【ニュース】エルサルバドルで新たな技術協力:「エルサルバドル海岸線における橋梁再建のための能力向上アドバイザー(HASHIMORI)」を開始
2023.04.13
2023年2月23日、エルサルバドルにおいて、技術協力「エルサルバドル海岸線の橋梁再建のための能力向上アドバイザー」の第1回技術委員会と第1回橋梁保全セミナーが開催されました。本事業では橋梁が適切に維持管理されることを目的として、橋梁保全の能力向上を目指した活動を行っています。今後の協力成果を国内および中米地域に普及することを目指し「橋」に「保全」を意味する「守」を加えた「橋守=HASHIMORI」が愛称となっています。
第1回技術委員会後の記者会見の様子、公共事業運輸省(MOPT)大臣が議長、道路保全基金(FOVIAL)長官が出席(写真:JICA撮影)
第1回橋梁保全セミナー、65名が参加、日本の橋梁保全技術、道路アセットマネジメントに関するJICAのグローバルアジェンダを紹介(写真:プロジェクトチーム撮影)
道路の安全・安心は、国の発展にとって不可欠です。本技術協力は、エルサルバドルの経済開発にとって重要であり中米地域の主要な物流回廊である国道2号線(CA-2)上の橋梁の維持管理に焦点を当てており、実用的な橋梁管理システムの構築と運用能力強化に取り組みます。
太平洋岸を走る国道2号線(CA-2)では、暴風雨、重交通、海からの塩害の影響により、多くの橋梁に深刻な損傷が生じています。加えて、地震やハリケーン等の自然災害により橋梁がさらに深刻な被災・損傷を受けた場合、通行が困難になるなど、人々の生活や国の経済活動に大きな影響が生じる恐れがあります。他方、橋梁の適切な維持管理や保全・再建を計画/実施するには技術者の能力向上が必要不可欠であり、現地調査を通じて橋梁管理システムを抜本的に再構築する必要性が確認されました。
本協力は公共事業運輸省(MOPT)をカウンターパート機関とし、MOPTによる橋梁の点検・診断・補修に関する能力の向上、マニュアル及びデータベースの作成、そして本技術協力で得られる成果の国内外での共有等を目指します。そのために、セミナーなどの座学、現地ワークショップ、パイロットプロジェクトとしての補修OJTと橋梁再建に係る技術支援、MOPTおよび関連協会、学術関係者を指導訓練員とするTOT(Training for Trainers)体制の構築に係る活動支援を含む活動計画が予定されています。
現地ではこれまでに6回のワークショップが実施され、MOPT技術者らが参加しました。ワークショップでは橋梁台帳、橋梁点検台帳、点検員の入力を支援するアプリ、データベースを基にした保全あるいは再建計画支援システムの機能について議論されました。橋梁の安全性評価は、総務省市民防災局(DGPC)が災害避難に対して用いている4段階(注1)に順じて、「赤色アラート=緊急措置段階」、「橙色アラート=早期措置段階」、「黄色アラート=予防保全段階」、「緑色アラート=機能確保・監視継続段階」とすることを議論しました。本技術協力で考えている4段階のアラートは以下のとおりです。
アラート 段階 |
市民防災局 (DGPC)定義 |
市民防災局 (DGPC)基本的対応計画 |
橋梁保全(専門家の提案): 今後の協議事項 |
---|---|---|---|
緑色 | 将来の災害の発生が予見される。 | 災害対応準備段階。 | 機能確保・監視継続段階:20年間は構造劣化による通行阻害が生じない。 |
黄色 | 被災の発生可能性が50%を超える。 | 災害対応体制、必要に応じ事前避難開始。 | 予防保全段階:20年以内に構造劣化による通行阻害が深刻化する。維持管理作業レベルの補修を実施する。 |
橙色 | 捜索救助チームの参加が必要になるまでの深刻な被害をもたらす可能性がある。 | 災害対応継続、必要に応じ捜索救助活動開始、避難所の運営開始。 | 早期措置段階:10年以内に構造劣化による通行阻害が深刻化する。補修・補強あるいは再構築が早期に必要。 |
赤色 | 被災の可能性が明らかに深刻化した場合。 | 緊急オペレーションセンターの指揮開始、必要に応じ捜索救助活動実施、被害調査開始、被災状況監視、緊急復旧事業の確保。 | 緊急措置段階:5年以内に構造劣化通行阻害が深刻化する。あるいは、すでに通行阻害(大型車の通行制限、要徐行など)が発生している。補修・補強あるいは再構築が緊急に必要。 |
上述のセミナーでは、国立エルサルバドル大学(UES)、エルサルバドル建設産業会議所(CASALCO)、エルサルバドルセメント・コンクリート研究所(ISCYC)からの本技術協力への積極的な参加が表明され、これらの関係組織と橋梁点検員制度のあり方に係る議論も開始しました。対策の検討に必要となるコンクリートや鉄筋の試験については、MOPTの公共事業開発調査局(DIDOP)とセメント・コンクリート研究所・協会(ISCYC)と連携し実施していく方針です。
塩害により鉄筋腐食が深刻化している橋梁の様子(写真:JICA撮影)
橋梁の健全度診断、変状原因に係る現地での討議(写真:プロジェクトチーム撮影)
コンクリートや鉄筋の試験を担うDIDOPでのコンクリートコアリング機材の確認(写真:プロジェクトチーム撮影)
建設産業会議所(CASALCO)/セメント・コンクリート研究所(ISCYC)との連携協議(写真:プロジェクト撮影)
日本のi-Construction(注2)技術の展開として、ドローンを活用した橋梁点検の適用性の検討を開始しました。ドローンの活用の効果は、1)点検の効率化(人日の削減)と低コスト化、2)点検員の高所・斜面作業、点検困難箇所の回避、3)近距離撮影による点検の高精度化、4)時系列的な劣化状況の俯瞰的見える化、5)手持ちカメラによる撮影死角の解消が挙げられます。ドローンの活用効果が高まると考えられる、比較的橋長が長く、橋脚の高い2橋において、技術者による試行空撮を実施しました。
ドローン活用による橋梁点検、撮影前のドローン機能と撮影方針の確認(写真:JICA撮影)
ドローン活用による橋梁点検、試行撮影状況(写真:JICA撮影)
HASHIMORIは、カウンターパートを対象とした能力強化だけでなく、民間関連組織、学術・研究組織および中米経済統合事務局(SIECA)をオブザーバーとして含めたワークショップ、セミナー及び実施トレーニング等の活動プログラムを計画しており、カウンターパートのオーナーシップを引き出しつつも、技術協力の成果が効果的及び横断的に中米地域へ浸透することを目指しています。これらの活動を含む本技術協力の実施は「JICAグローバル・アジェンダ」の運輸セクターにおける協力方針(注3)である道路アセットマネジメントの強化に位置づけられ、適切な橋梁の維持管理を通じて、エルサルバドルの持続可能な道路交通網の構築に貢献します。
2023年2月23日の委員会、記者会見、セミナーに係る主な報道(スペイン語のみ)は次の通りです。(別ウェブサイトへ移動します。)
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