所長あいさつ

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ネパールと聞いて、エベレストをはじめとするヒマラヤの美しい山々、カトマンズ盆地の世界遺産の寺院群、お釈迦様の生誕地ルンビニなど平和な観光地のイメージを思い浮かべる方が多いと思います。その一方で、ネパールの経済的な側面に目を向けると、一人あたりの平均所得は年間1,000ドルほどで、2800万人の国民のうち、約4分の1が貧困層という後発開発途上国(LDC)です。

ネパールの開発を妨げてきた主な要因は3つあります。1つ目は、政治的な混乱です。1996年から10年間続いた国王政府とマオイストの内戦は、1.3万人もの犠牲者を出すとともに、ネパール社会を分断しました。2006年の包括和平の成立後、制憲議会発足や王政廃止といった和平と民主化のプロセスが少しずつ進み、2015年9月には、待望の新憲法が公布されました。けれども、その直後に同憲法に反対する政治勢力によるインド国境封鎖が起き、物流を寸断されたネパール経済は、半年間に渡り大混乱に陥りました。その後も政治は安定せず、短期間での政権交代が続きましたが、2017年に行われた連邦、州、地方の3層の選挙と、その後の2018年の政党合併により、安定多数の議席を持つネパール共産党(NCP)政権が誕生し、ようやく政治安定の道筋が見えてきました。今後、連邦民主共和制への移行と社会経済開発が順調に進むことが期待されます。

2つ目は、自然災害です。ネパールでは、地滑りや洪水等の災害が頻発しており、毎年多くの死傷者が出ている他、農産物への被害や道路の崩壊等、社会経済に大きな損害を与えています。2015年4月と5月に発生した、マグネチュード7を超える大地震はこれに追い打ちをかけました。震源地域の地方部だけでなく、人口が集中する首都カトマンズ周辺も含め、あわせて3.1万人以上の方々が死傷し、約50万戸が損壊しました。学校も2万近い教室が全壊し、多くの子どもたちの学習の機会が奪われました。ネパール政府は、復興庁を設立し対応にあたっており、日本を含む国際社会も多くの支援を行っていますが、甚大な被害をもたらした震災からの復興は、現在も十分に進んでいるとは言えず、ネパールの発展を妨げる大きな要因となっています。

3つ目の要因は、社会経済インフラの未整備です。例えば、ネパールでは発電所の不足等により、必要な電力量を十分に賄えていません。そのため、首都カトマンズでも、2016年までは、毎日15時間ほどの計画停電が行われていました。その後、インドからの買電や需要調整等により状況は大きく改善していますが、地方では現在も計画停電が行われています。その他、道路、空港、上下水道、教育施設、医療施設等々、多くのインフラが未整備な状況にあり、大きな課題です。こうした基幹インフラの未整備は、国民の生活だけでなく、海外直接投資や国内産業の育成・発展にとっても大きな阻害要因となっている他、国内に職を見つけられない人々が大量に海外出稼ぎに出る原因ともなっています。その数は毎年40万人前後に及んでおり、海外送金がGDPの3割を占める不安定な経済構造にもつながっています。

こうしたネパールの現状を踏まえ、日本政府/JICAは、過去50年近くにわたり、電力、道路、空港、水道、農業、教育、保健医療、和平と民主化促進等の協力を行ってきました。さらに、2015年の震災以降は、「より良い復興(Build Back Better)」を合言葉に、日本の経験を生かしつつ、住宅や学校の再建、復興計画の作成支援など、より災害に強い社会を築くための協力も展開しています。

長年にわたる、道路や発電所等の質の高いインフラ整備事業に加えて、専門家、技術者、ボランティアなど、多くの関係者の現場レベルでの真摯な活動は、ネパールの人々から高く評価され、両国間の友好と信頼関係の礎となってきました。また、これまでにJICAの研修等に参加して、日本で学んだネパールの人たちの数も、累積で5,500人を超えており、これらの人々が社会の様々な場所で活躍しています。

ネパール政府は、2022年に後発開発途上国(LDC)を卒業し、2030年には中所得国へと飛躍することを構想しています。私たちは、引き続き、この国の良きパートナーとして、ネパールの人たちとともにこの国の未来を見据えながら、両国の関係がますます発展するよう活動を推進していきます。

JICAネパール事務所長
佐久間 潤