【VIA中南米】職員だからこそできるスポーツ協力を求めて~中米・ホンジュラスでのJICA職員による柔道指導~

2024.01.11

ホンジュラス事務所 横尾昂志

日本のお家芸である柔道は、中米ホンジュラスでも日本への尊敬と共に根付いています。

こんにちは。

ホンジュラス事務所職員の横尾です。私はホンジュラスにて通常業務の傍ら、自称熱心に柔道の指導にあたっています。

どれくらい熱心かというと、多い時には週5回の指導を行っており、業務が忙しく、1週間ほど顔を出さなかった際には「協力隊員なのになんで来ないねん!?」と強めに指摘され、「なぜなら協力隊員じゃないからだ!」と強めに誤解を解かねばならなかったこともある程です。

組み手の指導

組み手の指導

この活動のきっかけはボリビアでのJICA新人職員研修です。新人時代には研修の一環で3か月間特定の事務所で勤務することとなっております。私はボリビアで3カ月勤務を行った際に、SNSで柔道教室にコンタクトを取って練習に参加しました。そこでは30年前の柔道の協力隊員の写真と日本国旗が飾られており、柔道の精神である礼儀作法がきちんと遵守され、日本柔道への強い尊敬と憧れが根付いている様を目の当たりにしました。

柔道の指導を通して、「自分が日本で努力をして獲得した技術を共有して、相手が真剣に学ぼうとしてくれたり、目を輝かせて喜んでくれることがどれだけ嬉しいのか、どれだけ日々の仕事の励みになるのか」ということを強く感じました。

ホンジュラスでは自分自身が協力隊に近い活動をすることで、協力隊のやりがいや、これまでどれだけ協力隊が日本の存在感を示してきたかということを肌でひしひしと感じています。

日本はこれまでホンジュラスに対し、2012年まで続いた協力隊派遣をはじめ、NPO法人柔道教育ソダリティーによる柔道着の寄贈(2016年)、草の根無償による畳とトレーニング機材の供与(2016年)といった協力を実施してきました。また、柔道連盟会長への外務大臣表彰(2019年/2023年)が行われる等、柔道は確実に両国の懸け橋として機能しております。

令和5年11月元ホンジュラス柔道連盟会長ルイス・モラン氏の外国人叙勲受賞

令和5年11月元ホンジュラス柔道連盟会長ルイス・モラン氏の外国人叙勲受賞

しかし、現在はテグシガルパ、サンペドロスーラなどの柔道の環境が整備された都市の治安が悪く、安全上の観点から柔道隊員の派遣が困難な状況です。そのような状況下、ホンジュラスで日本柔道を教えられる唯一の人材として、これまでの柔道協力のアセットをきっちりと維持すべく、一肌も二肌も脱いでやろうと使命感を燃やしております。

ホンジュラスでは現在男子90キロ級の世界ランカーや女子52キロ級の中米2位をはじめ、強い選手が多く高いポテンシャルがあります。

私自身の柔道経験は15年(段位は三段)です。その実力は柔道隊員として応募してくる方々にはおそらく及びません。ですが、圧倒的な強さがあるわけではない自分だからこそ、技術の他にも彼らに示せるものがあると感じています。例えば、真剣勝負をして負けたときにどう振舞うか、逆に勝ったときにでも相手への尊敬を示せるか、そのような勝ち負けを超えて相手を尊重し、他者から学ぼうとすることは柔道精神の根幹で、彼らと切磋琢磨できる実力にある私だからこそ背中で教えられるものだと感じます。

柔道精神に関する説明

柔道精神に関する説明

ネットの普及した現代ではホンジュラスでも日本のトップ選手の対戦動画などに気軽にアクセスでき、現地の柔道家の注目を集めています。特に東京オリンピック66kg級で優勝した阿部一二三選手と、彼と最後まで代表権を争った丸山城志郎選手はホンジュラスでも絶大な人気を誇っております。技のキレでは彼らに遠く及ばない私ですが、その分、技を裏付けるロジックを丁寧にスペイン語で説明することでホンジュラスの柔道に貢献できると考えております。

目下12月にホンジュラス全国大会に出場予定です。1人の柔道家として優勝を目指しますが、それ以上に勝ち負けを超えて相手への感謝や尊敬を表す柔道の精神や、理に適った美しい日本柔道を体現したいです。※

また、JICA職員だからこそ柔道の技能向上にとどまらず、他の開発課題の解決に柔道を使うというチャンスに恵まれています。

最近では、実施中の警察案件に関連し、警察学校にて柔道の実演を行いました。

ホンジュラス警察学校における柔道のデモンストレーション

ホンジュラス警察学校における柔道のデモンストレーション

治安の悪いホンジュラスでは、放課後行き場のない子どもたちが麻薬の売買などの犯罪に手を染めてしまうケースや、貧困層の子供がマラスと呼ばれるギャング集団に参入してしまい治安の悪化を招くケースがあります。警察学校内で外部の子どもたちに柔道を教える機会を提供することで、子どもたちにギャングや麻薬以外の人生の選択肢を広げられ、国の治安改善にも貢献できるのではないかと考えます。

また、教えている柔道教室で、耳が聞こえないにも関わらず、頭一つ抜けた綺麗な柔道をする少女がおり、大変驚かされました。彼女は他の人に比べても理解が早く、言葉を超えて人々を繋ぐスポーツの力を改めて実感し、障がい者の社会包摂の手がかりもあるのではないかと感じました。

他にも生活習慣病対策、教育など柔道を使って取り組める開発課題は多くあるため、ただスポーツの技能を向上させるだけでなく、他の分野の開発へ貢献する、そんな“JICAとして意義深い案件”を形成したいと構想しております。

2025年には日本とホンジュラスは外交90周年を迎えます。外交的にも絶好の機会ですので、日本とホンジュラスの懸け橋として機能してきた柔道を使って他の開発課題に貢献できるアイディアを近いうちに形にしたいと考えております。

多くの案件をマネジメントする立場にあるJICA職員は、専門家や協力隊員に比べ、開発の現場の最前線にいる時間がとても短いです。だからこそ現地の人と関わる機会を主体的に作り、肌触りのあるコミュニケーションの中で現場感を磨いていきたいと思います。

※その後、ホンジュラス柔道大会73キロ級にて優勝しました。共に高め合い、この国の柔道を盛り上げた同階級のライバルに感謝を表します。

【画像】

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