【事業報告】JICAホンジュラス “地すべり対策インフラ” 引渡し式典で記念植樹(「首都圏斜面対策管理プロジェクト」のあゆみ)
2022.09.28
JICAホンジュラスは2022年8月23日、カンポ・シエロ地区とフエルサス・ウニダス地区で開発された「首都圏斜面対策管理プロジェクト」の対策工をテグシガルパ市長室(AMDC)に引き渡し、記念植樹を行いました。式典には中原ホンジュラス駐日大使、篠JICAホンジュラス事務所長、アルダナ・テグシガルパ市長などプロジェクト関係者や地域住民が出席しました。2019年2月にスタートした「首都圏斜面対策管理プロジェクト」のあゆみを報告します。
ホンジュラス共和国は災害リスクの高い国です。例えば、1998年のハリケーン・ミッチでは、1,000人超の死者・行方不明者が発生するなど、斜面災害対策は首都圏における喫緊の課題です。首都テグシガルパ市(人口117万人)は盆地であり、降雨による地すべりや洪水に見舞われやすい土地です。その一方、人口増加による集合住宅建設のニーズが高まっており、災害リスクの高いエリアでの開発が進んでいます。災害のリスクを考慮しないまま開発を進めることで、ホンジュラスの持続的な開発は阻害される可能性があります。
JICAは、このようなホンジュラスの経済開発を阻害する災害リスクを削減すべく、ホンジュラス政府と技術協力「首都圏斜面災害対策管理プロジェクト」を2019年2月にスタートさせました。このプロジェクトは、テグシガルパ市役所、国家災害対策委員会、ホンジュラス国立自治大学と行います。災害リスク削減に向けた対策は公共財であり、ホンジュラス政府がその責任を負います。
そこで、このプロジェクトは構造物対策(対策工)の検討に向け、地形・地質調査・解析やハザード評価、構造物対策工の設計・積算、施工管理・維持管理に関連する技術を移転します。ハザードマップやリスクマップの作成、開発行為の抑制(土地利用規制)や建築物の構造規制などについても日本の知見を反映させながら技術移転を行います。
このプロジェクトでは、テグシガルパ市のカンポ・シエロ地区及びフエルサス・ウニダス地区という斜面災害が頻発する地域で対策工をパイロット事業として実施しました。2022年8月23日に対策工の引渡し式典が開かれ、中原駐ホンジュラス日本大使、アルダナ・テグシガルパ市長、篠所長(JICAホンジュラス事務所)出席のもと、記念植樹を行いました。特にカンポ・シエロ地区では地下水排除工を行いました。降雨で斜面災害が繰り返し発生した地域でしたが、このパイロット活動終了後は周辺地域の地盤が安定し、地すべり被害が発生していません。
このような対策工の効果については、ホンジュラス側でも大いに認められ、テグシガルパ市役所は2023年に約1,800万レンピラ(約1億円)の予算を確保し、このプロジェクトにて移転した技術を活用し、ホンジュラス側の技術者・研究者が対策工の設計とその施工(2件)を実施しました。ホンジュラス政府による自律的な取り組みです。また、このプロジェクトは、テグシガルパ市役所が管理責任を負う斜面災害リスクの高い17地区についても、具体的な対策実施を含む行動計画を作成しています。これら対策の実現に向け、ホンジュラス政府が独自予算を確保し、災害リスク削減に資する対策を実践していくために必要な支援を行う予定です。
JICAは、2001年以降、斜面災害対策分野における技術協力を継続しています。例えば、「首都圏洪水・地滑り対策計画調査」(2001~2002)、「中米広域防災能力向上プロジェクト」(2007~2012)、「中米広域防災能力向上プロジェクトフェーズ2」(2015~2020)、個別専門家「首都圏における地滑りに焦点を当てた災害地質学研究(2011~2014)」・「首都圏における地すべり対策能力強化支援(2015~2016)」、無償資金協力「首都圏地滑り防止計画」(2011~2015)、「国道6号線地すべり防止計画」(2018~2020)を行っています。さらには、地質工学の分野でシニアボランティアも派遣しました。これらを通じ、段階的にホンジュラス側の土砂災害対策に必要は技術力の強化に大きく貢献し、それらを通じてホンジュラスの経済発展を支えることにつながることを期待しています。これらは、2030年をターゲット年とし自然災害の被害軽減を目指す「仙台防災枠組2015-2030」の優先行動のうち「災害リスク理解」、「災害リスクガバナンス」、「事前防災投資を通じたリスク削減」への貢献でもあります。
ホンジュラス政府も努力をしています。例えば、2010年に、国家が災害リスクを予防・軽減・復旧・復興を行える法的枠組みである「災害管理国家システム法」を災害対策に係る法制度の最上位として定め、具体的かつ迅速な行動を取れるようにするなど法整備が進めています。技術協力プロジェクトや専門家派遣の対象となってきたテグシガルパ市役所でも、「災害管理国家システム法」を受けて、災害の緊急対応を行う防災委員会(職員55名)を設立したほか、2014年には総合災害対策ユニット(当初職員2名から現在は14名に増員)とリスク評価管理部(当初職員5名から現在は10名に増員)を発足させて、防災対策を市の最優先事項の一つと位置付け、積極的に取り組んでいます。また、無償資金協力により地すべりの構造物対策工を実施したエル・ベリンチェ地区、エル・レパルト地区、国道6号線の3地区では、その対策効果が発揮されていることで地盤が安定し、施工後の被害は報告されていません。
引渡し式典の様子
記念植樹の様子
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