ラオス、法の支配へ大きな貢献

2023.10.25

2024年にASEAN(東南アジア諸国連合)の議長国を務め、国際社会からも注目度が高いラオス。2025年には、日本との外交樹立70周年を迎え、「自由で開かれたインド太平洋」を推進し、インド太平洋の平和と安定の基礎である法の支配を確立するためにも、日本にとって重要な戦略的パートナーです。

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ラオスでは、その法の支配確立に向けて、1998年以降すでに25年以上、JICAによる法整備支援活動が続けられています。その結果、国家の基本法に関わる支援が実を結び、2023年には法の支配を支える5冊の重要文献(後述)が完成し、ラオス政府側からも喜びの声が聞かれました。そこで今回は、これまでのラオスにおける法律プロジェクトの活動、成果、今後の課題を紹介していきたいと思います。

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2023年5月5日Vientiane Mai新聞掲載記事

~ラオスにおける法整備支援のはじまり~

ラオスでは、1986年の新思想(チンタナカーン・マイ)による市場経済化の導入を契機に、90年代以降、国際機関や諸外国の支援の下、財産法や家族法、相続法等が整備されてきました。しかし、各法律が個別に作られていたため、法律間で整合性が取れておらず、法律家での間でも解釈が異なる事項が多くありました。そのため、様々な社会問題、経済紛争等に対処する体系的な法律の整備を必要としていました。
こうした背景のもと、JICAは、ラオス政府からの要請を受け、1998年から日本での研修や現地セミナーを実施し、2001年には長期専門家を現地に派遣、ラオスにおける本格的な法整備支援を開始しました。その後のプロジェクトを通じ、既存の法律などのデータベースの構築、経済紛争解決法や労働法、刑事法などの参考文献や模擬事件記録教材の作成を行いつつ、それらを通じて法律家の能力の向上が進められてきました(各種文献については下記及びリンク先参照)。

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法律プロジェクト文献データベース
(QRコードで誰でもアクセス可能)

~民法典の起草から逐条解説書の作成まで~

2012年からは、市民生活や経済活動全般に関わる重要法典である民法典の起草作業が開始され、JICAは6年以上にわたる起草支援を実施しました。起草された民法典は、2018年12月にラオス国民議会で承認された後、2020年5月27日に施行されました。ラオスでは初の民法典であり、JICAが起草を支援し施行された民法典は、ベトナム、カンボジア、ネパールに続く4例目となります。
この民法典は、ただ日本や外国の民法をそのまま導入するのではなく、ラオス政府の主体性を尊重しながら、両国関係者の協力の下、ラオスの社会や文化に即した条文が一つ一つ地道に作り上げられたことが特徴です。JICAは、長期派遣専門家を現地駐在させ、起草作業の促進や法的アドバイスなどの支援を行うとともに、日本国内からアドバイザリーグループを通じて理論的な観点からも支援を行いました。

引き続き、2018年から2023年7月までは、「法の支配発展促進プロジェクト(プロジェクト概要についてはリンク先参照 (英語))」を実施しました。民法典が作られた後でも、それが市民の権利の実現に寄与しなければ意味がありません。

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民法典逐条解説書

その担い手である裁判官・検察官・弁護士ら法律実務家が民法典を紛争予防・解決の道具として活用できるようにし、また教育研究機関が民法典を研究し、学生に民法典を適切に教授できるようにする必要があります。

しかしながら、ラオスにおいては法律家が問題に直面した際に参照できる文献が限られており、また、地方となれば研修の機会も少ないことから、尚更民法典の理解を深めることが困難な状況です。

そこで、そのような法律家の民法典への理解を助ける、民法630条全ての内容を事例や参照条文と共に網羅した逐条解説書は、2023年4月に完成しました。解説書は計767ページに上り、各条文の趣旨や具体的な適用事例などに関する研究結果をまとめております。国家の基本法である民法典の全てを解説した文献はラオス初であり、かつ、ラオスの法の支配発展の礎となるものであり、ラオス法制史に残る快挙であると言えます。

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2023年7月6日東京新聞掲載記事

~法の支配への多方面からの寄与~

2023年には、民法典逐条解説書の他にも4つの成果物が完成しました(改正版民事判決書マニュアル、事実認定問題集(民事)、事実認定問題集(刑事)、刑法総論教科書)。これらは、ラオスの法の支配発展へ向け必要不可欠なものであり、法律プロジェクトは多方面からアプローチし続けて来ており、それが今、成果として現れてきています。

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5冊の文献の市民向け新聞広告
(Vientiane Mai)

改正版民事判決書マニュアル

裁判官は法律の条文のみならず事実にも着目しながら適切に担当事件を判断していく必要があります。しかしながら、いくらその判断内容が適切であったとしても、判決書にその判断過程が明確に示されていなければ、国民から見て、「本当に公平な裁判が行われたのだろうか」と疑われかねません。つまり、民法典その他の法律が制定されても、それが裁判所で適切に運用されていることが、客観的かつ明瞭に理解できるものでなければ、法制度全体への信頼が揺らぎかねません。
そこで、法律の改正点を踏まえ、より適切に判決書を作成できるように改正版マニュアルを作成しました。具体的な判決例を示した裁判実務における画期的な参考資料であり、改正版判決書マニュアルの作成は、適切な裁判手続支援という面においても、法の支配の確立に寄与しています。

事実認定問題集(民事・刑事)

事実認定とは、証拠を分析し、その証拠からどのような事実を推認することができるかを考えるものです。民事の問題集は、証明しなければならない事実をどのように特定するかを、刑事の問題集は、証拠を分析する際には何に気をつけるべきかをそれぞれ学ぶことができる教材であり、これまでラオスになかった考え方をもたらしてくれるものとなっています。
法律家が事件を担当し検討する場合には、民法典や刑法典などの法律の中身だけを考えれば良いのではなく、それを具体的事件に即して検討し、論理的な思考過程を通じて結論が導かれる必要があります。法律家が実務を行う上で必須の考え方を取り扱うものであり、法の支配を実務的な側面から支えています。

刑法総論教科書

ラオスで初めて刑法の理論そのものを正面から議論した「刑法総論教科書」は、全ての犯罪に関連する刑法の一般的な理論について、法律家の間で議論した結果をまとめたものです。これまで法律プロジェクトにおいては、刑事訴訟法チャートなど刑事手続を改善するための支援をしてきました。そして今回、刑法典という、民法典と並ぶ国家の重要な基本法であり、刑罰という重大な効力を持つ法律の中身について、法律プロジェクトが関与しました。
理論面からの支援は、刑法の恣意的な解釈の防止、適切な法運用の前提となるもので、法の支配の意味を実質的なものにするために必要不可欠なものです。

~今後の課題~

2023年7月からはこれまでの活動をさらに発展させ、「法の支配発展促進プロジェクトフェーズ2」を実施しています。
法の支配を維持・発展させ、同時にその担い手(法曹、行政官、法教育関係者等)を育成していくにはまだまだ多くの時間が必要です。民法典、刑法典については、これまでの支援をさらに発展させて、理論研究に加えて法律家が適切に法律の実務運用を行えるような基盤を引き続き整えていく必要があります。
また、長年の協力を通じて作成された様々な教材・執務参考資料について、要となる教育機関における有効的かつ自立的な活用を押し進めることにより、将来の法律家養成を拡充していく必要があります。
さらに、都市部の中核人材だけではなく地方の法律家や若手も含め、ラオス全体の法律家のレベルアップを進めることがラオスの法の支配確立に必要不可欠です。
今後も、司法省、最高人民裁判所、最高人民検察院及びラオス国立大学法政治学部の4機関等と共に、上記の課題に対応するため、JICAは協力していきます。

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2023年9月28日
JICA法の支配発展促進プロジェクト(フェーズ2)の合同調整委員会(JCC)準備会合

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2023年7月4日Vientiane Times掲載記事・1面

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2023年7月4日Vientiane Times掲載記事・5面

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