ネパールと聞いて、エベレストをはじめとするヒマラヤの美しい山々を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。すっきりとした青空をバックに浮かび上がる真っ白なヒマラヤの稜線を目にすると、その美しさに見入るとともに、自然に対する畏敬の念を感じます。
ヒマラヤ山脈だけなく、ヒンドゥー教や仏教の寺院群、お釈迦様の生誕地ルンビニ、南部タライ平原での野生動物公園等、ネパールには多くの観光資源があり、世界中の人々を魅了しています。
その一方で、ネパールは足元で多くの課題を抱えている国であることも事実です。
経済的な側面に目を向けると、一人あたりの平均所得は年間1,000ドル(日本円にして11万5千円)ほどで、約2,900万人の国民のうち、約4分の1が貧困層という後発開発途上国(LDC)です。2026年にはLDCからの卒業が予定されていますが、その後も見据えた息の長い取り組みが必要といえます。
ネパールは東西約900キロに延びる地形ですが、国土の8割を山岳地帯が占め、地域間の移動が容易ではありません。このことが社会経済インフラの構築を困難にする大きな要因となっています。
また、2015年に発生した死者9000人、負傷者23000人の被害者を出した大地震をご記憶の方も多いと思いますが、地震だけではなく、地滑り、土砂災害、洪水等の災害が多い国でもあります。
更に、2006年までマオイストによる10年に渡る内戦を経験した国であり、その結果王政から連邦制に移行、2015年に新憲法が制定されましたが、新体制の定着までにまだ課題が残っている状況です。
このような条件を抱えているネパールに対し、JICAはこれまで電力、道路、空港、水道といったインフラ構築と共に、農業、教育、保健医療、和平と民主化促進等、ネパール社会に向けた支援を半世紀にわたり脈々と行ってきた歴史があります。2020年のコロナ禍までの5年間は、ネパールの経済成長率が6%を超える状況だったことを見ると、決して容易ではない環境にありながらも、開発に向けて大きくネパールは努力し、またJICAもそれに貢献してきたと言えるのではないでしょうか。2022年2月現在、オミクロン株による感染がネパールでも低下傾向を見せていますが、コロナ禍においても、またその後においても、ネパール側の努力に対し、引き続き、意義ある協力を展開したいと考えています。
そして今、約10万人のネパール人が日本に在住する時代を迎えています。日本とネパールのパイプが人を通じて太くなる時代において、お互いの信頼のさらなる強化につながるような、そんなJICA事業を目指したいと考えています。
JICAネパール事務所長
大久保 晶光
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