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【リサーチレポート】インターン生が調べてみた。 JICA カリブ地域における水産事業の取り組み

2025.09.24

JICA カリブ地域における水産事業の取り組み

中南米部中米・カリブ課 インターン生 菅野由剛

はじめまして、中南米部中米・カリブ課でインターンをしています菅野由剛です。
今回はJICAのカリブ地域での長年の水産分野での協力をご紹介します。

目次
1. はじめに ~JICAの水産事業への取り組みとは~
2. カリブ地域の水産業
3. JICAのカリブ水産協力の目的と目標
4. さいごに

1.はじめに ~JICAの水産協力への取り組み~

JICAは開発途上国の社会経済発展への協力をJICAグローバルアジェンダ(課題別事業戦略)に基づいて行っています。国際協力機構(JICA)は複雑化する課題に挑むため「JICA グローバルアジェンダ」を設定し、中でも重点的に取り組む事業群を「クラスター事業戦略」として取り組みを強化しています。
水産分野においては、クラスター事業戦略のうち「農業・農村開発」 のサブクラスターとして「水産ブルーエコノミー振興」を策定しました。

JICAの水産協力への取り組み方では「水産ブルーエコノミー」というキーワードが重要です。これは先ほどのJGAの20個のうちのひとつである「農業・農村開発(持続可能な食糧システム)」に対する戦略の一つです。
JICAホームページには、水産ブルーエコノミーについて以下のような説明をしています。

図1. SDGs ゴール14 海の豊かさを守ろう
出典: Spaceship Earth

一般的にブルーエコノミーは「海洋を主体とする水域で資源や環境を保全しつつ、海運・観光・水産など幅広い経済活動による便益を増大させること」

ここでの水域とは海洋や河川、湖等の内水面など幅広く含みます。
このブルーエコノミー戦略は「水産業」に大きく依存している開発途上国を対象としています。

その理由として、開発途上国の中の島国や沿岸国は漁業が主要な雇用源であり、食糧安全保障にもつながる面があること、一方で過剰な漁獲活動や環境変動の影響によって漁業資源は減少傾向にあり、地域全体で持続可能な漁業管理が課題となっているからです。

JICAはこうした課題を背景に地域の水産資源管理と漁業の持続的発展を支援するためにさまざまな協力を展開し、「水産ブルーエコノミー振興」の推進策の一つとして、これまでの水産協力の成果を体系的にまとめることで広く応用できるよう「ツールボックス」の作成に取り組んでいます。

図2. JICA グローバルアジェンダ NO.5「農業・農村開発」
出典: JICA

2.カリブ地域の水産業

2024年時点でのカリブ地域各国(国際組織カリブ共同体に加入する13国を指す)のGDP平均は米ドルで約190億ドルです。

対して、中南米で高いGDPを誇るブラジル、メキシコはそれぞれ23,210億ドル、18,527億ドル、そして日本は40,260億ドルです。
そして、カリブ地域の水産物および水産加工物の最大輸出国であるアメリカは291,840億ドルです。

図3. 各国のGDP(単位: 米億ドル)
(WORLD BANK GROUPのデータを基に作成)

カリブ地域各国における水産業の役割は重要です。カリブ地域各国において水産業は伝統的に重要な産業であり、主要産業の観光業および農業に次いで就業率を占めています。沿岸漁業ではロブスターやコンク貝(ほら貝に似た大きな巻貝)、沖合漁業ではカツオ、マグロなどの回遊魚が漁獲されています。

また、住民にとっての貴重なたんぱく質源と観光客へのシーフードの提供という面もあります。ほかにも、魚介類を提供するレストラン、ホテルや観光客向けのスポーツフィッシングなどの関連する経済活動も行われています。

しかし、水産資源の過剰乱獲だけでなく、適切な漁業管理体制の未整備や漁獲データの不足により、資源の持続的利用が脅かされています。これにより、漁業者の生活基盤が不安定化し漁業の将来に対する不安が高まっているのです。

また、多くの国では、漁業に関わる行政の機能が限定的であることや、技術や人材の不足により、効率的な水産資源管理が難しい状況です。そのための統計整備や監視体制の強化が急務であり、地域全体の管理メカニズムの構築が必要です。

次に、国ごとの現状を見てみます。なお今回はカリブ地域の6ヵ国(ドミニカ、グレナダ、アンティグア・バーブーダ、セントクリストファーネイビス、セントビンセント、セントルシア)を対象とします。

図4. 各国の漁獲量
(FAOのデータを基に作成)

近年上昇傾向にあるのは、グレナダ、セントルシア、アンティグア・バーブーダです。

対して、セントクリストファーネイビス、セントビンセント、ドミニカは減少傾向にあります。セントクリストファーネイビスとセントビンセントの漁獲量が2017年を機に激減していることについては、様々な理由が挙げられます。

2010年から、EUは世界各国のIUU(違法。無報告・無規制)漁業に対する規制を行ってきました。EUからのイエローカードは「警告」、レッドカードは「輸出禁止」を意味します。これらに指定されてしまうと、海外からの信用を失うこととなります。

セントクリストファーネイビスは2014年からイエローカード、セントビンセントは2017年からレッドカードに指定されており、輸出量が減ったことにより漁獲量も減少したのだと考えられます。また、地球温暖化による海水温の上昇やインフラの脆弱さなど、様々な原因があります。

続いて、以下の表は国ごとの一人当たりの魚の消費量です。

表1. 国ごとの一人当たりの魚の消費量(2022年)
一人当たりの魚の消費量(kg)
日本 45.4
アメリカ 22.3
ドミニカ 23.5
グレナダ 30.3
アンティグア・バーブーダ 54.3
セントビンセント 19.6
セントルシア 33.4
セントクリストファーネイビス 35.7

(WORLD POPULATION REVIEWを基に作成)

日本はかなり魚に親しみがありますが、消費量ではアンティグア・バーブーダが日本を上回り、6ヵ国の平均は30kgを超えます。

3.JICAのカリブ水産協力

JICAの中米・カリブ地域における水産協力の取り組みは1990年代から徐々に始まり、2000代以降に本格化しました。

特にCARICOM(カリブ共同体)の加盟国との連携を強化し、地域内の共通課題としての水産資源管理の支援を推進してきました。

CARICOMは2003年3月に水産部門としてCRFMを設立し、加盟国間で機能的な協力を推進し、域内全体で水産資源の持続的な利用を目指しています。

先ほども出てきましたが、今回はCARICOMの中でJICAの協力対象である6ヵ国(ドミニカ、グレナダ、アンティグア・バーブーダ、セントクリストファーネイビス、セントビンセント、セントルシア)について絞って紹介します。

これらの国は後に紹介するCARIFICOプロジェクト、COASTFISHプロジェクトの対象国です。次の表は、それら6ヵ国における2000年代以降のJICAの最初の水産または水産加工分野のプロジェクト名とプロジェクトが始動した年度を記載しています。

表2. 2000年代以降の各国最初の水産プロジェクト
年度 プロジェクト名
ドミニカ 2001 沿岸漁業開発拡充計画
セントルシア 2001 沿岸漁業振興計画
グレナダ 2002 水産物流通改善計画
アンティグア・バーブーダ 2003 水産センター建設計画
セントビンセント 2003 キングスタウン魚市場改修計画
セントクリストファーネイビス 2005 零細漁業振興計画

出典: JICA

2000年代以降の水産協力は、プロジェクト漁業施設や魚市場の設立に関するものが多く、それにより、水揚げ場や流通環境の整備をすることで、水産業の基盤を作ったのです。2010年代に入ると、次の問題が発生しました。

それは、過剰乱獲による沿岸水産資源の減少です。
漁業者が自らの漁獲量を増やすための乱獲や、ゴーストフィッシング(荒天や事故のため海中で紛失・流出した漁具が魚介類を獲り続け、そのまま魚介類が死亡してしまう現象)が原因です。
この問題はカリブ地域で共通であったため、解決すべくプロジェクトが始まりました。

2013年から2018年まで「CARIFICOプロジェクト」、2021年から現在(2025年9月時点)まで「COASTFISHプロジェクト」が続いています。

「漁民と行政の共同管理」というのはこのCARIFICOプロジェクトとCOASTFISHプロジェクトの共通目標です。
その理由として、途上国の水産系列の省庁がブルーエコノミーの関連調整を担うことが多いことや、各国水産局は人員規模および財政体制が小規模であることが挙げられます。

そのため、過剰な乱獲や採取による水産資源の減少のため、資源保全管理対策が求められていましたが、その実施が困難だったのです。
そこで重要なのが、沿岸コミュニティが管理の意思決定に関与できる体制を作ることなのです。

また、管理の役割を沿岸コミュニティが担うことで、行政のコストを削減できます。
これらの理由で、「漁民と行政の共同管理」は重要なのです。それでは2つのプロジェクトの具体的な内容を見ていきましょう。

CARIFICO プロジェクト
CARIFICO: カリブ地域における漁民と行政による共同管理プロジェクト(Caribbean Fisheries Co-Management Project)
協力期間: 2013年5月~2018年4月
目的: 漁民と行政による共同管理の手法をそれぞれの国に適切な形で向上させ、それらがカリブ地域で共有される

課題: 各国水産局の組織・財政規模の小ささ、統計整備や分析結果フィードバックの不足、漁民の参加意識の低さ、代替収入源不足、マーケティング機能の弱さ

成果1: パイロット(実証)事業において、漁民と行政の共同による漁業管理のために必要な漁業情報が収集、整理、及び定期的に更新される

成果2:(実証)事業において、漁民と行政の共同による漁業管理に関する合意形成及びルール/規則順守のしくみが提案され、実証される

成果3: 漁民と行政の共同による漁業管理を推進するノウハウや技術が導入される

成果4: 各国におけるパイロット(実証)事業の成果が体系化され、カリブ地域で共有される

このプロジェクトは、こうした課題を踏まえて漁民と行政が共同で漁業管理を行うアプローチ(Co-Management)を確立し、資源の持続的利用と水産業の発展を図ることが目的でした。

内容:主にFAD(人工漁礁)漁業の管理体制の強化です。

6ヵ国中、プロジェクトが一番上手くいったグレナダの事例を紹介します。
まず初めに、地元のFAD漁師に今回のプロジェクトについて合意をとり、さらにどのように進めていくかステークホルダーとの間で協議しました。そして、新たにに漁業組合をつくりました。

そして、組合に所属する者のみが受けられるFADの構造と配備に関する技術能力を向上させる指導イベントを行ったのです。
これにより、多くの漁師はその技術を享受すべく組合に入ることとなりました。
その後、持続可能的にFAD漁業を運営するため、皆でFADの使用に関するルールを策定し、承認しました。

また、持続可能なFAD漁業のため、採取したデータの分析方法や文書作成方法の技術指導やワークショップの開催も行いました。さらには各国でのスタディツアーやCARIFICOプロジェクトは行われました。


COASTFISH プロジェクト
協力期間: 2021年1月~現在(2025-09)
目的: 我が国の「里海」概念を活用し、行政能力や漁民組織を強化、育成することにより、沿岸水産資源のコマネジメントの手法の共有と沿岸生態系の保全の推進に寄与する
課題: かご漁業などの過剰な漁獲・採取により減少した水産資源の減少
成果1. コマネジメント推進のための行政の能力が強化される
成果2. コマネジメント推進のための漁民組織が育成・強化される

このプロジェクトはCOVID-19に大きく影響を受け、プロジェクト開始当初はセントルシア以外は専門家による直接な指導が制限されましたが、2023年5月以降は状況が改善されプロジェクトの終了を迎えることとなっております。

具体的なプロジェクト内容は、かご漁業などの過剰な漁獲・採取により減少した水産資源の保全することです。
具体的な活動として、アンティグア・バーブーダを除く5ヵ国での人工魚礁の管理。

また、セントルシアでのサンゴ礁保全活動やアンティグア・バーブーダでのかご漁業の生物分解性パネルの取り組み、さらにセントクリストファーネイビスでの女性の共同管理への参加を促す活動も行っています。

ほかにもCARIFICOに引き続き6ヵ国での統計データの技術指導やFAD漁業共同管理もプロジェクトの一部です。まだ終了していないので、このプロジェクトの今後に注目したいです。

図4. カリブ地域の水産協力の一連の流れ

4.さいごに

近年のカリブ地域全体の漁獲量について見ていきます。

図5. カリブ諸国全体の漁獲量
(FAOのデータを基に作成)

カリブ地域全体の漁獲量は2014年をピークに最近では落ち込んできています。世界全体でみても海面漁業の数字は1980年以降横ばいとなっています。

原因として地球温暖化による海水温上昇が挙げられます。漁獲量が低下する理由は他にもありますが、カリブ地域のような途上国ではデータが少なく課題解決のための要因を特定することが困難です。

世界中での水産物の需要は増す中で、養殖漁業などには期待が寄せられています。しかし、沿岸資源の保全には沿岸漁業の活発化が不可欠であり、保全が不十分であるから沿岸資源が枯渇するという悪循環に陥っています。

それを踏まえて、JICAの取り組みはもちろん、これからは漁業関係者だけでなく幅広い人々からの意識的な様々な支援(民間企業など)が必要になるでしょう。

JICAのカリブ地域における水産協力の一連の流れを紹介しました。途上国においては沿岸域の問題は共通することが多く、この記事を通じて他の国の海洋問題や水産業に興味を持ってもらえたら幸いです。

以上

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