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JICA海外協力隊 現職教員参加制度で派遣された元隊員に聞く~第32回美弥子所長が聞く

2026.10.07

 ラオスでは、世界初となる1965年12月の青年海外協力隊派遣開始からこれまでに1,133人(2026年10月時点)のJICA海外協力隊が活動をしてきました。農業、教育、保健、村落開発、上水道などの分野で、ラオスの人々と活動をともにし、食事もともにしながら日本の経験・知識を伝え、心の交流を続けてきました。
 2001年には、JICA海外協力隊への教員の参加促進を目的として「現職教員特別参加制度」が創設されました。小・中・高等学校の教員が、現職の身分を保持したままJICA海外協力隊に参加できるようになり、ラオスでも多くの現職教員がこの制度を活用し、JICA海外協力隊としてラオスの教育の質向上のために活動をしてきています。
 今回の「美弥子所長が聞く」では、ラオスでは10月7日が「教師の日」ということで、2023年8月から2025年3月まで現職教員特別参加制度を通じて、ラオスで協力隊として活動し、現在は、学校現場に戻って活躍されている4名の方にお話をお聞きしました。

【参加者(50音順)】
岩田 健太氏(東京都八丈島八丈町立大賀郷中学校 教諭 )
小池 柚衣氏(ベトナム・ホーチミン日本人学校 教諭)
永岡 未来氏(長崎県立五島南高等学校 教頭)
山本 佳奈氏(兵庫県宝塚市立安倉小学校 教諭)

※ファシリテーター
小林 美弥子(JICAラオス事務所 所長)

●ラオスでの配属先と現在のお仕事について

小林美弥子所長:皆さん、お久しぶりです!最初に、読者の方に向けて、JICA海外協力隊(以下、協力隊)のときの配属先と現在のお仕事について教えてください。

永岡未来さん:ビエンチャン県教育スポーツ局に派遣され、中学校と小学校を巡回し、体育の授業法をラオスの先生方に教えていました。現在は、長崎県立五島南高等学校で教頭を務めています。

山本佳奈さん:ビエンチャン県にあるバンクン教員養成校に派遣され、教員養成校や附属小学校の先生に算数の指導法を教えていました。現在は、宝塚市立安倉小学校で理科専科として4、5、6年生の理科を教えています。

左上から時計回りに山本さん、永岡さん、岩田さん、美弥子所長、小池さん。オンラインでお話をお聞きしました。

小池柚衣さん:ルアンパバーン県教育スポーツ局に派遣され、複数の小学校を巡回しながら体育の授業を行ったり、先生方に指導法を教えたりしていました。現在は、ホーチミン日本人学校で教員をしています。

岩田健太さん:サワンナケート県にあるサワンナケート県教員養成校に派遣され、付属小学校で算数の指導法を教えていました。現在は、東京都八丈島にある八丈町立大賀郷中学校で家庭科を教えています。

●ラオスの教育現場の課題と強み

美弥子所長: ラオスで活動するなかで、難しいと感じた課題や日本との違い、 ここは素晴らしいので日本でも活用したいな、という点について教えてください。

永岡さん:体育の授業のあり方や健康に対する考え方・捉え方については、日本と全く違いました。しかし、体育教員が知識や経験を身に付けることができれば、子どもたちに体を動かすことの楽しさや必要性を伝えるだけでなく、長い目で見れば健康寿命を延ばしていくことにもつながっていく、ということが伝えられるのではと考えました。体育は、ラオスの教育にとっても重要であると信じて、活動をしていました。一方で、教員と子どもとの距離が、日本よりも近く、お互いに気兼ねなく話すことができる点は、日本も学ぶことができます。ラオスでは教員も子どもも両者に心の余裕があるため、教員が気持ちにも余裕をもって子どもと接することができ、この点は日本が見習うべき点であると感じます。

中等学校で体育を指導する永岡さん

山本さん:教員の指導力不足と教材の不足をひしひしと感じました。ただし、教員がやる気がないということではなく、学ぶ意欲も高く、日本の「子ども中心の授業」に興味関心を持っていました。しかし、頭では「子ども中心の授業」の大切さがわかっているものの、実践となるとどうしても板書中心・暗記中心の授業作りから抜け出すことができず、もう少し時間が必要だなと感じました。教材の不足については、印刷も満足にできませんでした。一人1枚ずつプリントを配布することができれば、子どものやる気をもっと引き出すことができるのに、ともどかしく思うことも多々ありました。人懐っこく、素直な子どもが多いので、教育環境がもう少し改善すれば、子どもたちはより多くのことを吸収できるようになります。

ラオス人教員と一緒に授業をする山本さん

算数の授業について一緒に教員と考える山本さん

小池さん:体育の授業の優先順位の低さを感じていました。体育は、運動に親しむ態度の育成や体力の向上だけでなく、友達と協力することや、ルールを守ることなど、子どもたちの心身の成長にとっても大切な教科です。しかし、ラオスでは教員自身が十分に体育の授業を受けたことがなく、自分自身が経験してきていないために「授業の進め方が分からない」という状況があります。ラオス語や算数の授業に比べると、体育の優先順位は低くなってしまっています。実際に、「暑いから中止」「ハンカチ落としをして終わり」という場面も多く見られました。でも、子どもたちは皆、体を動かすことが大好きでした。「リレー」や「ボール運び」、「台風の目」など日本で行っている活動をすると、子どもたちは夢中になって取り組みました。環境や経験は違いますが、身体を動かして楽しんだり、運動を通して仲間と協力し合ったりすることは共通して楽しいものであり、子どもたちの心身の成長に大切だということを改めて認識しました。

小学校で体育を指導する小池さん

岩田さん:教材が少ない中でも、先生たちが自分たちで工夫して教材を作っていたことは、日本も見習うべきだと思いました。日本では入学時に「算数セット」が配布され、その中には、ブロックやおはじきが入っていて、数の概念を学ぶのに使います。それが当たり前です。しかし、ラオスにはそういった教材は子どもたち一人一人には配れないので、先生がペットボトルのキャップや石を集めて授業に使っていました。難しい課題としては、ラオスでは教員の給与は低いため、放課後に市場で野菜を売るなど、副業をしなければ生活していくのが厳しい状況です。このため、放課後に先生が授業準備をする時間がなかなか取れないという現状があります。

板書もラオス語で指導する岩田さん

美弥子所長:課題はたくさん出てきますが、同時にラオスの教員や子どもの良い部分をしっかり見ていただけたことを嬉しく思います。

●協力隊経験をどのように日本の教育現場に活かしているか

美弥子所長:皆さんが協力隊に参加されて、ラオスで様々な経験をされたかと思います。日本やベトナムの教育現場に戻ってから、どのように活きているでしょうか。今回の対談会で皆さんにお聞きしたかった点です。

永岡さん:「剛柔(強いことと優しいこと)」で考えると、協力隊に参加する前は教員として「剛」の部分が強かったと思います。ですが、ラオスでの活動を通して気持ちにも余裕ができ、「柔」の部分の大切さを学ぶことができました。教員として子どもたちと接するときに、これまでは「次に何をするのか」「どのようにするのか」という答えを、直線で見つけられるように誘導していた部分があったのではないかと反省しています。協力隊を経験して、今では「待つこと」もできるようになりました。また、一度日本を離れることで、日本の教育の良さを改めて認識することもできました。
 現在は、教頭として勤務しています。不登校などの課題もありますが、離島留学プログラムや学び直しの授業などを実施しています。その際には、ラオスの多様性を受け入れるやわらかさを取り入れた学校を作っていきたいと考えています。

ラオス紹介の授業をする永岡さん

山本さん:現在は理科専科の教員として、理科の時間に協力隊での経験について伝えるように努めています。6年生では、理科で「生き物はつながりの中に」という単元があり、食べ物を通して世界や環境とつながっているということを学びます。そのときに、ラオスの食文化の話をすると、子どもは関心をもって聞いてくれます。日本では、鶏肉はスーパーマーケットで買うもので、生きている鶏を背景に感じることはありません。しかし、ラオスでは、自分で飼っている鶏を絞めて、毛をむしって、それから料理をします。このような自給自足で生活をしている様子を、実感をもって話すと、授業内容以上にもっと聞きたい、知りたいという声が多く上がります。卒業生が学校に遊びに来てくれたときにも「あのラオスの話は覚えている」と嬉しそうに話してくれます。世界には日本とは異なる文化や生活がある、世界への多様な視点という「種」を子ども達に植えるように伝えています。また、教員間のコミュニケーションにおいても、相手の価値観・意見を取り入れやすくなったと感じます。

小池さん:帰国後すぐに6年生の担任を務めました。6年生の社会科には国際協力について学ぶ単元があり、その中でJICA海外協力隊について学習します。その際、教科書の内容だけではなく、自分自身がラオスで経験したことや、現地で感じたこと、協力隊員としてどのような思いで活動していたのかなどを子どもたちに直接伝えました。
 また、自分自身の活動だけでなく、同期や先輩・後輩隊員、他国で活動している協力隊員の事例も紹介し、世界各地でさまざまな協力が行われていることも伝えました。実体験を交えながら授業ができることは、協力隊での経験が最も活かされている場面だと感じています。また、現在はホーチミンの日本人学校で教員をしています。日本人学校では、日本とは違う文化の中で生活する中で不安を抱えている子どもたちもいます。自分自身がラオスという異文化の中で生活してきた経験を生かして、異国の地で生活する子どもたちの気持ちに寄り添えるのも、協力隊を経験したからこそできることだと感じています。

ホーチミン日本人学校で教壇について小池さん

岩田さん:現在は、中学校で家庭科を教えていますが、家庭科は生活に関することがすべて学習の対象になります。食の授業ではラオスの食文化を紹介します。特に、私がカブトムシなどの昆虫食を食べる動画をみせると子どもたちはとても驚きます。また、住居の授業では、ラオスの高床式の住居を紹介します。なぜ高床式が良いのかを、自分自身の経験を通じて説明できるのは大きな強みです。私は授業で存分に協力隊の経験を活かしています!
 また、学校の図書コーナーでは、ラオス展を開催しています。日本が協力したラオスの算数の教科書や、伝統的な巻きスカートのシン、ラオスの切手などを並べています。実際にラオスに興味を持つ同僚や子どもが増えており、結果、実際に冬休みにラオスに行った同僚も現れました。

入学式に臨む岩田さん

美弥子さん:自分自身で経験したことを、実感をもって子どもたちに伝えられるのは、協力隊経験者の強みだと思います。また、多くの子どもたちが、ラオスという外国の文化を身近に感じることができるのは、子どもたちにとって視野を広げるよい機会になっていますね。

●協力隊の意義

美弥子所長:JICAでは「環流」という考え方を大切にしています。また、2025年のJICA海外協力隊ラオス派遣60周年では、本日参加いただている山本さんを中心にラオスで活動中の協力隊の皆さんから「 結ぶ、繋ぐ、紡ぐ」というキャッチフレーズを提案していただきました。

永岡さん:近年、日本では閉塞感が強く、昨今の日本情勢を踏まえると、国際協力よりも日本国内のことにもっと目を向けるべきという考え方も理解できます。しかし、子どもたちが他の国に興味を持つことは、思考や判断の力をつけていく大切な土台となると考えています。実際に私も、ラオスから日本を客観的に見て、日本にいるときよりも、日本の現状をよりよく知ることができました。協力隊の意義は、子どもたちがいろいろなことに興味を持ち、進路を選択していくにあたって、教員として私たちがどのようにサポートできるのか、子どもたちの生き方のサポートに貢献することができる、ということだと思います。そして、今でも、ラオスにいる先生、友人とつながっています。これからもこの縁を大切にしていくことで、ラオスと日本の間を「環流」することにつながっていくのではないかと考えています。

ラオスでは剣道も指導していた永岡さん

アジア・オセアニア剣道選手権に参加したラオス人選手と永岡さん

山本さん:協力隊の意義は、 多様な価値観を学べる点にあると考えています。 自分が信じていた固定概念を根本から見直せる、 人としていろいろな引き出しを持って成長できる点が協力隊の意義ではないでしょうか。子どもたちは、いろいろな視野を持ち、自分の価値観を大切にすることができるようになってこそ、自分のアイデンティティを築くことができます。子どもたちを見ていると、口では強がりを言っても、近年、自己肯定感が低い子どもが多くなっているように感じています。また、外国にルーツを持つ子どもも増えてきています。いろいろな背景の子どもたちがいる中で、自分の良さや、人それぞれの良さをお互いに認め合うことのできる素地を育てることは、教育の中でも大切なことです。そのとき、自分の内側だけを見るのではなく、いろいろな視点、広い視野でみるという点で、協力隊の経験は役に立っていると感じています。

小池さん:協力隊経験をもつ 教員としての強みは、「 日本の当たり前は世界の当たり前ではない」ということを、子どもたちに実感をもって伝えることができる点にあると考えます。「学校に毎日通えること」「 勉強ができること」「 安心して帰れる家があることと」「 食事ができること」など、日本では当たり前のように思えることが 、世界では決して当たり前ではありません。子どもたちにラオスでの写真や動画を見せたり、現地の学校や生活の様子について話したりすると、驚かれることも多くあります。協力隊を経験し、実際に見て、感じたからこそ、 教科書では伝えきれないようなことも 子どもたちに伝えることができます。実際、ラオスでは、ラオス人に助けてもらうことも多かったのですが、このような「助け合い」「認め合い」の精神を含め、協力隊での経験を子どもたちの学びにつなげ、世界に目を向けるきっかけをつくることが、協力隊経験をもつ教員としての自分の役割だと考えています。

岩田さん:現在はインターネットなどでいろいろな情報を得られる時代です。しかし、協力隊の経験を通じて、子どもたちが知らないことを、リアリティを持って伝えることができるようになりました。これが協力隊経験の意義だと考えています。中学生は「普通は●●じゃないですか」といいがちです。もしかするとその普通はあなたにとっての普通であって、みんなの普通ではないかもしれないし、場合によっては世界の非常識かもしれないということを伝えることができるようになりました。子どもたちの知っている世界を広げることができるのは協力隊経験者の強みであると考えています。
 また、ラオスで「ボーペンニャン精神」を持つことができるようになったことで、子どもたちとの接し方も変わりました。「ボーペンニャン」は日本語で「大丈夫だよ」「気にしなくていいよ」ということを意味します。ラオスで、相手に対して「ボーペンニャン」という気持ちで接することの大切さが身に付いたことで、子どもたちにもこのような気持ちで接することができるようになりました。時には、実際に子どもたちにポロっと「ボーペンニャン」という言葉が出てしまうこともあります。

子どもたちに絵本の読み聞かせを行う岩田さん

学校の子どもたちと一緒に

美弥子所長:ラオスで身につけた「ボーペンニャン精神」が「心の余裕」につながり、それらが教員とこども、教員間の余裕ある関係性につながっているという話は印象的でした。また、ラオスでの協力隊経験を通し、物事の判断基準や生き方は一つではないと教えることで、子どもたちは、多様な価値観や視野を取り入れ、自分の価値を大事にできる、言葉だけではなく「私って意外といいかも」と、こどもの自己肯定感を高め、他者との違い、他の文化、他国の良さ、そして日本の良さを認めることにつながっているとの話は、現在の日本の教育現場で大きな意味を持つと思います。また、私は、ラオスの地方含めて様々な視察先で、ラオスの人たちから、過去の隊員の名前を教えてもらうことがたくさんあります。このように協力隊の皆さんが築いたラオスの人々との友好関係は、巡り巡って、 日本とラオスの人々の信頼につながっていると思います。日本とラオスの友好関係はもちろんのこと、他国で活躍する協力隊が「人」を通じて、それぞれの派遣国との友好関係を構築し、「認め合い」を広げることで、 ひいては世界全体の平和につながっていくのでは、と信じています。 今日は皆さんと同窓会ができて嬉しかったです。引き続き、日本や世界の教育現場でご活躍ください。

【岩田健太さんの配属先の校長先生からのメッセージをいただきました!】

大賀郷中学校で行った国際理解に関すること

 岩田健太教諭は、ラオスからの本校着任のため、現地からオンラインで面接を行いました。島しょ地区への異動は不安を感じる方が多い中、JICA海外協力隊での経験が自信となっていたようで、私に安心感を与えてくれる面接でした。八丈島には協力隊経験者も多く、定期的に集まって国際理解教育に関する情報交換を行い、視野を広めています。
 学校では、様々な場面を活用して、ラオスでの経験を糧に、国際理解教育を推進しています。図書コーナーに「勝手にラオス展」と称して、ラオスの教科書や絵本、民俗衣装を展示し、身近なラオスの生活を伝えてくれました。担当する家庭科の授業では、ラオスの郷土料理、昆虫食などの食文化や、八丈島にも残る高床式住居や、色鮮やかな民族衣装の実物を披露し、衣食住文化の違いについての理解を深めました。また、道徳の授業では、ラオスではゴミの分別がなく、ポイ捨てのため環境汚染が改善できない現状を伝え、SDGsについて考える導入に繋げました。
 本校は離島という教育環境のため、実体験に基づいたリアル感のある国際理解が進みづらい中、岩田教諭は教職員や生徒にもラオスの魅力を伝えています。中には、大学生になったらラオスに行ってみたいと考える生徒や古都ルアンパバーンの魅力に魅せられた教員もいます。このような地道な取組はラオスについてだけではなく、多くの国々の理解にもつながります。今後も岩田教諭にはJICA海外協力隊での経験を活かし、国際理解教育の推進者としての活躍を期待しています。

八丈町立大賀郷中学校
校長 野田博之

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