描くのは明るい未来-高度な橋梁管理を母国ブータンへ-

【写真】Mr. TEMPEL Koncho (テンペルさん)長崎大学工学研究科 修士課程
Mr. TEMPEL Koncho (テンペルさん)

 テンペルさんは2020年12月にブータンから来日されました。新型コロナウイルスの影響により、当初の計画より8カ月来日が遅れ、自由な行動がとれないという制約がある中で、母国ブータンの橋梁維持に貢献するべく研究を始められています。今回は、長期研修プログラムに参加された背景やコロナ渦の日本での生活に関してインタビューさせていただきました。

日本留学の経緯

ブータンの橋梁と(真ん中がテンペルさん)

 ブータンには大学が多くありません。そのため、高校までブータンで過ごした後、インドの大学に進学し、土木工学を学びました。その後ブータン政府の公共事業・定住省(Ministry of Works & Human Settlement)に就職し、公務員として9年間働きました。特に現在所属している同省道路局(Department of Roads :以下DoR)ではJICAと協働して様々なインフラ事業を展開しており、この長期研修プログラムもその一つです。日本の大学から来た教授と面接をした結果、このプログラムに合格することができました。合格を知ったその瞬間、日本に行くという幸せに満たされたことを覚えています。

研究内容と母国への貢献

 日本に来て、「橋の道路建設強度」に着目した研究を進めています。例えば、ブータンにはたくさんの古い橋があり、それらの橋がどのくらいの道路建設に耐える強度を有しているかということを推測する必要があります。これが車両事故を防ぐためのタイムリーな維持管理や架け替えにも繋がるのではと考えています。また、ブータンのDoRでは、橋梁管理に取り組む人材が不足しています。これによって適切な管理が行われず、橋を利用する通勤通学者のリスクが非常に高い状態にあります。そのため、研究の成果を用い、特に橋梁建設と維持管理の分野において、多大な貢献ができると思います。

コロナ渦での生活

長崎市にてハイキング

 日本の平和な環境と他人を尊重する文化のお陰で、快適な生活をおくっています。ただ、コミュニケーションにおいては、日本語を話せないため苦しい場面が多々あります。日本で生活するためには、基本的なリーディングとライティングの能力が必要だと感じています。例えば銀行に行くと、日本語の書類を記入しなければなりませんでした。同じ研究室には留学生しかいないことに加え、コロナウイルスの影響で、人と知り合う機会がほとんどないため、日本人の友人がおらず、とても寂しいです。大学の図書館に行くにも、利用方法がわからず、まだ一度も行くことができていません。一方大学の食堂では簡単にオーダーすることができるため頻繁に利用しています。今年4月から大学が提供している日本語講座を履修したいと考えていますが、(専攻科目の履修と重なるかもしれないため)少し不安があります。


 まだ8カ月の娘さんとは毎日ビデオ通話をしているというテンペルさん。誰かと話すことさえ新鮮だという彼の言葉に、コロナ渦の中新生活を始めた学生として共感するものがありました。しかし、このような状況でも、母国の発展のため前向きに研究に励もうとする姿勢に心を動かされました。

取材/文章 JICA九州インターン 鳥羽 乃愛(長崎大学)