【リサーチレポート】インターン生が調べてみた。 日本の安全が世界の安全をつくる?!中南米における地域警察活動普及プロジェクト
2025.11.27
中南米部南米課 インターン生 柳本ふたば
Olá! 中南米部南米課でインターンをしています柳本ふたばです。
今回はJICAの中南米地域での地域警察活動普及プロジェクトについてご紹介します。
大学のとある授業で「ブラジルにはKOBANがあるんだよ。」と教授に教えてもらい、そこから漠然とした興味を持っていた当プロジェクト。JICAにてインターンとして働く機会をいただき、プロジェクトに関わられたJICAブラジリアオフィスのナショナルスタッフである木村信幸さんにお話を伺うことができましたのでご紹介します!
目次
1.はじめに
2.地域警察活動普及プロジェクトのはじまり
3.二国間協力から、中南米を中心とした三角協力へ
4.最後に
1.はじめに
日本の開発協力政策の基本方針を示す「開発協力大綱」において、「平和・安全・安定な社会の実現、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化」が重点政策としてあげられています。
加えて、JICAでは複雑化する開発途上国の課題に挑むべく、20の「JICAグローバル・アジェンダ(課題別事業戦略)」を設定しています。警察分野の取り組みに関しては、No.12のガバナンス「すべての人々が、尊厳をもって暮らせる社会を」が関連する戦略の一環となっています。
ブラジルは、経済的にはGDPにおいて中所得国に分類され、「グローバル・サウスの雄」とも称されますが、その一方で治安レベルは世界でもワーストクラス。経済平和研究所(Institute for Economics and Peace)の2025年版「世界平和指数(Global Peace Index)」によると、ブラジルは163か国中、130位に位置しています。
この順位より下の国には紛争状態にある国なども含まれており、どれほどブラジルの治安が悪いのか、ということが分かります。
2025年10月にはリオデジャネイロで治安部隊による麻薬組織の一斉検挙が行われ、その結果麻薬組織との武力衝突となり、住民と警察を合わせて132人が亡くなるという出来事がありました。
こうした治安問題はブラジルだけでなく、中南米の多くの国々にも共通する課題です。
2.地域警察活動普及プロジェクトのはじまり
ブラジルには当初、「地域警察」という概念はなく、日本において一般的に見られる「お巡りさん」や「交番」はありませんでした。1964年から20年ほど続いた軍政が終わり、1988年には軍政期の反省を生かし、人権を重視した共和国憲法が制定されました。民主国家への歩みを進めるブラジルでしたが、国内の治安状況は悪く、1990年代以降は警察による人権侵害など様々な事件が起きていました。
この状況を改善するべく、ブラジルは日本、ヨーロッパ、カナダ、アメリカなどの地域警察モデルを調査し、日本のモデルがもっとも理想的だとして、日本に協力を依頼しました。ただ警察署を地域社会の中に置くのではなく、住民と接点を持ち、気軽に相談できる相手として警察を機能させることが目的でした。
JICAは2000年以降、日本の警察庁・都道府県警察の協力のもと、ブラジル・サンパウロ州警察に対して、研修や技術協力等を通じて、地域警察の導入と普及を支援しました。その取り組みはサンパウロ州だけでなく、ブラジリア、ミナスジェライス州、リオ・グランデ・ド・スル州、アマゾナス州、バイーア州、エスピリトサント州などに広がりました。
今現在は、日本式のモデルに加え、メッセンジャーアプリ「WhatsApp」を活用し、警察と住民がグループを作り、迅速な情報共有が行われるというブラジルに合わせた独自のモデルもつくられています。
また、家庭内暴力発見にも本プロジェクトは大きく貢献しています。SOSのサインを出す女性に気づいた周囲の人が地域警察に通報をしたり、家庭内暴力の前科者に対して、地域警察が家庭訪問を行ったりなど、犯罪が起きてからではなく、犯罪予防としても日本の警察が行う巡回連絡を基にした活動も行われています。
3.二国間協力から、中南米を中心とした三角協力へ
2018年に、ブラジルとの二国間協力は終了しましたが、現在は、本プロジェクトを通じて培ったブラジルと日本のノウハウなどを活かし第三国への協力(三角協力)という形で、エルサルバドル、ホンジュラスやグアテマラをはじめとした他の中南米の国々に地域警察活動を展開しています。
エルサルバドルでは、地域警察活動普及の一環として、地域コミュニティに対し、ハンモックの作り方を教えるなど、教育プログラムを行っています。自分でお金を稼ぐ経験を子供たちにさせることにより、犯罪に巻き込まれるリスクを減らす取り組みが行われています。
グアテマラでも同様に、麻薬組織やギャング集団による強盗、殺人などの治安の問題を抱えています。また、軍事独裁政権下で人権侵害に警察組織が加担していたこともあり、ブラジルと同様、一般市民は警察に不信感を持っていました。日本は2021年からブラジルと協力し、警察官の能力強化や警察官教育カリキュラムの強化などを通じ、グアテマラにおける地域警察活動の普及・定着を図っています。
4.最後に
世界トップレベルの治安を誇る日本(経済平和研究所の2025年版世界平和指数によると163か国中、12位)。その安全を支えている要因の一つが、日本の地域警察システム、すなわち、交番とお巡りさんの存在です。麻薬組織、格差など中南米の国々が抱える治安の問題は日本と同じとは言えませんが、地域の安全に関して気軽に相談し、守ってくれる組織及び仕組みの重要性はどこの国でも共通しているといえるでしょう。
今回、本テーマを調べ、さらに木村さんにお話を伺わせていただき、感じたのは「治安」こそ日本が世界に誇れる価値であるということと、そしてその価値を共有していくためには、対話と相互理解が重要であるということでした。日本のモデルをブラジルに伝授するだけではなく、現地の文化や実情に寄り添いながら進めてきたからこそ、このプロジェクトはおおきな広がりを見せたのだと思います。
日本、ブラジル、そして中南米諸国につながれた「安全のバトン」はこれからも世界各地へ繋がっていくことでしょう。
参考文献
JICAグローバル・アジェンダ 開発途上国の課題に取り組む20の事業構想 | Towards a resilient, inclusive, and prosperous Africa | 国際協力機構
JICA「地域の安全を守る頼れる味方 ブラジル」(地域の安全を守る頼れる味方 ブラジル | ニュース・広報 - JICA、2025年11月13日閲覧)。
JICA「ODA見える化サイト 地域警察プロジェクト」(地域警察プロジェクト | ODA見える化サイト、2025年11月13日閲覧)。
JICA「信頼できる警察とともに暮らしを守る 住民と警察で治安のよい地域に エルサルバドル」(信頼できる警察とともに暮らしを守る 住民と警察で治安のよい地域に エルサルバドル | ニュース・広報 - JICA、2025年11月13日閲覧)。
南南・三角協力 | 事業について - JICA
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