所長挨拶

青年海外協力隊の事業開始から本年で53年。昨年には、JICAが世界に派遣したボランティアの総数が5万人を超えました。「富める者が貧しい者を助ける」という人道的理由で多くの若者が参加してきたこの国際協力活動も、今日では「世界も日本も元気にできるグローバル人材の育成事業」として多くの方々からご理解とご支援を受けられるようになりました。私が青年海外協力隊員に応募した31年前、周囲から「変人」、「就職忌避の脱落者」などと悔しい評価を受けていた時代とは、隔世の感があります。

二本松市の安達太良山麓にあるJICAの訓練所には、毎年、厳しい選考試験に合格した若者たち500名ほどが日本全国から集まります。70日間の合宿型集団研修で、訓練生は、語学力や専門技術の練磨、そして安全対策や健康増進法等の学習に全力を傾けますが、草の根外交官という「公人」として周囲からの期待に応え、責務を果たして社会に報いる精神を養うことも、非常に重要な習得課業となります。

東日本大震災が発生した際、この訓練所は約450人の方々に一次避難施設として活用いただきました。非常に不自由も多い生活の中、それでも広い浴場や食堂、数多くのトイレ、そしてペットを遊ばせることができる十分な敷地などは大変ありがたかった、と往時を知る方々から話を伺うことがあります。この訓練所を建設するにあたり熱烈な誘致活動と力強いご支援をくださった福島県の方々に多少でもご恩返しができたのであれば何よりのこと。非常事態に柔軟に即応できたJICAと関係者の方々を嬉しく思います。

ところで、他県と比較すれば、福島は県内各所に豊かな自然と穏やかな人情、名跡や美食に富む「恵まれた地」です。震災後の風評被害を撲滅するだけで、取り戻せるはずの潜在力は相当のものでしょう。福島県出身の青年海外協力隊員も、派遣前に県庁で内堀知事から国際協力親善大使の委嘱を受け、協力活動の傍らで海外の人々に福島県の現状と復興に向けた努力の様子を伝えるべく、それぞれの任国でお手伝いしています。

その一方で、途上国へのアウトバウンド活動が、日本の地域活性化に大きなインパクトを与え得ることは、福島県の皆様にあまり認識されていないように感じます。途上国の地域づくりを経験した日本の青年たちが、帰国後に農村や災害地の復興に取り組む。全国各地の自治体や企業が持つ技術・ノウハウが途上国の開発に活用され、その価値が世界で高く評価される。地方部の中小企業が途上国支援活動を契機に、海外にも市場を開拓・拡大する、など。

「外へ打って出る」活動には、福島県を更に元気にできる大きな可能性があります。69歳までを対象とするシニア海外ボランティアなども、高齢化が急速に進む日本社会の「生き甲斐」を示すロールモデルと言えるかもしれません。

これまで3年間の単身赴任生活。すっかり「福島大好き人間」になった自分としては、「観光客を取り戻す」という当面の復興戦術のその先に、「未知の可能性に溢れた世界中の市場と繋がる」という、福島県ならではの野心的な発展戦略があって欲しいと願っています。JICAは喜んで、それをお手伝いさせていただきます。

2018年4月2日
独立行政法人国際協力機構
二本松青年海外協力隊訓練所
所長 洲崎 毅浩