次世代の支援は仕事というより、ライフワークである

青年海外協力隊相談役
髙原 義弘さん

今回はJICA九州の海外協力隊の相談役、高原さんに取材をさせていただきました。高原さんはJICA九州で隊員の進路相談や募集活動をされているほか、日本語と英語の学習支援にかかわるボランティアなど精力的に活動をされている方です。高原さんの活動や海外協力隊についていろいろと伺い、隊員を目指す人へのアドバイスなどをいただきました。

今までの経験について教えていただけますか。以前から海外協力隊と関りがあったのですか。

高原相談役

海外協力隊の参加経験はありませんが、仕事の関係で多くの隊員と知り合いました。私は大学を卒業後、民間の会社に就職しました。英語と関係のある仕事をしたかったため、ほとんど何も考えず、就職先は海外展開をしていた東京の自動車部品メーカーにしました。しかし、一年ほど経った後、他のメーカーを出し抜くだけで、社会の役に立っているのかということに疑問を感じ、目標を見失ってしまいました。そのため、思い切って会社を辞め、消防士になりました。地元に帰って消防士をしていると、社会貢献をしている実感は強かったですが、私は技術の専門知識が乏しく、体力もそれほどなかったため、より自分に相応しい職業を求めて2年で辞めました。その後、行政職の試験を受けて北九州市役所で務めるようになり、国際交流協会の開設や多文化共生など長く国際関係の仕事に携わりました。定年退職した後、様々なボランティア活動をし、留学生支援・日本語学習支援・中学生の英語学習支援などの分野に携わりましたが、知人からの紹介で、今年の4月からJICAで相談役として働くようになりました。

JICAにおける仕事内容について教えていただけますか。

通常は、仕事が三つに分けられています。一つ目は、帰国した隊員の進路相談です。もう一つは、協力隊の募集などの広報活動です。三つ目は、協力隊の制度を一般の方に知っていただき、協力体制を作っていくことです。ところが、COVID-19の感染拡大状況が2月から深刻になり、全世界で活動していた隊員の約2千人全員が日本に帰国せざるを得なくなりました。現在(2020年9月末時点)、隊員は海外に一人もおりません。さらに4月には緊急事態宣言が発令され、外出もできなくなりました。以降6月ごろまでJICAにも出勤できなかったので、関係者と対面で話すことができませんでした。そのため、二つ目と三つ目の役割はほとんどできず、隊員の募集もいまだに始まっていません。しかし、隊員からの進路相談はいろいろとありました。二年間の活動が終わった人たちもおり、途中で帰ってきた人たちもいるため、5月から現在にかけて多くの人が進路相談を利用しています。去年の実績と比べても、相談の件数が増えています。ただ、単純な就職の相談だけでなく、就職以前の人生の選択について話す人が多いです。多くの若い人がどのような道に進んでいくべきか迷っています。応募書類や小論文のチェックもしていますが、自分の将来についての方向性を相談したい人のほうが多い印象です。

今の業務の中では何が最も面白いですか。最も強くやりがいを感じるのはどういうときですか。

【画像】若い人の刺激になり、自分の道を切り開いていくお手伝いをできるのが面白いです。相談に来た人が「来てよかったです。話してよかったです。自分の頭が整理できました」と言ってくれるときが最もうれしいです。

将来について相談に来る人にどのように手を差し伸べていますか。

実は私もまだこの分野の初心者で、迷っている人を助けるのはとても難しいことだと思います。何冊かの本を読みましたが、結局ほとんどの皆さんは既に自分の中で答えを持っていると思います。そのため、相手の話をよく聞き、解きほぐし、頭の整理をするお手伝いをします。いろいろ考えていることを整理して明確にするプロセスは最も効果的だと思います。また、本人の能力と可能性を適切に評価し、満足感をもたらすことと労働市場からのニーズとの妥協点を見つけるのも重要だと思います。

協力隊から帰国した隊員は、協力隊の経験と関係ある仕事に就けていますか。

実際、これは結構複雑です。協力隊の経験自体を求めている企業はそれほど多くないからです。もともと介護、理学療法士、教員、保健師、ITエンジニアなどの資格を持ち、自分の技術を生かして2年間国際社会に貢献をして帰って来る人は比較的簡単に仕事が見つかります。しかし、労働市場で高い需要のある資格や技術を持っていない人の就職はそれほど簡単ではありません。企業の協力があれば、隊員の進路はもっと広がると思いますが、いまだに多様性がそれほど求められていない状況のため、課題は多いと思います。

これから協力隊で活動したいと思う人にアドバイスをいただけますか。

きっと素晴らしい2年間になると思いますが、自分が目指すことが決まっている場合、さらに充実した経験ができます。協力隊に行く前にその先に何があるのかを考えておいたほうがいいと思います。そうすれば、任国での活動も全然違う意味を持つようになるでしょう。途中で問題が発生してそれを乗り越えるということが結構ありますが、こういう経験をその後の自分の人生にぜひ役立ててほしいと思います

隊員は協力隊で得た経験で満足していると思いますか。

様々な体験をしてきて満足していると思います。やはり人間として大きく成長するからです。貢献活動するといっても、教えるだけではなく、活動を通じて学ぶことが多くあると思います。結局皆さんが言っているのは、教えたことよりも、教えられたことのほうが多いということです。ただし、予想外のことが発生することもあります。例えば、バスケットボールの指導に行ったけれども、現地の体制が全く整っておらず、普通の体育の先生をして帰ってきたといった問題があります。想定していたことと現地の事情が違ったということがありますが、こういう経験も自己成長とつながるのではないかと思います。

協力隊に応募する動機は何だと思いますか。

様々なパターンがあるようです。計画的な人の場合は、将来の進路が決まっており、その中のキャリアとして海外経験が組み込まれています。また、ずっと前から何かを一生懸命やってきたが、ある障害にぶち当たり、別の世界を見たくなる人もいます。スポーツ選手に結構多いようです。しかし、最も多いのが漠然と海外に行きたい、国際的な仕事をしたいと考えている人です。自分も若いときにこういうタイプでしたが、やはり明確な目標なしに協力隊に行っても、簡単に答えが出るわけではないと思います。

協力隊に入りたい人に伝えたいメッセージがありますか。

将来、子どもたちに語れることをつかんできてほしいです。また、何か解決すべきテーマを持って協力隊に行けば、その経験はさらに有意義になります。何にせよ、協力隊の2年間は素晴らしい経験になると思います。

取材/文章 JICA九州インターン ドロジュキナ・アリーナ(京都大学)