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コスタリカ2024年度JICAチェア事業の実績報告

2025.05.27

JICAチェアとは?

JICAチェアという名称を聞いたことが無い方もいらっしゃるかもしれません。

JICAチェア事業とは、開発途上国の将来のリーダーとなる方たちに、専門分野の教育・研究に加え、日本の開発経験をその歴史や文化的背景を踏まえて学ぶ「日本研究」の機会を提供しているプログラムの一環です。

日本の開発経験を学ぶ機会を国外にも広げるため、開発途上国各国のトップクラスの大学等を対象に、「日本研究」の講座設立支援を行うプログラム「JICAチェア(JICA日本研究講座設立支援事業)」を実施しています。

コスタリカにおけるJICAチェア

2022年度にコスタリカ大学と開始したJICAチェア事業は、2023年度にはナショナル大学も加え、当国トップ2校における協力としました。

2024年度はナショナル大学で学部生を対象とした3単位付与の「現代日本」講座が開設されたこと、コスタリカ大学でも複数の講座の中で横断的に日本の現代史や日本文化について取り上げられるなど、これまで特別講義・講演が主体となっていたJICAチェアが、より各大学の通常講座の中に浸透・定着した一年となりました。

以下に2024年度活動実績の詳細をご紹介いたします。

1.実績:
コスタリカ大学における実績は以下の通り。

●既存の講座における日本を題材とした授業の展開
「英語教育のためのドラマ」、「アジア文化の歴史」の2つの講座の中で、日本を題材とした授業実施、教材の活用がなされた。

「英語教育のためのドラマ」講座は英語教育者養成コースの一講座で、前期に開講され13名の学生が受講した。その中で謡曲の「箙(えびら)」と「邯鄲(かんたん)」という作品について取り扱った。

「アジア文化の歴史」講座は3単位の講座で2024年前期・後期に2回開講され、それぞれ30名、35名の学生が受講した。日本に関する授業は5回にわたって行われた。

●プンタアレナス分校による日本映画の上映会
新海誠監督「すずめの戸締り(スペイン語題名は「Suzume」)、黒澤明監督「8月のラプソディー(スペイン語題名は「Rapsodia en Agosto」)の上映会を5月と8月にそれぞれ行った。

前者はチョメスという地方の村の住民を対象に行われ250名ほどの参加があった。

後者はナショナル大学との合同上映会で、コスタリカ大学、ナショナル大学の学生に加え、プンタアレナス科学高校の生徒も参加、合計で50名程の参加者があり、主題である長崎原爆が個人の人生にとって如何に悲惨であったかを題材に所員とも活発な意見交換が行われた。

●日本文化祭り (Festival de Cultura Japonesa) 2024年12月3日

プンタアレナス分校の主導によりエスパルサ市の中央公園で日本文化祭りを開催した。海外協力隊員のサポートもあり、地域の小学生を中心に100名ほどの参加があった。

●その他の関連活動
 ○コスタリカ大学JICAチェアのロゴが作成された(別添参照)。
 ○学部対象の単位付与制講座として「日本概論:歴史と文化(スペイン語名はInmersión al Japón: Historia y Cultura)のカリキュラムを作成、大学側に正式に講座開設を依頼し、現在審査中。
 ○JICAチェア担当教授の一人がいるプンタアレナス分校から日本語教育隊員の申 請が出された。
 ○コスタリカ大学の調整により、京都外国語大学の非常勤講師でありNPO法人フィールドミュージアム文化研究所の川嶋まどか   氏が2025年3月26日に「縄文文化:自然と調和した日本のプーラ・ビーダ 」という演題で、リモートの特別講演を実施した。
 ○「プーラ・ビーダ(純粋な人生)」というコスタリカ人が日々挨拶等でも使う人口に膾炙した言葉を使って、縄文文化がいかに 自然と調和していたかという日本の文化をスペイン語で伝えることのできた貴重な講演となり、24名の聴衆があった(広報フライヤーを別添)

ナショナル大学における実績は以下の通り。

●「現代日本講座 (Japón contemporáneo)」の開講
 3単位が付与される「現代日本講座 (Japón contemporáneo)」が後学期に開設され、27名の履修があった。授業数は全16回 で日本の一般教養課程にあたる。

受講者の大半は国際関係学科の学生であったが、生物学科など他科の学生も履修した。
内容としては学生に対して日本への興味を持ってもらうことを主とし、政治、文化、経済、日本社会について、在コスタリカ50年以上にわたる北条勝子氏による生け花の実習や日本食の紹介などを含み、広く学生の興味を引くようなものとなった。

また、後述する国際日本文化研究センター(日文研)の楠綾子教授による授業も実施され、中国の脅威に対する日本の対応などの鋭い質問もなされていた。

●楠綾子日文研教授招聘 (2024年10月20日~24日)
 2024年2月に実施したコスタリカ大学、ナショナル大学JICAチェア関係者の本邦招へいの際に、日文研にてご対応をしていた  だいた楠教授の研究内容に強い興味を持ったナショナル大学の主導により、同先生のコスタリカ訪問が2024年10月に実施され た。

楠先生の実質的な滞在期間は4日間であり、2回の講演と1回の講義を英語で実施、その他にもナショナル大学の国際関係学部への表敬、コスタリカ大学への表敬(国際協力・対外交渉事務局、JICAチェア担当教官)を精力的に行った。

2回の講演のタイトルは共に「Japan´s security doctrine and foreign policy」で、主に戦後の吉田ドクトリン以後の日本の外交安全保障政策についての変遷を紹介したもの。

1回目の講演は外務研修所で行われ、対面で15名ほどの参加者の他、リモートで30名ほどの参加もあった(多くの職員は在宅勤務のため)。

2回目の講演はナショナル大学の大講堂で実施、103名の参加があった。
(実際の参加者数は名簿に署名していない人もいるため150名を超えると思料)

こちらも大学のユーチューブライブでライブ配信を行った

先述のナショナル大学で現在開講中の「現代日本」講座の授業においては、前日に実施した講演に基づいて学生からの質問やコメントを主として授業を行った。参加者数は教授陣等も含め40名。

学生からは、国の安全保障ということに関しては外交上の課題のみではなく、自然災害に対する安全保障も視野に入るということから、日本の自然災害に対する質問も多くなされた。

学部生を対象とした日本入門的な講座において安全保障というテーマにどれほど学生が興味を示すか多少の懸念はあったが、学生の興味は思っていた以上に高く、日本への興味も表面的なものではなく、かなり深い部分における興味を持っている学生も多くいることが確認でき、今後のJICAチェアの発展にも期待が持てる結果となった。

●その他の関連活動

 ○広島と長崎追悼映画討論会として、コスタリカ大学のところで紹介した日本映画上映会の2回目に
  20名ほどの学生が参加。長崎を題材とした映画について討論を実施した。
 ○ナショナル大学JICAチェアのロゴが作成された。(別添参照)。

以上

コスタリカ大学JICAチェアのロゴ。ヒマワリはコスタリカ大学のシンボルマーク。

ナショナル大学 JICAチェアのロゴ。中央の鳥はジグイロという鳴き声の美しいコスタリカの国鳥。

外務省研修所における楠綾子先生の特別講演。

ナショナル大学における楠綾子先生の特別講演。挨拶をしているのは、吉田憲コスタリカ支所長。有吉勝秀コスタリカ駐箚大使も同席。

ナショナル大学における楠綾子先生の特別講演。挨拶をしているのは、吉田憲コスタリカ支所長。有吉勝秀コスタリカ駐箚大使も同席。

ナショナル大学における楠綾子先生の特別講演。学長から感謝状と記念品が贈られた。

ナショナル大学における楠綾子先生の特別講演。

ナショナル大学「現代日本」講座における生け花の実習。講師の北条勝子先生。北条氏はコスタリカ滞在歴50年以上になり、生け花を通して日本文化の普及に努めている。

ナショナル大学「現代日本」講座における生け花の実習。

京都外国語大学の非常勤講師でありNPO法人フィールドミュージアム文化研究所の川嶋まどか氏が3月26日に実施した「縄文文化:自然と調和した日本のプーラ・ビーダ 」特別講演の広報パンフレット。

1 実績:当国には国立総合大学がコスタリカ大学(University of Costa Rica, UCR)とナショナル大学(National University of Costa Rica, UNA)の2大学存在しており、2023年度は三者による協力の下で実施することにした。
大学側の意向も踏まえ調整し、今年度は以下の講義・講演を実施した。受講者延べ計1675人。

第1回:5月6日。講師:黒上晴夫 関西大学総合情報学部大学院総合情報学研究科教授。講義題:日本における教育現場でのデジタル技術利用の歴史及びパンデミックがもたらした変化と現状。

第2回:6月7日。講師:堀田龍也 東北大学大学院情報科学研究科教授。講義題:日本での初等教育における情報化の歴史・現状と今後の課題。

第3回:8月28日。講師:楠綾子 国際日本文化研究センター教授。講義題:日本の安全保障政策の変遷。(以上オンライン方式及び録画配信)

第4回:10月30日。講師:Hazel Rojas Garcia国立技術大学品質生産性向上センター長(元技プロ・カウンターパート)。講義題:KAIZEN-5S。(対面)

第5回:11月24日。講演者:伊丹敬之国際大学前学長。講演題:人本主義。(対面)

第6回:11月27日。講師:伊丹敬之国際大学前学長。講義題:経済成長と日本式経営。(於外務省研修所)(ハイブリッド方式及び録画配信)

2.所感等: 今年度のJICAチェア事業の実施実績につき特筆すべきことは、本年のアジア・アフリカ研究ラテンアメリカ学会(Latin American Association for Afro-Asian Studies, ALADAA)の第18回総会が当国で開催されることとなり、それを好機と捉え、本部のイニシアチブにより、中南米各国でJICAチェアの推進に携わっている教員・研究者に対して同学会への参加を勧奨・支援し、同学会での伊丹前学長による特別講演と、JICAチェアの展開事例紹介や今後の講師派遣等を含む中南米域内協力に係るアイデア・意見交換を行うため各国JICAチェア担当教員等による情報共有のセッションを設けられたことである。

同情報共有会では、アルゼンチン、ボリビア、チリ、コスタリカ、エクアドル、グアテマラ、メキシコ、ニカラグア、パラグアイの9カ国のJICAチェア関係者が参加し、本部担当者の事業説明の後、担当教員等の域内ネットワーク形成、 JICA チェア実施大学毎のコース・セミナー等の計画・提案等のリスト化や他国との情報共有の体制作り、各大学の優秀学生を対象とする域内・本邦でのワークショップや集中コースの開催、教材や資料の共有を促進するサイト開設と JICA の支援、その他のアイデア・提案が出され意見交換がなされた。

ALADAAとその会員との連携を通じた今後のJICAチェアの域内協力の促進に寄与する非常に良い機会となった。

また、UCR、UNA及び当国外務省との協力による外務省研修所での伊丹前学長の講義を実施し、その機会にSDGsグローバルリーダー事業を通じた国際大学の国際公共政策プログラム( IPPP )への外務公務員他当国政府職員の学位課程長期研修の促進に係る同大学、当国外務省(外相が署名者)、 JICA の三者による覚書の署名を行った。

IPPPは同大学とJICAとの連携事業として設置した、各国外務省その他政府職員等を対象とする1年制のミッドキャリア・プログラムである。当国公務員の多くはUCR、UNAの出身者でもあり、JICAチェアを通じ当国大学・大学院で日本の開発経験等に係る講義を受け、研究を行い、さらに今回の三者合意を通じて国際大学での学位取得の促進を含めてリーダー育成を安定的に支援していけるメリットがあると考える。 
 
3.今後の取り組み: JICAチェアの支援を受けて、UCR は日本を含む東アジア研究の修士課程コースの 2025 年度後期の新設構想の実現に向けた検討・準備を進めている。また、UNA 2024 年後期に学内共通選択科目の日本学関連講義、並びに学内及び一般に開かれた公開遠隔講座を開講する計画を有している。

JICAチェアの継続・充実はこれらを後押しする協力となり、時宜に適った協力となっている。

また、当国では日本研究を担う研究者の今後の養成強化の必要性が非常に高く、UCRとUNAの若手・中堅の教員や研究者の養成のため、SDGsグローバルリーダー事業の下での本邦留学・学位取得を促し支援するとともに、来年2月にはUCR及びUNAから各2名のJICAチェア担当教員の本邦短期招聘を予定している。

以上

11月24日、ALADAAでの伊丹国際大学前学長の同学会閉会時の基調講演。

ALADAA学会会場の一つ、コスタリカ・ラティーナ大学の大講堂での伊丹国際大学前学長講演質疑応答。

11月24日 ALADAAに参加した中南米9カ国のJICAチェア関係者の情報共有会。

11月27日 外務省研修所での伊丹前学長の講義。

11月27日、コスタリカ外務省における国際大学、同国外務省、JICA間の覚書署名。

11月27日、国際大学、コスタリカ外務省、JICA間の覚書署名後の記念写真。左から小松駐コスタリカ大使、André外務大臣、高野コスタリカ支所長、伊丹前学長。

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