2025月6月18日
2023年度 1次隊 坂井 陽一
所属:スポーツ省 知的障害者スポーツ連盟
職種:障害児・者支援
未来の隊員のみなさまへ
“ランドスケープ(風景や景色)”、いい言葉だと思いませんか?遠くに見える美しい山々や日常の街並みなどを思い浮かべる方も多いと思います。そして、この言葉にJICAボランティアの活動が加わるとどうなるでしょう? … そうです。私たちJICAボランティアが見るランドスケープとは、現地で一緒に活動する人たちと共に描くその国の未来の風景であり、私たちの活動は、その風景に少しずつ近づくための活動だと思われます。
さて、私の任期も残り2カ月となりました。そこで今回は、私のこの2年間での現地の仲間(同僚)と一緒に築いてきたランドスケープを見つめながら、活動を振り返りたいと思います。
お互いの背景(配属先と私)と描きたい風景
私が配属された知的障害者スポーツ連盟(FEDEDI:Federacion Ecuatoriana de Deportes para Personas con Discapacidad Intelectual)は2012年に設立され、スポーツ活動を通した知的障害児者の生活の質の向上と社会包摂、スポーツへの参加機会拡大やアスリートの競技能力強化などを目指しています。しかし、エクアドルの障害者スポーツの歴史はまだ浅く、そこで、障害者スポーツの人口拡大や指導者の数の増加、また指導者の指導方法を改善するためにJICAボランティアを要請することになりました。
JICAボランティアに参加する前の私は、中学校教諭(保健体育、特別支援学級を担当)をしていました。部活動(陸上競技)では、指導だけでなく生徒たちと一緒に練習に取り組み、市民マラソンやマスターズ陸上の大会にも参加していました。その他、地域の知的障害児者のスポーツ活動(スペシャル・オリンピックス神奈川)でのボランティアもしていました。私のJICAボランティア参加への一番の動機は、配属先の思い描く未来(要請内容)に、私の経験を活かしながら、エクアドルのスポーツ文化に貢献したいと思ったからです。
JICAボランティアへの参加は、ひとつのご縁だと思います。そして、その繋がりをつくるには、世界に広がる様々な風景をいつも見つめながら、自分にできること、自分が楽しくできることを見つけていくのがいいと思います。そして、現地の活動のなかで大切なのは、現地の人たちと同じ目標を持ち、描いていきたい風景を共有していくことが充実したボランティア活動に繋がっていくと思います。
活動内容
私の日常の活動は、知的障害者スポーツ連盟が管轄する5つの競技団体(陸上、水泳、自転車、卓球、室内の漕艇=インドアローイング)を巡回して、現地指導者への練習内容や指導方法のアドバイスをすることです。もちろん現地の指導者は、その競技の経験者であり、競技経験も指導経験もあります。そこで私の中心となる役割は、選手への直接的な競技練習だけでなく、選手(知的障害児者)の運動技能がさらに高まっていくような段階的な指導方法の紹介であったり、運動のやり方(構造)が理解しやすいような視覚的や聴覚的な運動技術の提示方法であったり、あるいは適切な指導術語を現地の指導者と一緒に考えたりするなど、選手の競技力を支えていくようなことが主でした。また、日々の練習には私も参加するようにして、私と選手らの運動方法や運動姿勢の違いを通して、現地の指導者が具体的なアドバイスを選手に送りやすいようにしました。その他にも、専門的な競技練習の前段階となるような、誰もが楽しく取り組める「体づくり運動」の指導を通して、ストレッチングや補強運動の質を高めたり、運動の幅を広げたりしながら、運動が身につきやすいようなレディネスの状態を高めるようにしていきました。そして、何よりもスポーツをすること、運動することを通して、人生を明るく楽しく、生きがいを持って過ごせるような楽しい時間にできるように心掛けました。
日常の活動の他にも、障害者スポーツの指導者の人数を増やしていくために技術講習会も数回行いました。しかし、短時間での講習会では、楽しい時間にはなっても、運動の紹介をするだけで終わってしまうこともありました。その反面、FEDEDIの指導者とは、毎日継続して一緒に活動する時間が長かったので、私たちの計画したことが選手の意識・行動変容に直接つながっていく過程を見ることもでき、彼らの指導スキルもかなり向上したと考えます。そして、私の活動後半の技術講習会では、FEDEDIの指導者が講師を担当することにしました。そこでは、現地の指導者が現地の人たちの理解に立って考え、分かりやすく伝えるなど、この国での持続可能な技術移転の形を模索することができたと思っています。
また、障害者スポーツの人口拡大についての要請もありましたが、現段階ではまだ指導者の数も絶対的に少なく、新しい選手の積極的な獲得については、まだもう少し先の課題として残すことになりました。
共に生きるランドスケープ
私たちが見ることのできるランドスケープは、前の世代の人たちが努力してつくりあげたものであり、また私たちが、新しく良い点をそこに描き足してつくられていくものだと思います。今回の私の活動では、最初に配属先が描いた風景には届かなかったかも知れませんが、私と一緒に活動したことで、これから描く風景の輪郭がしっかりと描き足されたと思っています。JICAボランティアが一人でできることは、ほんの小さなことかも知れません。私の2年間の活動も、どちらかと言うと、うまくいかなかったり、悩んだりした時間の方が長かったと思います。しかし、現地の人たちと一緒にその国の未来や風景を描いていくことで、その実現が少しずつ可能になっていくのだと思っています。
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