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国際貿易体制への参入と産業発展を支える能力強化支援

2026.01.28

 本記事では、JICA東ティモール事務所が行っている産業政策への協力を紹介します。筆者は、産業開発アドバイザーとして、通商産業省(以下、MCI)へ派遣され、政策策定や現地調整を支援しています。

WTO・ASEAN加盟を背景とする産業発展の課題と現状

 東ティモール政府は、2024年8月末に世界貿易機関(以下、WTOという)に正式加盟し、翌2025年10月末には悲願であった東南アジア諸国連合(以下、ASEANという)への正式加盟を実現した。東ティモール政府としては、今後もさらに他の経済協定を締結して貿易の拡大を図りたいと考えている。
 人口140万人ほどの小さな島国である東ティモールにとって、経済発展の活路をグローバルマーケットに求めることは当然だと考えられる。しかし、人口の大きい市場との物理的な距離が遠く、産業の多角化が遅れたことによって、これまで東ティモール政府の思惑通りには貿易の振興ができてこなかった。この点、東ティモールの主な輸出品であるコーヒーであっても、競合国と比べ耕地面積当たりの生産性が低く、国際標準に適った品質の確保も需要に見合った量の確保も難しい現実がある。東ティモールが国際貿易によって経済を飛躍させるためには、海外からの投資や技術移転が不可欠であるが、海外から投資を呼び込むだけのビジネス環境が整っておらず、インフラの未整備や法制度の不備など問題は山積している。
 東ティモールは、これまで国家財政のほとんどを石油・天然ガスの収入に依存してきたが、近年まで稼働していた油田は実質的に枯渇し、現在は、過去の石油・天然ガスから得た収益を貯めた基金を少しずつ減らしながら国家の財政を運営している。東ティモール政府は、2023年末に国家産業開発政策(National Industry Development Policy)を公表し、高付加価値を生み出す製造業の振興などを目標として掲げているが、具体的な打開策を打ち出すことができず、産業の多角化は遅々として進んでいない。
 東ティモールがASEANやWTOに正式加盟する際には、数多くの条約の締結や法整備などが求められてきたが、正式加盟を実現した現在も、多くの制度が未整備のままとなっている。WTOからは、国際貿易に不可欠な法令の整備が求められており、その1つとして、製造業振興を実現させるためのManufacturing Action Plan(以下、MAP)の策定が求められている。本プロジェクトでは、通商産業省の要請を受け、MAP策定を支援しており、MAPを完成させるためにはCouncil of Ministersの承認を経た上でWTOからの承認も取り付ける必要がある。
 ASEAN加盟国の中には、すでに労働集約型の製造業に頼る産業構造から転換し、資本集約型の製造業を主とする産業構造へと発展しつつある国もある。しかし、東ティモールでは、現状、国内市場向けに単純な加工品を販売するごく小規模な製造業者がほとんどであり、労働集約型の製造業も十分に育っていない状況がある。東ティモールに製造業が育ってこなかった背景には、インフラの未整備に伴う様々な高コスト構造や市場が求める産業人材の不足、政府機関の横断的な協力体制の欠如といった問題があるが、そもそも通商産業政策を担うMCIの職員が、的確に問題点を把握していないという問題がある。

カンボジア視察を通じたMAP策定支援と制度整備の前進

 そこで当プロジェクトでは、ASEAN諸国の中で一人当たりのGDPが比較的近いカンボジアに焦点を当て、政策立案に関わるコアなMCI職員を対象として2025年6月28日から7月6日にかけてスタディーツアーを実施した。本スタディーツアーでは、カンボジア商業省貿易促進総局(Ministry of Commerce General Directorate of Trade Promotion)、国家貿易円滑化委員会(National Committee on Trade Facilitation)を訪れ、カンボジアの貿易促進政策について意見を交わしたほか、商業省消費者保護・競争・不正防止総局(Ministry of Commerce Consumer Protection Competiton and Fraud Repression Directorate-General)及び、商業省知的財産局(Ministry of Commerce Department of Intellectual Property)を訪れ、カンボジアの競争政策及び知的財産保護政策の実際について知識を深めることができた。また、国家の重要戦略を決定する機関であるカンボジア開発評議会(Council for the Development of Cambodia) を訪れ、カンボジアの統治機構や経済特区戦略などについても意見を交わすことができた。
 さらに、スタディーツアーでは、政府関連機関のみならず、東ティモールが計画を進める経済特区の運営などについてより多くの知識を得るため、首都プノンペンではRoyal Group Phnom Penh SEZを訪問し、テナント企業の工場を視察したほか、陸上物流の運用実態などについて学んだ。また、海上貿易の拠点であるシハヌークビルでは、Sihanoukville Port Special Economic Zoneを訪れ、AEON Mall Logi Plusなどを視察して海上物流の実務について学び、ベトナム国境に近いバヴェットでは、Tai Seng Bavet Special Economic ZoneとManhattan (Svay Rieng) Special Economic Zoneを訪れ、通関手続きなどを1か所で行うOne Stop Shopを視察したほか、輸出志向型の労働集約型製造業の工場2か所を視察し、経済特区運営の実態などについて見分を深めた。
 本スタディーツアーで得た知識は、MAPのドラフトに反映され、東ティモール帰国後は、プロジェクトが主導する形でCouncil of Ministersの承認に向けた関係省庁,ドナー、民間事業者団体などに対する事前説明や公聴会などが実施された。2026年1月時点では、MAPのドラフトについてMCI大臣の承認を得るところまで手続きが進んでおり、Council of Ministersへの提出に向けた手続きが進められている。今後は、MAPに必要なCouncil of Ministers及びWTOの承認が速やかに得られ、東ティモールにおいて一日も早い産業の多角化に向けた具体的な施策の実施が期待される。

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