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考古学の学芸員によるエクアドルでの国際協力

2025月12月10日

2023年度3次隊 佐藤 剛
所属:オハス・ハボンシージョ丘陵考古学博物館
職種:学芸員

背景

エクアドルへの海外協力隊の派遣は1991年に始まり24年の歴史がありますが、初めての学芸員職種の派遣です。この博物館はコスタ(沿岸地域)のマナビ県ポルトビエホ市に所在し、オハス・ハボンシージョ考古学複合という、研究所と遺跡公園、博物館、図書館、キャンプ場(現在は臨時閉鎖中)が一体になった施設内にあります。2016年に起こったエクアドル北部沿岸地震での被害に対して、2024年4月に日本からの無償資金協力により、免震棚と免震展示台が支援されました。

博物館の外観

エクアドル文化遺産省の所管は7つのゾーン(地域)にわかれています。ゾーンに所属する研究所のうち、国立中央研究所を除くと、考古学的な遺跡の保護区と博物館が一体になっている施設は、本施設とシエラ(山岳地域)にあるインガピルカの2か所のみです。研究所の専門家(各分野の研究者はいるが、学芸員職種は一般的ではない)が博物館職員を兼任し、そのほかにガイド担当3名(ワークショップなども行う)と公園設備担当1名は、所在地の先住民(族)地区の出身者で構成しています。

遺跡公園の散策路

活動内容

配属先の博物館と遺跡公園を訪問してまず感じたのは、展示内容や方法、その基盤となる研究は、先進国と呼ばれることの多い日本や多くの国々と遜色ない、変わらないということです。エクアドルの博物館や遺跡保護について、日本ではほとんど情報がなかったため、ほかの博物館や遺跡も配属先の考古学者とともに訪問しましたが、博物館や遺跡の収蔵・展示資料は充実しています。
一方で、日本の中小規模の博物館と同様に、人員不足、資金不足は否めません。

博物館のメイン展示

博物館職員は本来研究所に所属する専門家のため、通常の博物館業務(収蔵品の整理、展示会やワークショップの開催、発掘調査など)のほかに、行政としての文化財保護(許認可や遺跡跡破壊・盗難などへの緊急対応、会議への出席など)も担っています。そのため、私自身も考古学者の専門家として、こちらの専門家と各担当者と協働しながら、博物館と行政での両方の活動を行ってきました。また、博物館と遺跡公園は前述の通り国の施設ですが、予防接種や犯罪防止の啓蒙などの地域の活動やイベントなどでの利用が多く、地域住民との関係がとても近くて良好です。

研究についてはどこまでがJICAにおける活動なのかの線引きは難しいと考えています。こちらでも研究は個人に委ねられている部分が大きいためです。日本の考古学系の学会や研究会で、JICA活動の紹介、エクアドルでの考古学レスキュー(緊急発掘調査)の紹介、計画停電についての調査発表、博物館業務の紹介を行いました。

国際協力あるあるだと思いますが、派遣国では紙や本、資材の購入資金が不足しているため入手できなかったり、多くの手間や時間がかかったりします。また、社会全体で資金が足りないことによる貧困、解雇や人員の不足があり、大雨による洪水や土砂崩れ、郵便がほとんど機能していないことなど、社会インフラの脆弱性があります。ですが、エクアドルではデジタル化による対応により、IDによる個人認証が進み、インターネットやスマートフォンは全国で普及し、配車システム、宅配サービスも定着しています。会議はオンラインで行われ、最新のアプリも無料や安価に使用できます。現在の日本のデジタル化は、先端分野と一般社会、都市と地方などで二極化が起こっており、社会全体ではどこまで普及し、定着しているでしょうか。このように、エクアドルのデジタル化の進展は日本よりも一般社会に広く普及し、定着していると感じることが多く、隊員は多くの場面でデジタル技術への対応と活用が求められます。

こうした博物館を取り巻く組織体制やデジタル化などの状況はエクアドルと日本では異なっている点はあるものの、これからの日本も、様々な場面でこれらへの対応について検討の余地がありそうです。

バルサマラグア遺跡での考古学的な学術発掘調査

活動を終えるにあたって

活動の残り期間は2か月を切りましたが、日々の活動は続いているため、振り返るにはまだまだ気持ちの整理は追いついていません。
活動のテーマの一つである異文化理解では、つい現実世界ばかりに目を向けがちです。赴任してからの私は、自身の語学力不足もあり、配属先職員とのコミュニケーションは十分に行えてきたとは言えませんが、可能な限り一緒に仕事をしたり、食事を取ったり、多くのイベントに参加してきました。それに加えて私の理解では、文化は歴史(考古学も)であり、現代の異文化を理解するためにはその地域が現在に至るまでの歴史やその背景を学ぶ必要があると考えています。このことはとても時間がかかることだと思います。こうしたコミュニケーションと、文化や歴史の学びのなかで少しずつ知人や仲間が増え、周囲からの活動への理解が高まってきたように感じます。2年間の活動期間はとても短いものですが、お互いの人となりや仕事、研究の背景を知っていくなかで、お互いへの尊重や尊敬の気持ちが広がるのでしょう。

博物館の考古学保護区と執務室

本来であれば活動の継続性が求められますが、安全状況が良くないことから、しばらくはコスタへの派遣はなくなるようです。エクアドルにはシュアルやキチュアをはじめ、多くの先住民族文化があります。国内でのこのような状況のもとに学習機会の格差はあり、是正していく必要性があるだろうと思います。そのためコスタに限らず、どこでも誰でも、このような歴史的な文化について学び、理解を深めていく活動がこの国と日本、世界の子どもたちの未来をより良いものに変えていけることを信じて、協力隊活動が今後も続いていくことを願っています。

博物館の日本語・文化体験コースでの一コマ