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伝統文化が繋ぐ過去と今と未来                ~ドミニカ共和国移住70周年とその先へ~

2026.02.10

2026年7月、日本人がドミニカ共和国に移住してから70周年を迎えます。
その節目を前に、日本の伝統文化を活かして移住70周年を盛り上げようと、2025年10月、舞踊家・孝藤右近氏、全盲の和太鼓奏者・片岡亮太氏、ジャズホルン奏者・山村優子氏の3名が現地を訪問し、踊りや演奏などを通じて日系社会の方々と交流しました。

第一入植地ダハボン:「ドミニカ共和国太鼓節」の完成
片岡氏と山村氏は、2020年にドミニカ共和国を訪問する計画がありましたが、新型コロナウイルスの流行により断念。今回は山村氏がこの訪問のために新たに制作した「ドミニカ共和国太鼓節」を携えての実に5年越しの実現となりました。

山村氏:ついにドミニカ共和国を訪問できることが決まり、何か私たちにできることはないかと考えていました。ドミニカ共和国のことを調べていた時に出会ったのが、ドミニカ日系人協会の嶽釜徹会長による「棄民の歴史は葬らせない」という記事です。「棄民」という言葉の重み、記事の内容に胸を揺さぶられ、大きな衝撃を受けことがきっかけになり、「ドミニカ共和国太鼓節」を作詞・作曲しました。

孝藤氏を含む3名は、1956年に日本人が最初に入植した移住地であるダハボンを訪問し、日系社会の方々や多くの地元住民が集まった「日本公園」にて、伝統舞踊や和太鼓を披露しました。ところが、突然の豪雨により中断。近くの建物で雨宿りをしていたところ、片岡氏は観客の興奮が冷めないどころか熱気がますます湧いてくるのを感じ、急遽「ドミニカ共和国太鼓節」をその場で披露することにしました。

片岡氏:「えんやらえんやらどっこいせ」という掛け声を、幅広い世代の日系人、地元住民の皆さんが返してくださって、「音の壁」が押し寄せてくるのを感じました。曲に込められた思いや、描きたいと願っていた風景はまさにこれなのだと実感し、涙をこらえるのに必死でした。ダハボンでのあの瞬間、「ドミニカ共和国太鼓節」は本当の意味で完成したのだと考えています。

      ダハボン公演の様子

   「ドミニカ共和国太鼓節」披露の様子

「真心」が繋ぐ信頼関係
ダハボンと同じく日本人が入植した移住地の一つであるハラバコアでは、孝藤氏が剣舞や歌舞伎・獅子踊りを披露。片岡氏、山村氏の演奏の後、Bon Bon Bandのメンバーも加わり世界盆踊り(World Bon Bon)の楽曲に合わせ参加者全員で踊りました。

孝藤氏:日本から遠く離れたドミニカ共和国で、日本の盆踊り文化がまだ残っていることに感銘をうけました。移住者の方々が長年日本を想ってくれていたからであり、また、盆踊りがドミニカ共和国の方々と交流するためのきっかけにもなっているのだと思います。互いの文化を積極的に取り入れて、「真心」で通じあえば、そこに愛が生まれて平和に繋がる。まず「真心」が最も必要で、その上に開発や産業が生まれてくると、より良いまちづくり、国づくりに繋がるのだと思います。

日系社会や地元住民の方々が、3名とともに「共創」により舞台をつくりました。「真心」はJICAのビジョンである「信頼で世界をつなぐ」を実現していくためにも重要だと孝藤氏は指摘します。

                  ハラバコア イベント集合写真

和太鼓の「扉を開いた」若者たち
移住から70周年を迎えようとしている今、2世以降の大半がスペイン語を第一言語としてドミニカ共和国の文化の中で育ってきていることから、日系社会の中で日本文化や伝統をいかに後世に繋いでいくかは課題です。片岡氏は、和太鼓がその重要な役割を果たすと考えています。

片岡氏:私がこれまでに和太鼓から受け取ってきたものを、今度は私がドミニカ共和国の子供たちに伝えていきたいと考えています。皆が丁寧に稽古し、力強く、音と声を合わせて演奏できるようになったら、きっとそこには、和太鼓アンサンブルが内包する、「日本らしさ」や祭りの匂い、思わず声援を送りたくなるような躍動感が宿ると私は信じています。

片岡氏は、ドミニカ共和国の日系人の子供たちが通う日本語学校の生徒を対象に、和太鼓教室を開催しました。課題曲は片岡氏がこのために作曲した「オラ!太鼓」です。

片岡氏:シンプルなリズムを一打一打丁寧に打ち込み、どっしりとした構えで、しっかり全身を使い、仲間と息を揃えて曲を打つ。私が思う「和太鼓らしさ」の雰囲気が徐々に生徒たちにも伝わっていったからなのか、もっと学びたいという意欲に溢れていました。特に彼らの変化を実感したのは「この太鼓は思い切り叩いても大丈夫ですか?」と楽器を思いやる発言をしてくれた瞬間です。そのような気持ちが和太鼓を上達させます。その言葉を聞いた時には、とても感動しました。

約1週間の練習を重ね、最後に「オラ!太鼓」をみんなで合わせて演奏した生徒たちには、片岡氏から、和太鼓の「扉を開いたことを証明します」と書かれた修了証が授与されました。

            太鼓教室練習の様子

         修了証を授与された3世の生徒のみなさん

「ドミニカ共和国太鼓節」が描く未来
山村氏は、「移住から70年の間、様々なご苦労があったことを改めて知り、また、今を生きていることへの感謝や幸せ、そして未来への希望が伝わってきました。忘れてはいけない歴史と共に、「過去」と「今」と「未来」を繋ぐ。そんな願いを込めて作ったのが「ドミニカ共和国太鼓節」です。」と語ります。

3名の訪問を通じて、移住を経験した1世のみなさんが後世に日本文化を継承したいという強い想いを抱いていること、その想いを受けて2世以降のみなさんが日系社会の「未来」を創っていこうとしていることが分かりました。踊りや和太鼓などの日本の伝統文化を通じて、日本文化の継承と、次世代の育成が更に盛り上がっていくことが期待されます。

プロフィール

   孝藤右近氏

日本舞踊家、振付師、剣舞右近流家元、東京大学非常勤講師。
ドミニカ共和国訪問は2024年8月に続き2回目。ドミニカ共和国の民族音楽メレンゲと日本の盆踊りを掛け合わせた「Merengue Bon Bon 」や、ドミニカ共和国で代々継承されてきた伝統的リズムのパロ(Palo)と大阪の河内音頭のリズムを掛け合わせた「Palo Bon Bon」の振付を担当、踊りは分かち合えば合うほど平和が広がっていく素晴らしいものと語る。
ドミニカ共和国の日系社会を、ドミニカ人の明るさと優しさ、日本人の誠実さと真面目さが重なり合って育まれた愛にあふれる社会と表現する。世界各地で公演を実施、踊りと日本文化で世界平和の和のエンターテインメントショーのプロデュース、都内最大級の神田明神納涼祭の振付、次世代の指導などを手掛けている。


   片岡亮太氏

和太鼓奏者、パーカッショニスト、社会福祉士。
弱視で生まれ10歳の時に全盲となる。和太鼓奏者として活動する中、2019年に日系社会から和太鼓の修理の要望を受けて、自身の全盲になった後の苦しかった頃に和太鼓の音や、共に演奏した仲間、数々の舞台経験を通して心を救ってくれたことから和太鼓への恩返しの機会にしたいと太鼓を寄贈したことからドミニカ共和国との縁がつながり、2025年に初訪問となった。
子どもの頃から続けていた和太鼓を中心に各種民族楽器やモンゴルの歌唱法ホーミー等を取り入れ独自の音楽を確立。コンサート、イベント、学校での演奏、ラジオ・テレビへの出演、和太鼓指導などを展開している。


   山村優子氏

ジャズ・ホルン奏者、作曲家。
阪神淡路大震災で被災し避難所や仮設住宅で長く生活をした経験から、音楽が心に寄り添えるものだと強く心を揺さぶられ、音楽の道を志す。ニューヨークで活動をすることが大変だった時期、偶然和太鼓の演奏を聴き、日本人としてのルーツを実感すると共に、色々な価値観や文化背景を持っている人々が暮らす社会で自身の大きな心の支えになった。
ドミニカ共和国の日系の子どもたちに、ドミニカ人としてのルーツと日本人としてのルーツが心の支えとなるように、和太鼓等の芸術から日本を感じ、好きになること、そして両国の素晴らしさを伝える懸け橋となるよう願っている。パートナーである片岡亮太氏とのユニット活動の他、映画音楽製作や後進の指導、絵本作家としても活躍する。


関連資料:

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