2025月3月26日
2023年度7次隊 美川沙央里
所属:コタカチ教育事務所
職種:小学校教育
背景
私の任地のコタカチは首都から北に車で2時間半ほど、標高2700mに位置する小さな街です。コタカチは皮製品が有名で、週末には国内外から観光客が訪れます。また、この辺りはインディヘナ(先住民)の方がエクアドル国内の中でも特に多く居住しており、私が勤務する学校も子供達の半数以上がインディヘナの子供達です。
配属先はコタカチ市の教育事務所(日本の教育委員会)で、子供達の算数の学力向上と先生方の算数の指導力の向上を目標とし、2つの小学校で巡回指導を行いました。子供達の算数の学力はとても低く、高学年になっても四則計算が満足にできない状況でした。また、授業も先生が一方的に話すスタイルが主流で、授業時間内に子供達自身が問題解決をする場面や練習問題に取り組む場面が少なく、子供の学力が定着しないままに学年が上がっていくという課題がありました。これらの課題を改善するために、教育事務所や学校の先生方と一緒に2年間活動を行いました。
活動内容
私の主な活動は二つです。
一つ目は、計算力向上を目指して、2年生~7年生(日本の小学生に当たる学年)の子供達へ授業を行うことです。最初は数の概念や10の合成・分解を学ぶために、カードゲーム等も取り入れながら楽しく授業を行いました。また、足し算・引き算の学習においても手作りした計算ブロックを用いて、繰り上がり・繰り下がりのある計算も暗算ができるように指導を行いました。各学級週に1回~2回の指導でしたが、最初はほとんどの子供達が指を使って計算していた状況が、活動の最後にはほとんどの子供達が暗算ができるようになりました。そして、ブロック等の具体物を使用した練習の後には、10マス計算や100マス計算で繰り返し練習を行い、7年生においては、5分以内に引き算を100問解き終わったのが一人だったのが、引き算の学習を終える頃には学級の半数以上の子供達が5分以内に100問解き終わるようになりました。さらに、掛け算の暗唱テスト等も行い、子供達の計算力が目に見えて大きく成長したことは、とても嬉しかったです。
活動の二つ目は、先生方の算数の授業力向上を目指した研修会です。研修会は放課後に自分の勤務先の先生方に向けて行うこともあれば、配属先と協力してコタカチ市内の小学校の先生200名程度を対象に大規模に行う研修会も数回企画しました。内容も四則計算の教授法や45分の授業の構成の仕方など多岐にわたりましたが、その都度先生方や配属先のニーズを確認しながら、実際に人数分の教具を準備し、それを扱いながら考えたり、グループで活動する時間を取ったりする等の工夫したため、満足度の高い研修会を実施できたと思います。
普段の授業も、研修会も、勤務する学校の同僚の先生方、他のボランティア、教育事務所の同僚の協力が必要不可欠でした。最初は、私が授業をしている時に担任の先生が教室を出て行ってしまい、私は担任の先生の代替ではないということを理解してもらうのに少し時間はかかりましたが、それでも最後は一緒になって子供達の指導に当たってくれるようになり、その変化がとても嬉しかったです。また、子供達も自分の成長を実感するにつれて、一生懸命授業に参加してくれるようになり、私が教室に来るのを心待ちにしてくれる彼らのことが今では愛おしくて仕方ありません。
2年間を振り返って
エクアドルの学校で2年間勤務し、厳しい現状が大きく変わったとは決して言えません。長年の経験がある先生方の授業スタイルを変えるのはやはり難しいし、子供達の学力も計算力以外の部分では低いままです。また、山間部では先生ひとりで全学年の授業を受け持つ小規模な学校が多く、交通機関がないが為に学習時間が確保されていない学校もあります。教科書には公式が載っているだけで、先生自身もなぜその公式になるのかを知らないため、覚えるだけの学習にならざるを得ない状況です。正直、2年間の自分の活動がこの現状を変えるだけの力になったとは思えませんし、子供達を取り巻く環境を知れば知るほど自分の無力さを感じることもありました。それでも授業を毎回楽しみにしてくれる子供達の笑顔と、先生方からの「もっと色々なことを教えてほしい」という言葉に助けられ続けた2年間でした。
ボランティアとして、何か自分にできることがあればという思いでここに来ましたが、結局自分が2年間で残した物よりも大きな宝物をもらったような気がします。2年間、私の活動を支えてくれた愛情いっぱいのエクアドルの人達、インディヘナの人達が受け継いできた素晴らしい文化と伝統、アンデスの豊かな自然、全てが大好きです。そして、近い将来必ず戻ってきて、ここで出会った人達の為に自分にできることを探したいと思っています。第二の故郷とも言える居場所に出会えたことが本当に幸せですし、それを作ってくれた全ての人たちに本当に感謝しています。
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