたため、この分野の研究を志すことにしました。現在、ナミビアは人口衛星を所持していないものの、衛星を導入することにより密猟の管理及び都市移動に関するデータ収集が可能になると思います。

研究に成功しましたが、研究を進める上でのこつを教えていただけますか。

普段から自分の分野の研究をしている専門家の論文を読むように心がけていて、こういった論文から実験のためのアイデアを多く得ました。また、一日当たりに5時間ほど研究室で実験をし、残りの時間でその結果の分析をしていました。毎日研究をしていたわけではありませんが・・・正直に言えば、長時間集中しての努力と長時間の休憩を繰り返し、研究を不秩序に行っていました。

日本でインターンシップをしたことがありますか。

株式会社IHIで数週間のインターンシップをしました。株式会社IHIは日本の三大重工業企業の一つであり、広範囲にわたる製品を製造しています。船やロケット、人工衛星を作り、宇宙防御の技術も開発しています。最先端技術や機械について学び、IHIの職員と様々な分析を行うのがとても面白かったです。また、日本の企業文化についていろいろ学び、「KAIZEN」という概念、ドレスコード、時間厳守などについて理解が深まりました。実はIHIの職員が雑談をあまりしないため、インターンを始めたばかりの頃は雰囲気が厳粛すぎると感じていましたが、時間がたてばたつほど、これはより良い集中力や仕事の効率向上に効果があるということに気がつきました。

COVID-19は学習に影響を与えましたか。

残念ながら、コロナの蔓延で研究の多くの時間とインターンシップなどの機会を失ってしまいました。研究室に数か月行けず、本当に困っていました。また、長い間他の人と会えなかったため、孤独感を味わいました。そのため、インターネットの中毒にもなりかけましたが、これは多くの人の共通問題であったと思います。しかし、ナミビアの男性は幼いころから苦痛の表現を抑えて精神的に強くなるように教わっているため、今回も自分にしっかりしろと言い聞かせながら、楽観的に考えるようにしていました。「無知は幸福である」という諺のように、COVID-19に悩みすぎないでポジティブな思考を持つことは最も効果的なストレスへの対策だと思います。

将来的に何をしたいと思いますか。

まずは博士号を取得し、宇宙技術や代替燃料に関する知識を深めたいです。その後、ナミビアの大学で学生に宇宙工学を教えて自分の知識や経験を伝えたいです。また、宇宙技術と関係ある事業を始め、日本企業と協力をしたいと思います。

イーロン・マスク(テスラや宇宙関連を経営としたSpaceX社のCEO)のように活動したいですか。

イーロン・マスクは本当にすごい人なので、彼のように活動するのは少し無理があります。マスク氏はSpaceX社を始める前に様々なビジネスにかかわって必要な資金を集めましたが、私の興味は学生の教育や研究にあり、研究の活動からビジネスアイデアが発生するのであれば、それを実現してみたいだけです。やはり自分の知識を他人に伝えるのが優先で、5人ほどの学生をイーロン・マスクのようなすごい人になるように鼓舞できれば、ナミビアへの大きな貢献になると思います。

最後に、日本の印象を教えていただきますか。

実は日本に来る前には、日本は遊園地のようなところだと想像していました。最先端技術やロボットの多い国という印象が強かったですね。自分の目で確かめると、確かに先進的な面で感動しましたが、自分の想像と合致しなかった点にも気がつきました。例えば、先進国である日本の多くの人があまり英語を話せないことに驚きました。そのため、当初は言語的なバリアで苦労していました。また、日本社会では女性の地位が比較的低いことが予想外でした。まだ、家業で忙しく、旦那さんの成功だけを支援する女性が多いため、様々な分野において女性の意見が十分に浸透していないと思います。もう一つ、先進国は徹底した社会支援があると思っていたため、大都会のところどころで見えるホームレスの姿で悲しい思いをしました。しかしながら、何に対しても問題意識を持ってしまう私でさえ、日本の欠点についてはこれくらいしか気づきませんでした。これ以外はすべて素晴らしいと思っています。日本料理や日本の人、生活などは本当に見事です。

心が広くて率直なシニアさんです。彼の専門分野は非常に難解ですが、複雑だからこそ、興味深いという姿勢が印象的でした。チャレンジを楽しみ、決してあきらめない人です。学生を鼓舞して成功に導きたいシニアさんの熱意には限りがありません。優れた次世代の専門家を育て、宇宙工学に大きな進歩があるに違いありません。

取材/文章 JICA九州インターン ドロジュキナ・アリーナ(京都大学)