ヘアアレンジのクリスマスイベント—現地の人とともに創り上げる、現地の文化に合わせた「ゼロ→1」の試み
2024.12.24
2023-7次隊 山内ゆりか
ヘアアレンジは美容師の収入向上と自立に寄与し、同時に美容師と顧客のエンパワーメントにもつながることを活動を通して示し、体現する――。これは、私が東ティモールにいる間に達成したいゴールです。前回の記事
では、東ティモールにおける美容の可能性や活動先のサロンで働く美容師と、サロンが運営する美容師のトレーニングコースに通う学生とともに完遂した七夕イベントについて紹介しました。今回は、次のステージに向けて彼女たちと奮闘した「ゼロ→1」について記したいと思います。
七夕イベント後、12月に修了予定となる学生たちのトレーニングコースが佳境に入り、あっという間に11月に入ってしまいました。東ティモールでは、12月頃から5月頃まで雨季の期間に入り、ほぼ毎日数時間は集中的に強い雨が降るため、集客や安全性の面からも雨季が始まる前に実施したいという思いが強くありました。
何かいいアイディアは無いかなぁと考えていた時に、”クリスマスに合わせたイベントをやるのはどうか”と思いつきました。東ティモールは人口の99.1%がキリスト教の国で、12月24日のクリスマスイブは夜に、翌日のクリスマス当日は朝のミサにお祈りに行きます。その際、多くの人、特に女性はワンピースなど特別な日に着る洋服を着てそれに合うヘアアレンジをして、おしゃれをして教会に行きます。東ティモールでも日本と同じように結婚式の参列やパーティーのためにサロンに来てヘアアレンジをする女性が多くいます。ただ、クリスマス前後は日本のお正月のようにどのお店も閉まっていることが多く、ヘアアレンジも自分でしないといけません。だったら、クリスマスにミサに行く時にお家でできるヘアアレンジを美容師から習えるイベントを開催しよう!とアイディアを思いつきました。
このアイディアをサロンのみんなに相談したところ、「いいね!来てくれたみんなきっとすごく喜ぶと思う!」と言って賛成してくれました。まだいつイベントができるか決まっているわけでもなく、そもそも候補があるわけでもないけれど、すでに11月。クリスマスのミサに向けたイベントであり、雨季が始まる前に実施するとなるとチャンスは今月しかない、ということはわかっていたので、「場所は何とかして見つけ出す!」という思いでヘアアレンジ練習に取り掛かりました。
前回の七夕イベントでは、私が当日施すヘアアレンジをみんなの意見を聞きながら創ったのですが、今回は彼女たちに創ってもらおうと決めていました。今、現地の若者の間でどのようなヘアアレンジが流行っているのか、現地の王道のヘアアレンジはどんなスタイルかなど、現地女性の嗜好をSNSから情報収集し、それらを参考にしながら彼女たちにこれまで教えてきたヘアアレンジのレパートリーを組み合わせて「現地の人が好きそうな新しいヘアアレンジ」を創りました。
リボンを創るヘアアレンジに挑戦することに
そして、ここから驚きと感動の出来事が起きます。
ヘアアレンジ練習をしていたある日、美容師の1人が「今度、クリスマスマーケットが開催されるみたいなんだけど、そこでゆりかが相談してくれたイベントできそうじゃない? 私、統括マネージャーに相談してみるよ!」と言ってくれたのです。そして、本当に彼女がイベント統括マネージャーに直接交渉し、クリスマスマーケットへの出展が決まりました。イベントに出展できることも嬉しかったのですが、それ以上に彼女たちがイベント出展のためにアンテナを張って、情報をゲットして、形にするために自発的に動いていることが嬉しく、そして驚きました。「場所は私がどうにか探し出す」と意気込んでいたことに恥ずかしささえ覚えました。
また、別のある日には、彼女たちはいつもより早くサロンに来てイベントに向けて自主的にヘアアレンジの練習をしていたのです。これまで、営業時間中でも空き時間がある時は情報収集ではなく娯楽のためにTikTokやYouTubeを見ていることが多かった彼女たちがストイックに練習に励んでいるのです。感動と嬉しさで涙を堪えるのが精一杯でした。
朝練様子
朝練様子
短い期間の中でしっかりと準備をして迎えた当日は、休憩する時間がないくらいお客さまが来てくださり、その場でヘアアレンジを楽しんだり、クリスマスに向けて新しいヘアアレンジを習得する空間となりました。彼女たちがリサーチして新しく創り上げたヘアアレンジは現地の人だけでなく、インターナショナルの方たちからもとても人気でした。
当日の様子
当日の様子
私は前回の記事
の中で、
“活動期間の残り1年間で、彼女たちが美容師として輝く機会を作るとともに、ゆくゆくは彼女たち自身でそのきっかけも創り出していけるように、収入向上とともに自立促進のお手伝いをしたいです。”
と書きましたが、彼女たちはすでに自身できっかけを創り出していたのです。
イベントが成功することももちろん大切ですし、”結果”としてそこに目が行きがちですが、今回、自分で調べて新しいヘアアレンジを創ったり、イベント出展の提案や自主的に始めた朝練など、「自分から何かをする」機会がたくさんあり、当日までの過程の中で見えたこれらの行動こそ、私が人生を懸けてやりたいことなのです。自分から何かを始めることで自分に自信を持つことにつながり、そしてその行動が自分の人生の選択肢を広げることに直結するのです。
今回のクリスマスイベントがきっかけで、彼女たちの行動変容を目の前で見ることができて本当に嬉しかったです。同時に”ニホン”という国から来たはじめましての私をこんなにも受け入れてくれていることに改めて感謝の気持ちでいっぱいです。彼女たちのおかげで、私自身も東ティモールで「ゼロ→1」に挑戦することで行動が変わり、自分の可能性を高め、人生の選択肢を広げることができています。
これからも現地の人とともに現地の文化に合わせた「ゼロ→1」に果敢に挑戦していきたいです。
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